デート 3
「この魚は〜…でね……なんだ。」
「そう…です…せん……ね。」
離れたせいで何を言っているか聴こえないが、何かうんちくを語っているような気がする…。
(思ったより大丈夫かな…?)
少し心配をしていたけど、これなら大丈夫そうに思える。遠目だけど花宮ちゃんも楽しそうだし、それに雨宮くんだって……。
「凄く楽しそう………。」
チクリと心臓に針の先端を突きつけられているような感覚に襲われた。雨宮くんがあんな楽しそうに笑っているところはあまり見ない。波長が合っているのだろうか…。
「どこからどう見てもカップルじゃない…。」
ふと、声が漏れてしまう。雨宮くんの事だからきっと私がサポートをしなくちゃなんて思い上がりも甚だしい。
(これは依頼で、あくまで偽の恋人……。)
そう何度でも頭に語り掛けても、心が、気持ちが、それを拒んでいるような…。
もしかしなくてもこのまま付き合ってしまうのではないか…?
そうなったなら、雨宮くんは私の元から去って行くのではないか…? そんな事ばかり頭の中を駆け巡っていく。
ネオンカラーの館内が、丸で私の心を反射して、世界を照らしいるようなそんな錯覚さえしてきた。
もしかしたら、私は邪魔なのかもしれない。ポケットから携帯を取り出し、メッセージを打つ。
「帰るね…。雨宮くんならきっと大丈夫。デート前に私が言った事を守れば平気だよ。」
雨宮くんにはこの数日、デートのいろはを教えてある。それが分かっていれば平気だろう…。
(最低だ…私…。)
勝手に嫉妬して、無責任にデートを仕切って、いざ上手く行きそうならそれを見届けるのが怖くて…。嫌になる。
私は自己嫌悪しながら、水族館を後にした。
「栞からメッセージだ…。なになに、えっ!帰るのかあいつ…。」
確かに今の俺なら香織と上手くデート出来ている気がする。ぶっちゃけ楽しい…。でも、それは栞のお陰に違いはない。あいつがいないと俺は駄目なのだから…。
「むー先輩!別の誰かの事を考えていますね…。」
香織がむくれた表情で咎めてくる。
「ごめんごめん。ちゃんと話は聞いているから…。」
「本当ですか…?どうせ、櫻木先輩の事を考えていたんでしょうけど…。」
「えっ!何で分かったの…?」
俺は驚いて、まったく誤魔化すことなく、香織に聞き返す。
「あっ!やっぱりそうだ!なんとなく分かりますよ。女の勘というやつです。」
ドヤっとした顔が栞にとても似ていて思わず、笑ってしまう。流石に失礼か…。
「羨ましいです。その関係性…。」
先程から変わって、陰りのある表情になる香織はどこか遠くを見つめていて、俺を通して誰かを懐かしむような、そんな気持ちにさせられた。
「さぁー、お昼にしましょう。」
「ああ、そうだな…。」
明るく振る舞う香織に、それを問う程に踏み込むことなんて出来ず、俺は唯、頷くことしか出来なかった。
「美味しかったですね。」
俺達は水族館に併設されたレストランで昼食を取った。
(ずっと思ってたけど、水族館で海鮮系の食べ物ってどうなんだ?)
「この後はどうするんですか?」
香織の顔はワクワクしてしょうがないって感じだ。そう、まだデートは終わらない。
「遊園地に行かないか?」
「遊園地ですか…。」
(あれ、おかしいな…。栞の調べだと、水族館に並んで定番だって話だったんだけど…。)
当然喜ぶと高を括っていた為、思っていたリアクションとの違いに面を食らってしまった。
「御免!別の所にしようか?えっと…。」
慌てて取り繕うも、計画は白紙だ。
(どうする。…!こんな時に栞が居てくれたら…!)
いや、栞が居ないと何も出来ない自分の無力差を嘆いても仕方が無い。今は一刻も……。
「全然平気ですよ!私の方こそ御免なさい!
少し昔の事を思い出していただけなんです。」
「昔の事って?」
踏み込んで大丈夫なのだろうか…。俺にそれに対する責任なんてあるのだろうか…?
「…そうですね。先輩には聞いて欲しいです…。私が依頼した本当の理由を…。」
神妙な顔付きの香織の空気に押され、俺は彼女の過去に踏み込んだ。




