デート 2
雨宮くんは明らかに不安そうな顔つきをしている。この人はもっと堂々とするべきだ。そもそも恋人役なんて好意的に思っている人にしか頼まないだろう。その事を当人はまったくと言っていい程分かっていない…。それが良い所でもあり悪い所でもあるのだ。
…謙遜は傲慢よりもたちが悪いこともある…。
…それを私は身を持って知っているのだから…。
「おい、見ろよ!あの子可愛くね?」
「ほんとだ。マジで可愛い。声掛けちゃう?」
…何だか辺りが騒がしくなってきた…。人が多いからだと思っていたが、それだけではないようだ。
人々の視線の先には見知った顔がキョロキョロとして、やがてこちらを見つめるとちょこちょことした小走りで駆け寄って来た。
「あっ!!せんぱーい!見つけました!」
「…おう…。」
「どうしましたか?先輩?」
「いや、何でもないよ…。」
雨宮くんが言葉を失うのも無理はない。目の前にいるのは天使と見紛うべき女の子なのだから。ピンク色のフリルのミニスカートに白のインナーシャツ、そこに薄黄緑色のカーディガンを合わせたコーディネートだ。まだ春の香りが残っている初夏らしい装いに戸惑う気持ちは分かる。だってめっちゃ可愛いんだもん!!抱き着きたいくらい!!
(…それに比べて今の私の服は…。)
黒のジーパンに灰色のパーカー、顔を隠す程のマスクをして、気付かれないようにという枕詞が付くとは言え、同じ女子としてここまで差があっていいものなのだろうか…?
「どうですか先輩?」
花宮ちゃんはもじもじしながら雨宮くんに問う。その姿が凄く魅力的だ。ちらちらと上目遣いであんな可愛い子に尋ねられたら、大抵の男子はたまらないだろう。
「……っあ!服装ね。そうだったそうだった。いや、凄く似合っているよ。可愛い!」
デートの基本。まずは女の子の服装を褒めるべし。雨宮くんは思い出したようだ。効果てきめん、可愛いと聞いたとたんに、花宮ちゃんの顔がぱぁーと明るくなる。
「有難うござます!良かった〜。頑張って考えたんですよ〜。」
花宮ちゃんがその言葉を聞いてぴょんぴょんと跳ねる。一々仕草が可愛いすぎる。可愛いすぎ天然記念物として管理した方が良いのではないか?…。
…冗談はさておき、内心不安だったのだろう…。それが解消し憂いが晴れたようだった。
「それじゃ、行こうか。」
「はい!今日一日よろしくお願いします!」
二人が駅から出るのに少し離れて、私も後を付けた。
ホームから出ても人通りが多い。目標を見失いように注意しなくては…! 私は付かず離れずの距離感で二人の後を尾行した。
…こうしていると推理ドラマの探偵のなった様で気分が高揚してくる。
(それにしても…人が多いな…。)
この辺は商業施設が立ち並んでいて、休日には多くの人が出入りする。大きなショッピングモールや動物園、さらには遊園地なども近くに配置されているのだから混むのは容易に想像できる。
中でも水族館はデートスポットとして特に学生達からかなりの人気があった。理由としては金銭が大きく関わっているのだろう。私達学生は兎に角、お金がない。その為デートに行こうにも選択肢が限られてくる。だからと言ってショッピングモールは友達と行く人も多く、新鮮味が薄い。となると動物園か水族館の二択になり、雰囲気も加味すると水族館に軍配が挙がるという訳だ。
「うー、混んでる。…あっ!御免なさい。」
前から来た人にもぶつかってしまった。賑やかなのは嫌いではないが、今この瞬間には少し鬱陶しく感じてしまう。
「あっ、もう入口の所に行ってる。早く追い付かないと!」
そうこうしている内に、二人はチケットを買い、中へと入っていった。
「待って〜!私も〜!…あっ、学生1枚でお願いします。」
「はい、…学生1枚ですね。1800円です。」
急いで、私もチケットを買うが、受付のお姉さんに不思議な顔をされてしまった…。
(失礼な!別に休日に一人で水族館に入ってもいいでしょ!)
プンスカしながら、雨宮くん達を追う。
「漸く、静かになったわね…。」
外とは違い、水族館には独特のゆったりとした雰囲気が流れていた。こういうところもカップルにとって都合が良いのだろう。落ち着いた空気の中で恋人と逢瀬を重ねるのは、どの時代でも常だ。それを証明するかのように周りはカップルが多いように感じるし、何やらイチャイチャ度が高い気もする。観ているこっちが恥ずかしくなってしまう。
それは、あの二人も例外ではないのかもしれない。雨宮くん達は水族館に入る前より若干、距離が近いような…。
(ちょっとちょっと!近すぎなんじゃないの!羨まし……いや、弁えなさいよ!)
一人悶々とする私を周りの人達は奇異の眼で観ている。そもそも、こんな格好でこの場所に居るのが目立ってしょうがない。
(二人の会話は気になるけど……。仕方がないわね…。)
人が少ない影響でバレないように私は二人から少し距離を取った。




