乙女の闘い?
「それで、具体的にはどうしたらいいの?」
「そうですね……。」
悩んでるところを見ると特に考えてきてはないのだろう…。ならばこちらから提案させて貰おう。
「その劇の日取りはいつ何なのかな?それに合わせて計画を立てていこう。」
「演劇部の定期公演が二週間後なので逆算すると…、一週間くらい恋人役をして貰えれば、役に落とし込めると思うんですけど…。」
「了解。それにしても凄いな…。花宮さんはそんな短時間で役作りができるのか…。流石は演劇部のエース。」
実際に役作りにどれ程の時間を要するのかは詳しくは知らないが、個人差があるとはいれ、一週間はやはり早い部類だろう。
「いやだな〜先輩。褒めすぎですよ!一週間とは言ってもあくまで恋する女の子の気持ちが分かればですよ。」
「それでも充分すごいよ!花宮さんは天才だ!」
「ええー!そうですか〜!先輩に褒められるのは悪い気はしませんね〜!」
「御二人さん、私もいるのを忘れないで下さいね?」
栞が釘を差した。機嫌が悪いのだろうか…?
声のトーンが一段階低い。何時もなら依頼人の前では猫を被っているのに…。目の前にある無造作に置かれた茶菓子の空き袋が彼女の心情を如実に語っている。
「あまり食べ過ぎると太るぞ?」
「余計なお世話です。私は太らない体質なので大丈夫です。」
不貞腐れた態度でさらにお菓子へと手を伸ばす栞。確かに余計な一言だったかもと反省する。
「えーっ、羨ましいです。私すぐに体型にでるのに!櫻木先輩はやっぱり凄いです。」
「そ、そんな事ないよ…。花宮ちゃんこそ、スッキリした体型じゃない…。」
キラキラとした目で栞に詰め寄る花宮さん。こんな風に人との距離の詰め方が上手いから、色々な人に好かれるのだろう。ていうか栞はぐいぐいと攻める癖に攻められると弱いな…。
「スッキリっていうか色々制限をしているだけですよ。大変なんですよ、これでも。それに先輩と違って出るとこ出てないですし…。」
自らの胸元に目線を移し、ショックを受けている。…コメントがしずらい…。これは男の俺がフォローしていいものなのか…。それに比べて…。
栞の方をチラりと見る。偶然にも俺と花宮さんの視線が一致した。
「うん?」
「やっぱり凄いです…。櫻木先輩…。」
ふと漏れ出した本音に気付いていないようだ。確かにその…栞のは…、凄いの一言だ。
「…?ところで、話しは変わるけどその劇って私達も観に行ってもいいのかな?」
「あっ、はい!是非是非来てください。」
「それは楽しみだな。花宮さんの演技は凄いと評判だからな。俺も糧になるように頑張るよ。」
「………。」
「どうしたの花宮さん?」
急に黙り、考え込む。何か気に障ったのだろうか?
「あの、先輩。その花宮さんって呼ぶの辞めませんか?」
「えっ、それなら何と呼べば……。」
「私の事は香織でいいですよ!先輩になら下の名前で呼ばれても嫌じゃないので!お互い下の名前で呼び合いましょう!」
満面の笑顔でそう宣言する花宮さん。そんな事を言われれば、男なら誰でも勘違いをする。
何て恐ろしいのだ…この娘は。いったいどれだけの男子が死地に赴くことになったのか測りしれない。そして決まってこう言うのだろう。「御免。そんなつもりじゃ無かったんだ〜。〇〇くんの事はいい友達だと思っているよ。」ってね!!
「あの、どうしたんですか?駄目でしたか?」
一人妄想する俺を不思議がりながら、顔を覗く。そういう仕草が勘違いを産むんだ!気づいてくれ!
耳元では散っていったであろう男達の慟哭が木霊していた。
「いや、俺は別に構わないよ。じゃあ香織。」
「はい、俊哉先輩!」
二人の間で交わされる独特の空気感が気恥ずかしい。でも、こういうのも悪くはないな。ちょっぴり照れてしまうが…。
「うーん、それはどうかな?」
いい雰囲気の俺達にカットインしてくる栞。その言葉は酷く重くのしかかってきた。
「あの、櫻木先輩…。何か不味いことでもあったでしょうか?」
恐る恐る尋ねるその声は女の地雷を踏まないようにと細心の注意を窺わせる。
「あ、御免。怒ってる訳じゃないよ。ただ、あくまで恋人役なんだよね?それなのにそんな風に呼び合ったら、周りの人達はどう思うだろう?本当に二人は付き合っているってなるよね?それなのに一週間で別れたら?どうなるんだろう?」
「……何が言いたいんですか?」
「私的には、普通に苗字で呼び合う方が良いと思うな。その方が二人が付き合ってるなんて誤解もされないし。」
「…別に誤解されても構いませんよ…。」
…バチバチに火花が散っているのが俺でもわかるが、この二人初対面じゃないの!何か凄く相性が悪い様な気がするんですが…。
「…まぁー二人共落ち付いて。どうしたんだよらしくないじゃん栞!花み…香織もさっきまで笑顔だったじゃん!」
何とか場を取り繕うように努力する。部室の温度は先程と比べて低くなっている…気がする。
「まぁいいです。ここは俊哉先輩の顔を立てて引いておきます。」
ふー何とかなったのか? 後はこのまま…。
「ですので、俊哉先輩!さっそく今度の休みにデートに行きましょう!」
その宣言は正しく、第二ラウンドのゴングがなるのを告げていた。




