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新大陸の冒険者支援課 ~新大陸での冒険は全て支援課にお任せ!? 受け入れから排除まであなたの冒険を助けます!~  作者: ネコ軍団
第1章 魅惑の新大陸

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第8話 スカベンジャーはどっちだ!?

 振り返ったクレアは不思議そうな顔で首をかしげた。


「えっ!? どうして!?」


 クレアの前に立っているは槍を持ったエリィだった。エリィはクレアに気づかれたのが信じられないといった様子で驚く。彼女はノウレッジに来る前は狩人で、気配を消し静かに獲物に近づくのは得意だったのだ。


「あなたはさっきグレンくんが連れてきた子ですよね……」


 大剣にかけた手を下ろして、クレアが一歩前に踏み出した。にっこりと優しく笑みを浮かべるクレアだったが、エリィは村で狩った一番手強いモンスターよりも、はるかに強く圧倒的な圧力に思わず彼女を遠ざけるために怒鳴る。


「ちっ近寄らないで!!!!!!」

「あら!?」


 なぜ怒鳴られたのかわからず、再び首をかしげるクレアだった。エリィは恐怖を払拭するように大きな声を出し続ける。


「あっあなた死体漁り(スカベンジャー)でしょ! 死体から金品を奪うなんて恥を知りなさい! すぐにみんなが……」


 エリィはやや興奮しように声を張り上げた。死体を前に立っていた彼女を死体を漁るドロボーと勘違いしているようだ。


「何してるんだ?」


 死体が吊るされた木の上から、グレンがエリィに声をかけた。声に反応して木を見上げた、エリィの顔色が青に変わり目を大きく見開いた。


「えっ!? グレンさん!? えっ!? えっ!?」


 エリィは驚いた様子で何度か、クレアとグレンと交互に見て木の上にいるグレンに向かって静かに尋ねる。


「この人は泥棒じゃ……」

「泥棒? 何いってんだ? その人は俺の上司だぞ。手を出すのは構わないが。俺よりもはるかに強いぞ」

「グッグレンさんよりも強い!?」


 静かにエリィはクレアに視線を向けた、目が合うとクレアがニッコリと優しく微笑む。

 クレアは優しい笑顔をエリィにむけているが、丸い青い瞳の奥は冷たくエリィを見つめている。獲物を狙う獣のような殺気のこもった視線にエリィの背筋が凍りついていく。


「ひっ!?」


 よほど怖かったのか、エリィは悲鳴を上げ槍を捨てて両手を上げた。次の瞬間、エリィの視界からクレアが消えた。エリィの背後に現れたクレアが肩に手をかけた。


「あらあら。ひどいですー。私はそんなに怖くないですよー」

「ぎいいいいいいいいいいいいやああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」


 振り向いたエリィは悲鳴を上げ背筋を伸ばし両手をあげ動かなくなった。驚きと恐怖で体が固まってしまったようだ。


「こら! 義姉ちゃん! 新人冒険者をからかうなよ。ほら死体を落とすよ」

「てへ。はーい」


 クレアはいたずらに笑って手をあげてグレンに返事をした。剣を抜いたグレンは男がかかった罠の縄を切った。男は地面に落下してドサッと言う音をたてた。

 クレアは落ちた死体に向かって駆け寄り、グレンは剣をおさめて木から下りてエリィの元へと向かう。


「エリィちゃん! みんなを連れて来たよ! って!? あれ!? この人達は……」


 森の中からキティルが飛び出して来た。彼女の後ろには三人の男女が居てグレン達を見ていた。

 キティルと一緒に来た冒険者のようで。男二人の女性一人。男性の一人は短いサラサラの短い青髪の目が細い男で、青いマントがついた鉄製の鎧を着て腰にきらびやかな装飾が施された剣を指している。

 もう一人の男は丸い体型で、短い茶色の髪に丸い目をしてる。彼は大きな荷物を背負い腰に小さなハンマーをさしていた。

 女性は銀色の長い髪を後ろにまとめた褐色肌の赤い目のエルフで、動きやすい軽装の格好に腰に腕にはめられる爪の生えたナックルをぶら下げている。

 青い髪の男がグレン達の首飾りを見て顔をしかめた。経験が多少のある冒険者ならグレン達がしてる首飾りで、彼らが冒険者ギルドの職員だということが分かる。


「あーあー。俺達が回収できればあの鎧とか売り払えたのによ」

「そうだね。教会に死体を売れたしね」

「まったく余計なことしてくれやがって……」


 三人はかなり大きな声で話している。わざと聞こえるようにグレン達に不満をぶつけているようだ。


「ごめんなさい。これじゃあ私達が死体漁り(スカベンジャー)みたい……」


 小声でエリィがグレンに謝罪した。恥ずかしさからかエリィの頬は赤くそまっていた。彼女の隣でキティルも、頬を赤くして恥ずかしそうにしている。


「いつものことだ。気にするな。冒険者ギルドに登録があれば正当な死体回収で、他のやつらがやれば死体漁り(スカベンジャー)だ。彼らは正当な権利を主張してるにすぎない」

「でも……」


 グレンは小さく首を横に振って笑顔で答え、エリィとキティルは申し訳無さそうにうつむいたままでいる。青い髪の冒険者はグレンを苦々しく睨みつけ舌打ちをする。


「チッ! 何が冒険者支援課だよ。邪魔ばっかりしやがって! 行こうぜ」


 三人は振り向いてその場から離れ、大樹の周囲の開けた場所へ向かっていく。


「本当にごめんなさい。グレンさん」


 自分の仲間の失礼な態度に、エリィは顔を赤くしてまた小声で謝罪した。グレンは謝罪よりもエリィが自分の名前を知ってることに驚く。


「うん!? なんで俺の名前を……」

「冒険者ギルドで呼ばれましたよね? 赤眼の仕置人レッドアイパニッシャーのグレンって!!」


 エリィは目を輝かせて答えた。冒険者ギルドでアレックスをあしらった時に、ダリルに叫ばれたグレンの名をエリィは記憶していたようだ。グレンは恥ずかしそうに頭の後ろを右手でかいた。


「あぁ。ダリル爺ちゃんは声がでかいからな…… もうその名前は忘れてくれ。」

「えぇ!? カッコイイのに!」

「やめて」


 本気で嫌がるグレンにエリィは楽しそうに笑っていた。


「何やってんだい! 早く罠を仕掛けるよ」


 振り返った女性冒険者がキティルとエリィをどやしつけた。


「グレンさん。また」

「またな。えっと……」


 振り返ってエリィが女性冒険者に答えた。すぐに前を向いて右手をあげてエリィがグレンに挨拶する。グレンはエリィの名前を知らずに言葉につまる。


「私はエリィ! この娘はキティルです。じゃあまた」

「えっ!? エリィちゃん! まっ待ってよ」


 ニコッと笑ってエリィは、自分とキティルを手でさして名乗る。すぐに背中を向けて走り去った。

 キティルは慌てて恥ずかしそうに、小さく頭を下げてエリィの後を追っていった。二人を見送ったグレンは振り返って死体の元へと向かう。

 横に寝かせた死体の横で、ハモンドが膝をついて祈りを捧げている。死体は服だけとなり、鎧や持っていた物は外されまとめられていた。

 クレアは死体から少し離れた場所で、下を向きながら木や草を大剣でかき分けている。

 

「義姉ちゃん。何か見つかった?」

「はい。こんなのが……」


 大剣を背中にしまってクレアは、グレンの元へやってきた。クレアはグレンの前で左手を差し出す、彼女の手のひらに紙の切れ端が乗っていた。紙には走り書きで文字が書かれていた。


「なになに…… への鍵は主に食われた…… なんだこれ?」


 紙切れを持ち上げてグレンが読み上げる。文字は前半と先が切り取られ意味はまったくわからない。


「なんでしょうかね。状況から彼のものだと思うんですけどね」

「うーん。まぁいいか。遺品として家族に届けるしかないな。ハモンドくんの祈りが終わったら彼を棺桶に入れよう」

「はーい」


 うなずいてクレアが返事をして、グレンは紙切れを彼女に返す。クレアは落ちていた剣などの死体の遺品の中に紙切れを入れた。少ししてハモンドの祈りが終わると、グレンはベルトにつけている袋から、直径五センチほどの大きな植物の種のような物を取り出した。

 彼が出した植物の種みたいだなのは、簡単死体回収用自動棺桶の種という魔法道具だ。死体の体にこの種を置くと、体に合わせたサイズの棺桶に成長してくれる。出来た棺桶は引っ張るように縄が付きで、風魔法により地面から数センチ浮いて運びやすい。さらに魔法により冷気がでて死体を凍らせて保存までしてくれるのだ。

 グレンが死体の上に簡単死体回収用自動棺桶の種を置いた。種から植物の根のような生えてウネウネと動き死体を包み、黒く色が代わって十字架の黒く光る木製で引っ張るように縄がついた棺桶へと変わった。棺桶の縄をグレンが持ち死体から外した装備はハモンドが抱えて持つ。


「じゃあ帰りましょうか」


 クレアが胸に手をあて、ハモンドも同じようにした。だが、グレンは動かずにジッと黙って大樹の方を見つめている。彼の視線の先には落とし穴を作ってるのか、五人で地面を掘るエリィ達の姿が見えた。


「テオドールオオジカか……」


 グレンがつぶやく。テオドールオオジカは体高三メートルの巨大な鹿の魔物で、昼間は殆ど姿を見せずに、夜になると大樹の周りに頻繁に出没する。オスのテオドールオオジカの角は、薬として重宝されており高値で取引される。罠の大きさからグレンは彼らがテオドールオオジカを狩猟しようとしてると判断したようだ。

 

「先輩。テオドールオオジカがどうかしたんですか?」

「いや初心者が挑むしちゃ大物すぎるからな。ちょっと気になっただけだ。行こうか」

「はい」


 グレンが前を向いた。クレアは彼の表情をみて何か考えて込んでいた。首飾りを使い、ギルドの冒険者支援課へと戻って来た三人。ハモンドが二人に向かって口を開く。


「すぐに教会へ持っていきましょう!」

「みんな疲れてますからお昼ごはんが終わったらにしましょう」


 クレアはハモンドに首を横に振って答える。クレアが休憩を提案するのは当然だ。冒険者の受け入れから支給品の補充と休みなく働いた三人、正午ととっくに過ぎて午後二時を迎えていたのだ。ハモンドは納得がいかない顔をして食い下がる。


「でも急いだ方が……」

「いえ。疲れてるの無理した良い支援はできませんからダメです。お昼ご飯です…… ぐぅぅぅキュルルルーーー」

「えぇ!?」


 ドヤ顔で話していたクレアの腹が大きな音を立てた。顔を真赤にしてクレアは、恥ずかしそうにうつむく。グレンがハモンドの肩に手をかけた。ハモンドが振り向くとグレンが真面目な顔をして立っていた。


「ハモンド君。義姉ちゃんはみんなのためとか言ってたが。自分が腹減っただけだ。だから昼飯を食ってから教会へ行こう。可哀想だろ?」

「グレンくん!!!!!」


 両手を上げてグレンに怒りだしたクレアが向かってくる。素早くグレンはハモンドの肩から手を離し、クレアに向かって舌を出して逃げた。机を挟んで逃げるグレンとクレアが向かいあう。笑ってるグレンを悔しそうにクレアが見ていた。だが、悲しいかな食いしん坊の性か、怒りより空腹に耐えきれなくなった。


「とにかく。お昼ご飯です! ご飯の後に死体を教会へ持っていきます」


 叫ぶように二人に告げると、クレアはさっさと一人で部屋を出ていこうと入り口へ向かう。


「べー! グレンくんのこと嫌いです」

「なんだよ…… 子供(ガキ)かよ」


 クレアはドアを出る直前で、振り向いてグレンに向かって舌を出して部屋を出ていった。

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