第7話 始まり
グレン達が下り立った街道のすぐ脇には透明な赤い数十センチの石の柱が立てられている。これは魔導柱という魔石で作らえた柱で、転送魔法の道標であり首飾りが転送できる場所はこの柱がある場所だ。
三人の目の前に広がるのはテオドールからほど近い大樹の森、文字通りこの森の奥には高い塔のような大樹が生えた森だ。この森の一部を切り開いて街道にしており、森の北側にダコマーという村があるテオドールから北側に移動するためには必ずこの森を通る必要がある。
大樹の森には小型から中型の魔物が徘徊し、薬となるキノコや草が多く、ノウレッジ大陸に来た冒険者の半分くらいはこの森に最初の仕事で訪れることになる。
ちなみにこの森の木と大樹の樹液は、入植初期にテオドールの町を建設した際に利用された。
「まずは入り口脇の支給品ボックスだな」
傷がつけられた木の陰に隠れるように木製の頑丈な宝箱が置かれている。この宝箱が支給品ボックスだ。冒険者達はこの支給品ボックスで不足しがちな傷薬や解毒剤などを自由に補充できる。支給品ボックスは冒険者から要望が多くあるダンジョンや遺跡に設置され冒険者支援課が維持管理している。
グレンは支給品ボックスの前にしゃがむと、首飾りを宝箱に近づける。カチッと音がした。
この宝箱は魔法で封がされておりグレン達が首から下げている首飾りを近づけると鍵が開く。冒険者が支給品ボックスを開ける時は、ギルドで登録した際に渡される冒険者の指輪をかざせば良い。
宝箱の蓋をグレンは上に持ち上げた。中身は冒険者支援課に置いてあった宝箱と同じで格子状に仕切りがあり傷薬や解毒剤などが散乱した状態で置かれていた。
本来は仕切りによってアイテムごとによって分けられていたが、利用者が選別をして戻す際に適当に戻したせいで散乱していた。
「じゃあここに補充品を置いておきますね」
「ありがとう」
リュックを開けてハモンドが支給品ボックスの脇に置く。グレンはリュックから傷薬を取り出して、支給品ボックスに入れていく。作業をしているグレンを、大剣に手をかけてクレアが見守っていた。ふと何かに気づいたクレアがグレンに肩に手をかけた。
「こーら。ちゃんと分けなさい。ぐちゃぐちゃに入れないんですよー」
グレンは適当に傷薬を支給品ボックスにつめていた。
「いいじゃん。どうせ冒険者だって適当に取るよ」
「ダーメ。使いやすくしてあげないと。私達は冒険者支援課なんですから!」
「はいはい」
やる気なく返事をしたグレンだったが、彼はクレアの言う通りアイテムごと仕切りにちゃんと入れ直した。その様子を見たクレアは優しく微笑む。
「うふふ。ありがとう」
「べっ別に俺がそっちの方が良いって思ったからだから…… 行くぞ」
恥ずかしそうに頬を赤くして、グレンはリュックを閉めてベルトを持って背中を向けた。
「はーい。行きましょう」
笑顔でクレアは手を上げグレンに答えたのだった。
三人はその後も大樹の森の支給品ボックスを回った。街道脇にある岩の裏や、流れる小川の近くや、放棄された小屋の中などにある支給品ボックスにアイテムを補充した。
「よし終わり!」
幹の太さが十メートルがある、砦のような大木の根っこ影に置かれた支給品ボックスの蓋を閉めて立ち上がる。カチッと音がして施錠される音がするとクレアとハモンドも安堵の表情を浮かべる。
三人は森の奥にある大樹の根本にある、支給品ボックスに補充し支給品補充の作業を終えた。ここまで森に入ってから数時間が過ぎていた。
「お腹がすきました」
「そうだな。もう昼はとっくに過ぎてるからな」
「帰ったらお昼にしましょう」
支給品ボックスから離れて、大樹の大きな根っこに上に三人が立った。大樹は森が少し開けた場所にあり、数十メートル先に木が茂ってるのが見える。
「うん!? 先輩…… 何かありませんか」
ハモンドが何かを指さした。
彼が指をさした方角に視界を向けたグレン、足を上にして吊るされた人がブラブラと揺れていた。
「あれって……」
「罠にかかった死体みたいですね。行ってみましょうか」
三人は大樹の根から地面に下りて、死体が吊るされている木の近くまでやってきた。
吊るされている死体は黒い短い髪の男性で、頭に矢が突き刺さった状態で頭から血がまだたれている。金属製の胸当てに茶色のズボンを履き、地面には彼のものと思われる剣が突き刺さっていた。
皮膚の様子や装備の汚れから、死後一日も経っていないような状態だと思われる。クレアは死体の手に視線を向ける、死体の薬指に蹄鉄の形をした冒険者の指輪を見つけた。
「冒険者さんの死体ですね。ゾンビやスケルトンになる前に回収しましょう」
クレアが二人に死体の回収を指示した。冒険者支援課が冒険者の死体を見つけた場合は、モンスター化するおそれがあるので速やかに回収し、死体を教会へ持ち込んで供養し、滞在先を引き払って遺族へ連絡を行う必要がある。
ちなみに冒険者が死体を見つけて回収した場合は、ギルドに報告のみで終わりで、死んだ冒険者が持っていた装備と金の一部と報酬としてもらえる。
「わかった。でも…… この森に罠を使う知能を持った魔物なんか居たっけ?」
グレンの質問にクレアは首をかしげた。
「どうでしょうか。魔物じゃなくて行きずりの盗賊かも知れませんよ。その辺は後で情報部に確認してみます。とにかく死体を下ろしましょう」
「わかった」
クレアとハモンドを残してグレンは死体が吊るされた木へと向かう。足場となる場所がないかグレンは、木の様子を見ながら死体が吊るされた木の周りを歩く。
「よし! ここだ。ハモンド君。手伝ってくれ」
「はい」
木の後ろへ回り込んだグレンがハモンドを呼んだ。呼ばれたハモンドが彼の元へと向かう。
ハモンドが木を背後にして立ち手を前にだす、グレンはハモンドの手に右足をかけて持ち上げてもらい木の上へと向かう。残されたクレアは木の死体を不安そうに見つめていた。
「あら…… 誰でしょうか……」
クレアは背後から忍び寄る気配を感る。すっとクレアは背負った大剣に手をかけて振り返るのだった。




