第560話 忍び寄るライバル
洞窟の扉の前にグレン達とマージャとナージャたちが集合していた。グレンの側で並んで立っているポーキーとトーキーにナージャが近づいて口を開く。
「ポーキーちゃんとトーキーちゃんはお留守番よ」
「えっ!? どうしてですか?」
「そうだよ。俺達も手伝わないと……」
驚くポーキーとトーキーにナージャは首を横に振った。
「ダメよ。だってこれは安寧の血からヴァンパイアハンター協会への依頼なの。あなた達は安寧の血の一族でしょ」
「そうか…… しょうがない。グレン達に任せよう」
「うっうん……」
しょんぼりとするポーキーの肩をトーキーが軽く叩く。二人は残念そうにナージャに連れられ扉の前へと移動した。二人に入れ替わるようにしてマージャがグレンの側に立つ。
「私は道案内と監視ですからついて行きます」
「あぁ。わかった」
「ふふふ」
振り向いてマージャに向かってうなずくグレンだった。マージャは頬を赤くして笑顔を向ける。なぜか冷めた目でクレアとララが二人を見ていた。
「じゃあ行こうか。案内してくれ」
「はい……」
グレンが声をかけるとマージャが先導して歩き山道を下りてく。グレン達は彼女に続く。歩き出してすぐにララがマージャに追いつく。隣の来たララ少し驚くマージャだった。ララはうつむいて悲し気にマージャに話しかける。
「マージーじゃなくてマージャだったのね……」
「えっ!? ごめんなさい…… 嘘をつくつもりじゃなかったんです…… ただ人間に名乗るのが怖くて……」
ロックガで出会った時にマージャはララにマージーと名乗っていた。ヴァンパイアだったマージャは人間の本当の名を名乗るが怖かったと弁明する。本当に申し訳ないと言う様子で弁明するマージャに、ララは優しく笑った。
「許すわ。でも…… 今日のご飯のおかずは私のにするけど」
「えぇ!? ずるいですよ」
「へへっ! 嘘ついた罰だよー」
「もう…… フフフ」
笑って舌を出すララにマージャは悔しそうに彼女を見てすぐにほほ笑むのだった。
「ラピー! こっち来て!」
「なんだべか?」
ララは振り向いてラピを呼ぶ。呼ばれたラピは足を速めてララに追いついた。三人は並んで話しながら歩いていく。
「仲良しさんですね」
「そうだな……」
三人の背中を見てクレアは優しくほほ笑む。しばらく歩くとオレンジ色の屋根が並ぶ風景が見えて来る。
「もう少しで着きますよ」
振り向いたマージャが島の奥を指す。麓から山頂まで広がる森の木々の隙間からオレンジ色の屋根をした建物が並ぶ光景が見える。島の奥は岸壁に沿って砦と城壁が築かれている。ただ、城壁や砦は海賊討伐戦によりほとんどが崩れかけていた。
ちなみに山側にある桟橋はクレアが参加した討伐軍が、海賊討伐で破壊された砦に代わり安全に島に上陸できるようにと海賊討伐後に築いた桟橋である
建物を見たクレアはグレンに顔を向け口を開く。
「じゃあ…… ここでちょっと休憩しましょうか。お腹が空きました」
「そうだな。おーい。休憩にしようぜ」
「わーい!」
グレンは一メートルほど先にいる三人に声をかける。ララが振り向いて嬉しそうに返事をした。クレアは道の脇に敷物を敷いて休憩の準備を始めるのだった。
鞄からクレアが水筒や弁当を出して敷物の上に並べる。並んで座り休憩を取る五人。水筒の水を飲んだグレンの視線がクレアの脇に置かれた開かれた鞄に向いた。
「そうだ!」
ハッとしたグレンは何かを思い出しクレアの鞄に右手をつっこみすぐに鞄から手を出した。彼の手には瓶が握られていた。鞄から出した瓶をグレンはマージャへと差し出した。
「これ…… ちょっと飲んでみてくれ……」
差し出された瓶を見たマージャは首をかしげた。瓶には赤く果肉が浮かぶ液体が入っている。
「えっ!? これは?」
「俺達が作ったヴァンパイア用の食事だ」
グレンがマージャに差し出しのは瓶に入ったブリザードトマトジュースだった。
「食事……」
「あぁ。ポーキーとトーキーに飲ませたんだけどな。まずいって言われてよ。他の人の意見も聞いてみたいいんだ」
気まずそうに頭をかきながら答えるグレンを見てマージャがほほ笑む。
「ふふふ。そうですか…… 飲んでみすね」
瓶を受け取り蓋を開けマージャはフローズントマトジュースを飲んだ。瓶から口を離し渋い顔をグレンに向ける。
「まっまずい…… です」
「そうか…… やっぱり改良しないとダメだな……」
「ごっごめんなさい」
まずいと言われ落ち込むグレンに慌てて謝るマージャだった。グレンはまた右手をマージャの前に差し出した。
「えっ!?」
「もういいよ。後は俺が飲むからさ」
グレンはマージャから手に持っていた瓶を取り自分の口に持って行く。一口飲んだグレンは顔をしかめる。マージャは自分が口をつけた瓶に口をつける、グレンを見て顔を真っ赤にする。
「本当にまずいな」
渋い顔をしてマージャに口を開くグレンだった。恥ずかしそうにマージャがグレンに手を伸ばす。
「だっ大丈夫です。私が全部飲みますから!!」
「あっ!?」
グレンから瓶を取り返すマージャ、彼女は即座に瓶を口に持って行きラッパ飲みでフローズントマトジュースを飲み干すのだった。
二人の向かいに座ったクレアは不機嫌そうにやり取りを見つめていた。クレアの横に座るララがニヤリと笑って彼女の耳元でささやく。
「あれって…… 間接キスってやつだよね」
「ララちゃん!! 怒りますよ」
顔を横に向けララを怒るクレアだった。ララは笑って舌を出していた。
飲み干した瓶を両手で持って膝の上におき、顔を真っ赤にして首を横に振るマージャだった。ふと彼女が横を向いた瞬間に動きが止まり何か気づく。
「うん!? グレンさん…… その瓶は?」
マージャが開いたクレアの鞄を見て口を開いた。鞄の口からヴァンパイア用の血清が入った瓶が覗いていた。
「これか? 血清だよ…… どうした?」
尋ねれらたグレンが鞄から覗く血清に視線を向け答えた。
「見せてもらって良いですか?」
「いいよ。ほら!」
グレンは手を伸ばし鞄から血清を出して見せた。両手を瓶に入ったオレンジ色の血清を見てマージャは目を大きく見開いて笑った。
「やっぱり!」
大きな笑顔で嬉しそうに声をあげるマージャだった。
「どっどうした?」
「これ! 私の傷を治してくれたお薬です!」
瓶を指して笑顔で話すマージャだった。グレンは不思議な顔で血清を指さした。
「こっこれが傷に効いたのか?」
「はい。魔法でも薬でも傷がどうしても治らなくて…… お母…… 前族長が町に行って買って来てくれたんです」
両手で大事そうに血清の入った瓶を見つめるマージャだった。
「そうなんだ……」
「でも…… グレンさんがなんでこのお薬を?」
首をかしげて笑顔で尋ねるマージャにグレンは口を開いて答える。
「俺は薬師でもあるんだ。それは…… ヴァンパイアに噛まれた人間に使う血清だ」
「えっ…… 血清……」
「あぁ。そうだ。吸血症とヴァンパイア化から人間に戻すための」
「そっそんな物が私の傷に……」
瓶を近づけまじまじとマージャは中に入った血清をみつめる。グレンはきょとんとした顔で瓶を覗くマージャを見て笑った。
「不思議なもんだな……」
「はっはい…… もしかしたら私が使ったのもグレンさんが作ったのだったりして……」
両手に持った瓶を見つめいたずらに笑うマージャだった。グレンは前を向き小さくうなずいた。
「あぁ。町に出回っているなら俺が作ったもんだと思う…… 今のところ俺とレイナ姉ちゃんしか作れないからな」
「えっ!? そうなんですか…… ふふふ」
前を向いて淡々と答えるグレン、彼の横顔を見つめるマージャだった。頬を赤くして嬉しそうに笑うマージャを冷めた目で見つめるクレアだった。彼女の横からにやりと笑ったいたずらっ子がまた近づく。
「あれは…… 惚れたわね。新たなライバルの誕生よ!」
「ララちゃん!」
「やめるべよ…… ララ……」
怖い顔をして両手をあげるクレアにララはまた舌を出して笑っていた。あきれた顔でラピがララを止めるのだった。




