第559話 条件は二つ
四角い部屋に大きな横に長いテーブルと椅子が並んでいる。マージャ、トーキー、ポーキーの三人が並んで座っている。向かいにはグレン、クレア、ララ、ラピの四人が座っている。
ここは安寧の血の集落の部屋の一つで集会場として利用されていた。
「なるほどですね…… 二人が大変お世話になったです。ありがとうございます」
「いえ…… トーキーさんにも協力してもらいましたから」
クレアの話を聞いて立ち上がり頭を下げるマージャに謙遜するクレアだった。クレアはトーキーとの出会いからポーキーの救出までをマージャに話した。
「それで…… あなた達はどうしてここに来たのです?」
「これです」
首を傾げたマージャにクレアはキティルから預かった契約書を差し出した。自分の前に置かれた契約書を取り目を通す。
「ヴァンパイアハンター協会との安寧の血との同盟ですか……」
顔をあげたマージャにクレアは笑顔でうなずいいた。
「はい。あなた達のノウレッジでの活動を保証します。もちろんこれからの生活は教会が作ったルールにもしたがってもらいます」
クレアは右手を胸に当て穏やか口調で話をしていた。マージャは視線を横に向けトーキーに向けた。
「彼らは信用できます。これは悪い話じゃない…… もう人間に怯えて暮らす必要はなくなります」
マージャと目が合ったトーキーがグレン達を手で指して必死に話をしていた。マージャはトーキーの話を聞いて難しい顔で少し考えてから口を開く。
「さすがに私でもこれは即決できないです…… ちょっと相談するです」
「ナージャさんですか……」
「うん」
うなずいたマージャはポーキーに顔を向けた。
「ポーキーさん。ナージャさんを呼んで来るですよ」
「わかりました」
返事をしたポーキーは席から立ち上がり部屋を出て行った。しばらくして……
「「「!!!!」」」
なんの前触れもなく勢いよく扉が開き女性のヴァンパイアが入って来た。
「いっ!?」
「あらあ!? かわいいじゃない!」
グレンの目の前にヴァンパイアが音もなく近づいていた。不意をつかれたグレンは接近に反応できず女性はヴァンパイアが顔を近づけ覗き込む。
銀色の長い髪に丸くやや垂れた赤色の瞳の目を持ち、鼻はすらっと高く艶やかなピンク色の細長い唇から牙が覗く美人のヴァンパイアだ。グレンは恥ずかしいのか頬を赤くする。
彼女は黒く体の線が出る袖の短い胸元がはだけたワンピースに身を包んでいる。足首まで覆われているが太ももの付け根まで深くスリットが入っており真っ赤な靴が覗く。
「食べちゃおうかしら……」
「えっ!? ちょっ!?」
グレンに足を絡ませた女性が口を大きく上げた。ピンク色の唇からはっきりと牙が覗きグレンの首筋へと近づく。
「えっ!?」
女性は途中で口を閉じてグレンの頭をしっかりとつかみ、目をつむったグレンの唇に女性の唇が近づく。
「!!!!」
グレンと女性の唇が重なる直前、女性は顔を青ざめさせ目を大きく見開き動きを止めた。彼女の背中に光の剣が突きつけられていた。
「わっ私が…… 気づかないなんて……」
「ふふふ。動かないでくださいね」
にんまりと笑って光の剣が伸びた指を伸ばし押し込むクレアだった。女性は額から一筋の冷や汗が垂れていく。
「もっもう…… 冗談よ」
「わかってますよ。でも…… 調子に乗らせると良くないですからね。さっさとグレン君から離れて下さい」
残念そうにする女性にクレアは目が笑ってない笑顔を向け光の剣を押し込む。慌てて女性はグレンにからめた足を離し彼の首筋から口をはなして閉じる。
「ふぅ…… ひでえ目にあったぜ……」
「本当ですか? なんか嬉しそうに見えましたけど……」
「そっそんなことない!」
腕を組んで不服そうに口を尖らせ、疑うような視線をグレンに向けるクレアだった。グレンは必死に否定するのだった。
二人のやり取りを見ていた女性がにんまりと笑った。
「あら!? 彼女? 超きつそうじゃん? どうあたしはいつでも空いてるわ…… ヒッ!!」
「ふふふ」
女性の頬の横を細長い光の剣が伸びっていた。剣の根元ではクレアが殺意のこもったほほ笑みを女性に向けていた。
「お母様! もう…… やめるですよ。恥ずかしいですよ」
「なによ…… まだまだお母さんだって……」
「いいから座って!」
「ぶぅ……」
顔を真っ赤にして恥ずかしそうにマージャが叫び、女性の肩をつかんで自分の隣に連れて行き座らせる。女性が座ると部屋にポーキーが戻って来る。
「はあはあ…… ナージャ様…… 一人で行かないでください」
「えぇ。ポーキーちゃんが遅いんだよ」
扉の前でポーキーは肩で息をして膝に両手をついている。女性はいたずらに笑って舌を出していた。
「マージャさん…… こちらは?」
困った顔でクレアが手で女性を指してマージャに尋ねる。尋ねられたマージャではなく女性が答える。
「私はナージャ! 安寧の血の前族長で現族長の母よ…… 今は隠居中だけどね」
右手を胸に当てグレンに顔を向けウインクして答える女性。彼女はマージャの母親で名前はナージャという。ナージャはマージャが療養中は族長の代理を務めていた。安寧の血が族長不在でもノウレッジで生きていけたのはナージャの力が大きい。
「ふーん…… 同盟ねぇ。あんたはどうしたいの?」
契約書を見たナージャは顔を横に向けナージャに尋ねる。
「良い話だと思うです……」
「そう……」
マージャの返答にナージャはクレア達へ視線を向け口を開く。
「ねえ? 私達の安全ってあなたたちだけで保証してくれるの? それだけじゃ不安だわ」
「この同盟は聖女オフィーリア様からは許可をもらってます。サインをもらってから三日後聖女オフィーリアが仲介人としてノウレッジ全域に通達されます」
「わかった…… なら平気そうね」
「よし…… なら……」
クレアの答えにナージャは大きくうなずいた。彼女の様子にグレンとクレアは顔を見合わせて笑顔になった。クレアたちの様子を見てナージャが真剣な表情で口を開く。
「でも…… 待って…… マージャ…… 良い?」
「そうですね……」
「よし」
横を向いたナージャはマージャに耳打ちをした。マージャが同意するとナージャは顔をクレアとグレンに向けた。
「同盟に同意にするにはこれじゃ足りないの。いくつか条件を追加してほしいの」
「条件ですか?」
クレアの問いかけにナージャは大きくうなずいた。
「うん…… まず。安全はもちろん食糧を提供してほしいの」
「食糧…… って血ですよね?」
「もちろん。この集落では魚を獲って生き血を集めているのよ…… でもこの湖は冬になると荒れて漁が不安定になるのよ」
安寧の血の集落ではロックガン湖に漁に出て魚を捕まえ血を採取していた。しかし、冬になるとロックガン湖は荒れ漁獲量が安定しないという。
トーキーがクレアとナージャの話を聞いて口を開く。
「それなら俺達が作ったブリザードトマトのやつをここに…… 味は改良してほしいがな」
「ですね。食糧の手配もします」
笑顔でうなずくクレアだった。ナージャとマージャは安堵の表情を浮かべいた。クレアは二人の様子を見て期待した目を二人を見た。
「じゃあ…… これで」
「いえ…… まだよ! 最後に…… もう一つ…… 私達の今の問題を解決してほしいわ」
「問題ですか?」
「うん」
うなずくナージャだった。彼女はもう一つの条件として、集落の問題を一つ解決してほしいという。ナージャは少し間を開けてからグレン達に顔を向けて答える。
「砦の亡霊退治よ!」
「えっ!? ぼっ亡霊ですって!!」
亡霊と聞いたララが声をあげた。ナージャはララの反応を見てニヤリと笑う。
「そう。この島の奥にある砦に出ると言われる海賊の亡霊よ。調査して退治して……」
「わかりました…… 良いですね。グレン君」
「おう!」
グレンとクレアは顔を見合わせてうなずいた。




