第558話 安寧の血の族長
両脇の木々から木漏れ日が差す、小鳥がさえずる静かな山道。
幅の狭い道の中央でラッキーは一枚の紙を懐から出して、二人に見せ首を横に振る。ポーキーとトーキーのラッキーが差し出した紙をジッと見つめた。ラッキーは申し訳なげに二人に口を開く。
「にっ逃げた…… 暇だからロックガの町に行くって……」
「「はああああああああああああああああああああああああああああ!!?!?!?!?!?!?」」
トーキーとポーキーが同時に声をあげた。ラッキーが二人に差し出したのはマージャの置手紙だった。そこには元気になったから町に行くと記してあった。
困惑した表情でポーキーが口を開いた。
「どういうこと? マージャ様は怪我してたんじゃないの?」
「あぁ。それはね…… ロックガで流行ってた薬を試しに使ったら一発で治ったんだ」
「はあ…… だから勝手に出かけたの…… もう!!!」
叫びながら首を横に振るポーキーだった。ラッキーがポーキーを見ながら答える。
「治療中も元気になったら町を見たいってずっと言ってたからね……」
「もう…… マージャ様は…… なにやってんだよ……」
ぼやいたトーキーは振り向いてグレンとクレアに口を開く。
「グレン、クレア、ロックガに戻ろう。族長を探さないと……」
「わかった…… 船はないからな」
「飛んで行くしかないですね」
視線を上に向けるグレンとクレアだった。グレンが上空から何かが近づいて来ているのに気づいた。
「うん!? あそこ……」
「あれは……」
グレンが上空を指す全員の視線が彼の指先に向かう。小さな人が空をとんでグレン達に近づいて来ているのが見えた。ぼやけていた小さな人はグレンたちの上空に人が近づきはっきりと見える。
銀色の長い髪の少女が風呂敷を首にかけてグレン達の上に浮かんでいた。
「あっ! トーキーさんにポーキーさん! 無事だったんだね。よかった」
少女はトーキーとポーキーを見て笑顔で手を振って地上へと下りてきた。下りて来た少女にラッキーが口を開いた。
「マージャ様! どこへ行ってたんですか」
飛んで来た少女は安寧の血の族長マージャだった。マージャはラッキーに向かって首を傾げた。
「えっ!? ロックガですよ。お手紙を書いてましたよね?」
「だからって…… 一人では危険です」
「大丈夫よ。もう元気だから」
腕を曲げ化がげるようにして元気だとアピールするマージャだった。彼女の興味を持ったララが体を傾け前を覗き込むようにしてマージャを見た。マージャを見たララが目を大きく見開いた。
「マージーじゃない!」
「ララ!?」
声をあげるララにマージャが気づく。横に居たラピがララに向かって首をかしげた。
「知り合いだべか?」
「さっき話したでしょ? ロックガの広場で会った子よ」
ラピに答えるララだった。マージャはロックガの路地裏で会ったマージーだった。マージャはララから視線を外しグレン達を見た。
「彼女が一緒だということは…… こちらの方々は……」
「はい。ヴァンパイアハンター協会の人たちです」
トーキーがマージャに答えた。クレアが一歩前に出て彼女に頭を下げる。
「初めまして…… ヴァンパイアハンター協会のクレアと申します。今日はお話があってきました」
「えっ…… 話って……」
ヴァンパイアハンター協会と聞いた、マージャは怯えた視線をトーキーに向けた。トーキーは笑顔で力強くうなずいた。ララは笑ってラピとグレンとクレアは真顔でマージャを見ていた。
「大丈夫です。彼らとはウォルフ討伐で協力をさせてもらってます」
「でも人間を村に…… でっでも、トーキー君が言うなら……」
不安そうにするマージャだったが自信に満ちたトーキーの顔を見て小さくうなずいた。彼女はグレンとクレアに笑顔を向け口を開く。
「わかりました。こちらへ! 安寧の血の集落に案内します」
体を横にして山道の先を指すマージャだった。グレン達は山道を下りて安寧の血の集落へと向かうのだった。マージャの先導でグレン達は山を下りて行く。山道は大きく蛇行しながら徐々に下へと向かって行く。やがて大きく鋭くカーブした道の先に近づくとマージャが立ち止まった。
「ここです」
「えっ!? ここ?」
止まったマージャが振り向いてグレン達に口を開いた。ララが驚きの声をあげた。
「はい。これで」
「あっ扉なんだ……」
マージャの前に扉があって彼女が押すと静かに開いた。扉は金属で幅は一メートルほどで磨かれて周囲の風景が映っており近づかないと扉だと認識するのは難しかった。マージャが扉を開け中へ入り皆が続く。開かれた扉を見てクレアがつぶやく。
「山の中腹にこんな扉…… 前に来た時はありませんでした」
「そうなんだ…… 見づらいから見落としたとこじゃなくて?」
「はい。ちょうどここに討伐隊のベースキャンプがあったんです。さらに周囲を先遣隊がしらべているはずですからね」
以前に訪れた時になかった扉に首をかしげるクレアだった。動かないクレアとグレンにララが気づき振り向き声をかける。
「クレア! グレン! 置いて行くわよ!」
「おっ待ってくれ! ほらクレア義姉ちゃん。行こうぜ」
「はっはい!」
クレアはグレンに手を引かれ扉の中へと入るのだった。扉の奥は石作りの廊下でひんやりとして少し湿った空気が漂っていた。廊下の天井は高さ二メートルほど幅は一メートルほどで狭い。マージャたちが用意したのか松明が掲げられるが薄暗い。
二十メートルほど廊下を進むと廊下から広い空間に出た。空間は高い天井のドーム型で、壁にはいくつもの扉がある。扉は地面に面して並んだ扉と、五メートルほどの高さに壁に沿って作られた円形の廊下に沿って扉に別れている。中央には水が枯れた円形の噴水がある。
「広い……」
「んだな」
高い天井を見上げるララとラピだった。先頭のマージャが立ち止まり振り向いた。
「安寧の血の集落へようこそです」
体を横に向けグレン達にほほ笑み手で奥を指すマージャだった。
「じゃあ僕は皆に族長が帰ったって知らせてくる」
「お願いします。みなさんはこちらへ」
ラッキーは走って去って行った。マージャはグレン達を連れ奥へと進むのだった。
「マージャ様ー! お帰りなさい!」
「ただいまー!」
枯れた噴水に近づくとそばで遊んでいた五歳くらいの五人の子供がマージャを見つけ駆け寄って来た。彼女は元気に返事をすると駆けて来た子供たちを迎える。子供たちは彼女の周囲に集まった。一番小さな女の子が彼女に抱き着く。
「ロックガは大きかった?」
「うん。今度内緒で連れて行きますよ」
「わーい」
笑顔でうなずいて自分の腰の辺りに抱き着いて来た、女の子の質問に答えるマージャだった。横に立っていた男の子が続いてマージャに話しかける。
「体は大丈夫?」
「うん…… ありがとう。もう大丈夫ですよ! ほら」
「わー!」
女の子を持ったまま立ち上がって見せるマージャだった。すぐにしゃがむとマージャの斜め後ろにいた女の子が口を開く。
「お土産はー?」
「そうでした! ありますよ! これです」
マージャは背負っていた風呂敷を外して地面に置いて広げる。
「お菓子だ!」
「わーい!」
風呂敷の中にはキャンディやクッキーや飴などの菓子が入っていた。子供たちあ目を輝かせる。
「みんなで仲良く分けるんですよ。じゃあお仕事だから! また後でね」
「うん ありがとう! マージャ様!」
マージャは立ち上がって手を振って子供たちと別れグレン達の元へと戻って来た。
「ふふふ…… 子供はかわいいですね」
「あの子たちもヴァンパイアだべか?」
ラピの質問に振り向いたマージャは振り向いて子供たちに目を向け、寂しそうに彼女はラピの質問に答える。
「半分は私達の子供ですが…… 残り半分はここに捨てれらた孤児ですよ」
「えっ!? ここに捨てられるべか?」
驚くラピに近くにいて同じように子供を見ていたクレアが答える。
「ロックガは大きい町ですからね。貧民街や娼館も多いんです。そういうところだと望まれない子が生まれるんですよ」
「食い扶持を減らすためとかでな…… あいつらも取り締まっているみたいだけど減らねえな……」
「はい。神聖騎士団の目を逃れるのに…… 呪われた島はちょうどいいみたいです」
小さくうなずくマージャは子供たちをジッと見つめ手を叩いた。
「さぁ! 行きましょうか…… こちらです」
マージャはグレン達に声をかけ歩き出すのだった。




