第556話 路地裏の少女
ロックガ川はロックガの町を縦断し支流がロックガン湖へと伸びている。ロックガ川の河口には巨大な港があり漁船やロックガン湖にある島へと向かう船が行き交っている。
倉庫のような巨大な石作りの建物が並ぶ、ロックガの港近くの路地裏…… 港の喧騒がわずかに届く円形の井戸がある広場に一人の少女が木箱に腰かけていた。
「うーん……」
両手をあげ目をつむり上を向く少女だった。彼女は銀色の長い髪に赤い瞳の丸く大きな目をしたかわいらしい少女だ。十歳前後に見える少女だが、ピンク色のぷっくりとした丸みを帯びた唇が色気を漂わせていた。彼女はふくらはぎまでの長いブーツに太ももの上までの短い丈白いスカートに黒のシャツを着て、右耳の後ろにバラの花飾りと胸元には赤い宝石がついた首飾りを下げていた。
「涼しくて気持ちいいです。お土産も買ったし早く帰らないとですねぇ」
広場は日差しが高い港の倉庫に阻まれ届かず日陰になっていた。また、井戸の水により気温が低く保たれていた。
「うぅ。すこし寒いわね……」
「ふぇ!?」
声が聞こえ驚いた顔で振り向く少女だった。
「あら!? あんた何しているの?」
路地からララが両腕を体の前で交差させ肘の辺りを手でさすりながら、広場へ一人で入って来た。彼女は木箱に座る少女に気づいて声をかける。ララは木箱に一人で座っている少女が迷子だと思い心配したようだ。少女は声をかけられ驚き勢いよくララに顔を向ける。
「ふぇ!? 私は座って休んでいるんです」
「そうなんだ? 私も隣に座って良い?」
「ふぇぇ!? どうぞ」
「ありがとう」
少女は横にそれてララのために木箱のスペースを空けた。ララは笑顔で礼を言うと少女の隣に座った。木箱に腰かけたララは右手を女性に差し出した。
「私はララ! あなたは?」
「わっ私は…… マージーです……」
「よろしく!」
右手を差し出して名乗るララだった。少女はマージーと名乗り握手をした。マージーと握手したララは目を大きく見開く。
「わっ!? 手が冷たいねぇ。大丈夫?」
「ふええ!? 平気ですよ」
慌てて手を離すマージーだった。ララは首をかしげクロスにかけているベルトと服の間に手を突っ込んだ。
「えっと…… はい! これあげる!」
ララはベルトの間から手を出すと小さな布の包みを握っていた。手のひらに包を乗せララはマージーの前に差し出した。包を受け取ったマージーは首をかしげた。
「ふえ!? これは……」
「私の友達がおやつにって焼いてくれたクッキーよ。美味しいわよ」
「あっありがとう……」
布の包の中はクッキーだった。出発前にクロースが焼いておやつ用に持たせてくれたのだ。笑顔でマージーは包を開ける。布の包の中には三枚のクッキーが入っていた。マージーはクッキーを手に取り口へ運ぶ。
「ふえええ! 美味しいです!」
「でしょう……」
一口食べて笑って喜ぶマージーだった。ララは笑顔で大きくうなずいた。直後に彼女の目は一点に固定され凝視する。
「ふぇ!?」
「ジーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
ララはクッキーを黙ってジッと見つめ口の端からよだれが垂れそうになっていた。マージーは彼女の視線に気づきクッキーを彼女の方に差し出した。
「一緒に食べましょう」
「いいの? わーい。ありがとう」
右手を伸ばしてララはクッキー一枚を取って口に運ぶ。二人は並んでクッキーを食べたのだった。
「最後は半分です…… あっ!?」
マージーはクッキーを半分にしようと割った。しかし、うまく割れずに大きいのと小さいのと二つになってしまった。
「こっち!」
「ふぇ!?」
ララはニコッとほほ笑み小さい方をマージーの手から取った。驚くマージーにララは小さいクッキーを頬張りながら答える。
「だって私の方がお姉ちゃんみたいだかね。お姉ちゃんは下の子に優しいのよ」
「ふえええ…… ありがとうございます」
得意げに答えるララにマージーはどこか不満げにしていた。彼女は大きなクッキーを口へと運ぶ。クッキーを食べるマージーを見てララは満足そうに見ていた。ララがハッとして何かを思い出したような顔をした。
「あっ! そうだ!」
ララはまたベルトの隙間に手を突っ込んで小さな革袋を取り出した。袋を開けたララは指を突っ込み袋の中から、黄色の小さな丸い飴玉を取り出しマージーに渡す。
「こっちも美味しいわよ」
「ふえ!? わーい。コロコロ……」
黄色い飴玉をマージーは口に放り込んだ。笑顔だったマージーの顔をしかめ青ざめていく。
「ぶえええええええええええ!!!」
声をあげるマージーだった。飴玉を思わずはきだしそうになるのを、マージーは口を押えて必死に耐えていた。
「なっなんですか!? これ!!! まずいー!!!」
「魔法丸を飴玉にしてみたんだけど…… うーん。おかしいな。味を調整してみたのに……」
「げっほ! げっほ! みっ水」
咳き込みながら水を求めるマージーだった。ララは彼女の背中に手を回し右手を井戸へと伸ばした。
「ごめんね…… はっ!!」
「えっ!?」
ララの指を前に倒すように動かすと滑車が回転し、桶が井戸の中へと下りていった。すぐにまた滑車が回って水が入った桶が上がって来た。桶が浮かんでゆっくりとマージーの元へ向かって来た。
「はい。お水」
「ゴクゴク……」
「えっ!? ちょっと意外と豪快ね……」
前の前に来た桶を両手で持ったマージーは豪快の桶を斜めに傾け水をがぶ飲みする。
「プハーーーーーーー!!! ひどいですよ! ララ!」
「ごっごめんって……」
水を飲み干すとララに向かって怒った顔を向けるマージーだった。ララはマージーの迫力に必死に謝るのだった。
腕を組み不満そうにそっぽを向くマージーだった。
「もう……」
「ごめんね…… あっ! これ戻さないと」
木箱の上に置かれた桶に右手を向けるララだった。桶は浮かんで静かに井戸へと戻っていく。
「あんなこと…… あなたは何者なの?」
戻っていく桶を見つめ首をかしげマージーが尋ねる。マージーの問いかけにララは待って居ましたというように、にんまりをほほ笑み胸を張って答えた。
「私? 私はヴァンパイアハンター…… 見習いののララよ!」
胸を張って見習いの部分を小声にして得意げに話すララだった。彼女の言葉にマージーはまん丸でクリっとした目をさらに丸くする。
「ふえええ!? どっどうしてここが…… でも……」
「どっどうしたの?」
自分を見て顔を青ざめさせるマージーに困惑するララだった。
「おーい。ララ! どこ行った?」
「グレン!? こっち!」
路地からグレンの声がしてララが返事をした。すぐにグレンが広場に姿を現した。グレンは木箱に座るララを見て顔をしかめる。
「もう勝手にどっかいくな」
「だってつまんないんだもん……」
「しょうがねえな。すぐに船の手配が出来るから戻るぞ」
ララに近づきながら手を出すグレンだった。ララは向かって来るグレンに口を開く。
「ちょっと待って! あのね友達が…… あれ!?」
「どうした?」
横を向いたララが驚き困惑の表情をした。
「あの子? どこに?」
「どうした? 誰かいたのか?」
ララが話す様子からグレンは木箱に誰かいたのか尋ねる。ララは寂しそうに小さくうなずく。
「うん…… マージー…… どこ行ったのかしら?」
「そうか。家に帰ったんだろ? ほら行こうぜ」
「うっうん……」
心配そうにするララにグレンが行こうと声をかける。ララは小さくうなずいたのだった。グレン達は港からロックガン湖へと向かうのだった。




