第552話 目覚めたヴァンパイア
扉を開けクレアは部屋へと戻った。ポーキーはまだ目覚めておらず、うつむいて座ったまま静かに寝ていた。グレンとポーキーは彼の前に立って、二人の後ろでララとラピが心配そうに見つめいた。
クレアが部屋に入るとグレンが振り向い右手をあげた。クレアもポーキーの前へと歩いて来た。ポーキーの前に立ったクレアはかがんで彼の顔を覗き込む。ポーキーは苔から顔だけが出て穏やかに寝息を立てていた。
「まだ目が覚めないみたいですね」
「そうだな…… よーし…… クレア義姉ちゃんも帰って来たし眠り苔を外すか……」
グレンが手を叩いて苔を外そうと提案した。彼の言葉を聞いたララが嫌そうな顔をする。
「えぇ!? せっかく面倒見たのに……」
「なんだ? だったらララに眠り苔を移してやろうか?」
「なっ!? はっ!? もしかしてグレンは私を眠らせて色々なことを…… いや! やめて!」
大げさに胸とスカートの裾を手で押さえ、わざとらしく怯えた顔をするララだった。グレンは彼女の行動に顔をしかめた。
「気持ち悪りいこと言うなよ…… だいたいララは寝てても寝相が悪くてうるせえだろ」
「なっなによ! グレンのくせに! 嫌い! べーー!!」
両手をあげ怒って舌を出すララだった。クレアは二人を見て笑っていた。
「よし…… トーキー! 俺達は手をださない。何かあったらまずお前が対処しろ…… いいな?」
「わかった」
返事をしたトーキーにグレンは小さくうなずいた。ポーキーが目覚めた際にトーキーが手に負えない時はグレンは彼に代わってポーキーを始末するつもりなのだ。
「ララ、ラピ、お前たちは少し下がってろ」
「んだ! 行くべラピ」
「わかったわよ……」
下がれと言われ素直に了承するラピ、ララは少し不満げに返事をした。二人はポーキーから離れ扉の前まで移動した。
「じゃあ行くぞ」
グレンが声をかけるとトーキーとクレアはうなずいた。グレンはポーキーの前に立って彼に左手を向けた。グレンの手が緑色に光りだしポーキーを照らす。ポーキーを覆っていた苔が徐々に消えて行った。
「うがががが…… ああああああああああああああああああああ!!!」
苔がなくなると静かに座っていた、ポーキーはカッと目を見開き目覚め胸を押さえ苦しみだした。ポーキーの目は赤く光っている。横にいたトーキーがしゃがんで慌てて彼の肩を支える。
「ポーキー! どうした!? 大丈夫か?」
「ががが! うわああ!!!」
トーキーにつかみかかるポーキーだった。暴れるポーキーにグレンとクレアが身構えた。トーキーは二人に気づいて必死に彼に呼びかける。
「ポーキー! やめろ! 俺だ! トーキーだ! しっかりしろ!」
「あっ!!!」
目を大きく見開いたポーキーはトーキーに視線を向けた。トーキーの顔を赤く光ったポーキーの目の光がゆらめいていく。目から光が消えむき出しなっていた口元の牙が引っ込んだ。
「トットーキー!! どうして…… 僕は……」
「よかった…… よかったな……」
ポーキーは暴走を止め意識を取り戻した。トーキーは目に涙を溜め笑うと彼を抱きしめたのだった。グレンとクレアは顔見合せて笑顔でうなずく。ララとラピも嬉しそうに笑っていた。
「そうか…… 僕は暴走して人間を……」
「あぁ。でも、周囲の動物や魔物を狩られて仕向けられたんだ……」
落ち着いたポーキーにトーキーは彼に何があったのか話した。自分が暴走し人を襲っていたとトーキーから聞いた、ポーキーは落ち込み肩を落とすのだった。トーキーは落ち込む彼に励ましの声をかけていた。
「それでここは…… それに彼らは……」
顔を上げて周囲を見渡したポーキーがトーキーに顔を向け尋ねる。クレアは優しくほほ笑み口を開く。
「ヴァンパイアハンター協会ですよ」
「えっ!? じゃあ…… 僕は…… これから……」
ここがヴァンパイアハンター協会であると聞き、顔を青ざめさせ怯えるポーキーだった。グレンは怯える彼を見ていたずらに笑った。
「あぁ…… もちろんな。ヴァンパイアは排除だ」
「ひい!!」
「わっ!?」
腰にさした剣にグレンが手を持って行く。悲鳴をあげたポーキーがトーキーに抱き着いた。巨体のポーキーに抱き着かれ耐え切れずに押し潰されてしまった。
「でっでも…… 僕は人間を襲ったし…… 覚悟は……」
声を震わせるトーキーだった。押し倒されトーキーはポーキーの巨体からなんとか顔を出しグレンを怪訝な表情で見た。
「おい! グレン! ポーキーをからかうな」
「そうですよ! グレン君! 悪い子です!」
「えっ!?」
腕をついて体を起こしポーキーは目を見開き振り向いた。グレンはポーキーと目があうと右手を剣からはなして笑った。
「はははっ。悪い悪い。じゃあ協会長にあってもらおうか。ララ、ラピ! キティルを呼んで来てくれ」
「んだ! 行くべララ」
「うん」
返事をしたララとラピはグレンの指示に従ってキティルを呼びに部屋から出て行く。ポーキーは安堵の表情を浮かべた。
「ほっ! よかったあああああ」
「うわあああああああああああああああ!!」
安心したポーキーは体の力抜け床にへたり込んだ。同時にトーキーがまた彼に押しつぶされて声を上げていた。
「ポッポーキー…… どいてくれ…… 重い……」
「あぁ!? ごっごめん!」
トーキーの声を聞いて慌ててポーキーは体を起こして立ち上がった。トーキーは彼に続いて立ち上がった。トーキーは首を押さえてポーキーに視線を向けた。
「ふぅ…… 死ぬかと思ったぞ。少しやせろよ」
「大丈夫だよ。僕たちは太陽に焼かれるか心臓をつぶされないと死なないだろ!」
「いた! ったく…… まぁでも…… そうだな……」
笑ったポーキーはトーキーの背中を勢いよく叩き。痛がりながらトーキーも笑っていた。少しして扉が開いてララとラピが戻って来た。
扉を開けた状態でラピが手招きをした。
「キティルが部屋に連れて来いってさ! なんか手が離せないみたい」
「えっ!? あぁ。わかった」
グレンが右手を上げて返事をするララがラピの横から顔を出した。
「急いで! クロースがお茶とケーキを用意しててみんなの分もあるって!」
「えっ!? 行きますよ! みんな」
「はい!」
クレアが皆に急ぐように言うと、手を上げ真っ先に返事をするポーキーだった。クレアとララとポーキーの三人は連れ立ってキティルの部屋へと向かうのだった。扉を押さえているラピは三人を見て唖然としていた。
「ポーキー…… はぁ!」
首を横に振りポーキーが出て行った扉を見つめるため息をつくトーキーだった。
「良いじゃねえか…… もうすっかりなじんでやがる」
「まあな…… はぁ……」
グレンがトーキーの背中を軽く叩いた。
「ヴァンパイアも飯に喜ぶんだな……」
「いやあいつだけだ…… 血以外でも太るヴァンパイアなんてな……」
「ははっ……」
あきれて笑うトーキーにグレンは苦笑いをするのだった。
「ほら! 俺達も行くぞ」
扉を指して行こうというグレンにトーキーは小さくうなずいた。グレンはトーキーとラピを連れキティルの部屋へ向かうクレア達を追いかける。
グレン達はキティルの執務室へやってきた。ソファにポーキーとトーキーが腰かけ、向かいにクロースが居て二人を見つめていた。ララとラピとクレアは二人の後ろに立っている。
テーブルには人数分の茶と大皿に山盛りのクッキーが用意されていた。
「キティル! 皆さん揃いましたよ」
「ちょっちょっと待って! もう少し!」
書類をかきながら右手を左手を前に出して待ってくれと言うキティルだった。
「しょうがないですわね…… あら!?」
キティルの返事を聞きクロースは視線をテーブルへ向ける。彼女の視線に身を乗り出し、今にも食いつきそうなポーキーとよだれを垂らすクレアとララの姿が映ったのだった。




