第550話 ヴァンパイア用の料理
実験室の作業台の置かれた三脚の上に置かれた鍋。三脚の下には鉄皿に火の魔石が置かれ炎が上がっている。鍋の中には水とブリザードトマトにヴァンパイア用の血清が入っている。作業台の上には魔石が入ったケースやフラスコなど実験器具が並んでいる。
「沸騰してトマトが柔らかくなったら崩してください。その方が飲みやすいと思うので」
「わかりました……」
火にかけられた鍋を見ながら、ローキンスに指示を出すダグオンだった。二人が真剣に作業をしている様子を見ながらクローディアはほほ笑み振り向いた。
「出来るまで時間がかかるわね。あたしたちは邪魔にならないとこで休憩でもしましょう」
グレンとクレアが彼女の提案にうなずいた。トーキーは自分の胸に手を置いて首を横に振り真剣な表情でクローディアに口を開く。
「俺は…… 近くで見ていたい。俺達用の飯だからな」
「良いわよ。でも、作業台には手を出さないでね。教授がうるさいから」
「わっわかった」
作業台を指して笑顔で答えるクローディアにトーキーはうなずいた返事をした。暴走したヴァンパイアの用の食事が出来るまで、グレンとクレアは壁に置かれた椅子に腰かけて待っていた。クローディアは雑用をこなしトーキーは作業台で自分達用の食事が出来るまで見つめていた。
ローキンスはダグオンの指示に従い、鍋にへらを突っ込みブリザードトマトをつぶす。へらを鍋から出したローキンスは顔を横に向け難しい顔をする。
「うーん。少しトマトの皮が固くて潰しづらいですね……」
「わかりました。成功したらグレゴリウスさんに相談しましょう」
ダグオンはローキンスにうなずいて返事をし鍋に視線を向けた。鍋の中のブリザードトマトが潰れ滑らかになっていく。へらで鍋の中身を少し掬ってローキンスはダグオンに見せる。
「これくらいですかね」
「ですね。中が赤く変わってますね
「はい。ブリザードトマトは皮が白いだけで果肉は赤だからですから」
鍋の中身は真っ赤な血のようになっていた。ブリザードトマトは厚い白い皮の下は赤い果肉が詰まっている。
「じゃあ火から外して冷ましてください」
「わかりました」
返事をしたローキンスは厚手の手袋をはめ作業台の鍋敷きを置き、鍋を火から外しその上に置いた。
「ふんふーん」
鼻歌まじりでローキンスは作業台の籠にはいった、鍋の周りに氷の魔石を置き鍋と魔石を覆うようなドーム型の金属の蓋をした。少ししてからダグオンが蓋を開けて鍋の中を覗き込だ。
鍋の中身を見てダグオンが小さくうなずいて振り向いた。
「出来ました! さっそく飲んでみましょう」
「はい」
返事をしたローキンスは作業台の近くにある机へ行って置かれたカップに手伸ばす。カップを取ろうとするローキンスを見て目を見開いてクローディアは叫んだ。
「ちょっと! それあんたが使ってたやつでしょ! ほら! こっちを使いなさいよ」
クローディアは机の横にある棚の前へ移動し、カップをとりだしてローキンスに差し出す。カップを見てローキンスは口をひらく。
「でも、別に僕が飲むものだし……」
「あんた以外も飲むの! いいから! これを使いなさい!」
腕を伸ばしてカップをローキンスにさらに近づけるクローディアだった。ローキンスは怖い顔で自分を見るクローディアの迫力に押されカップを渋々受け取る。
「はっはい…… 別に気にしなくていいの……」
「キッ!!! なにか言った?」
「なっなにも言ってません!」
顔を背け小声でつぶやくローキンスに眉間のシワをさらに深くして睨むクローディアだった。怯えて返事をしてローキンスはすぐに作業台へ戻る。作業台を向かうローキンスを見てクローディアは首を横にふりあきれた様子で口を開く。
「もう…… 本当に実験以外は気にしないんだから二人は……」
「大変そうですね」
「ふん! うるさいわよ。だいたいなんであんたはそんな嬉しそうなのよ!」
「ふふふ」
不機嫌そうに腕を組むクローディアの横でクレアは笑っていた。ローキンスは持って来たカップを鍋に入った冷えたトマトジュースに突っ込む。
「また…… お玉とか使いなさいよ……」
鍋にカップを突っ込んだ、ローキンスに不満げに顔をしかめるクローディアだった。クレアはクローディアを見て笑っていた。
「うん……」
「まぁ……」
トマトジュースをローキンスがまず飲み、続いてダグオンが飲む。二人は互いに顔を見合わせて渋い顔をしている。トーキーは二人を見て居ても立っても居られないといった様子で、二人の元へ向かい声をかける。
「おっおい! 俺に飲ませろ!」
「そうですね。どうぞ」
ダグオンがトマトジュースが入ったカップをトーキーに渡した。トーキーはゆっくりとカップに口をつけ斜めにし静かにトマトジュースを飲む。カップを戻し口の端から白いトマトジュースが垂れている。
「どっどうですか?」
トーキーにダグオンが尋ねる。視線を彼に向けるトーキーだった。かがんでトーキーの顔を覗き込むダグオンとローキンスジッと答えを待っている。
「あぁ。これなら多分…… 大丈夫だと思う……」
うなずくトーキーにダグオンとローキンスが顔を見合わせて笑った。
「ただ……」
「うん!?」
「ゴク……」
カップを両手で持って真剣な表情をしてトーキーがつぶやいた。ローキンスとダグオンが横を向き彼を見た。何を言われるのかと緊張したダグオンがつばを飲む。
「まずいな…… もう少しうまく作れよ」
「まぁなにも味付けはしてませんからね…… そこは…… いずれ」
顔をしかめトーキーはカップを指して答える。トマトジュースは材料を突っ込んで煮ただけのもの味を整えていないので当然ではある。改善するというダグオンの後ろから腕を組んだクローディアが睨んだ。
「なに贅沢言っているのよ! 血の渇望が防げればいいんでしょ!」
「はぁ!? せっかく飲むんなら美味い方がいいだろ? 人間だってうまい飯を食って楽しそうにしてるじゃねえか!」
「それは…… そうだけど……」
「まぁまぁ…… クローディアさん。トーキーさんの言うとおりですよ。飲んでもらうために味は大事です」
クローディアに落ち着くようにとダグオンは両手に前を出し前後に動かす。クローディアは顔をしかめ腕を組む。
「もう…… 甘いんだから…… はぁ」
首を横に振りクローディアはため息をついたのだった。クレアはクローディアを見て笑い手を叩く。
「じゃあ次はトマトジュースをポーキーさんに飲ませましょう!」
「そうだな…… 急ごう」
「じゃあ瓶に詰めますね」
返事をしたローキンスが棚へ向かった。瓶を持って来てトマトジュースを詰めていく。ローキンスは瓶にトマトジュースを詰めるとクレアに渡した。
「行きましょう! ヴァンパイアハンター協会ですよね」
クレアが瓶に詰めたトマトジュースを持つとダグオンが口を開いた。彼の言葉を聞いてクローディアが慌てて口を開く。
「待って下さい! ダメですよ! この後は魔導橋梁の修理しないと! 実験結果の報告が明日までなんですから!」
「えっ!? でも……」
名残惜しそうな顔をクレアとグレンに向けるダグオンだった。彼は自信が作ったトマトジュースが血の渇望に効果があるのかすごい興味があるのだ。
グレンは右手をあげ笑ってダグオンに答える。
「心配するな。ちゃーんと後で結果だけ教えてやるからよ」
「そうですね。明日にでも報告に来ます」
「うぅ……」
グレンとクレアから後で報告するろ言われ、残念そうにしょんぼりとするダグオンだった。彼の後ろからクローディアが手を伸ばす。
「はい! じゃあ決まりですね!」
「わっ!?」
「ローキンスも早くしなさい!」
「おっおう……」
ダグオンの両肩をつかんで彼を作業台へ向けるクローディアだった。彼女は振り向いてローキンスにも声をかけるのだった。
グレンとクレアとトーキーの三人はヴァンパイア用に作られた、トマトジュースを持ってヴァンパイアハンター協会へ帰還するのだった。




