第549話 指輪を送られた姫
指輪をつまんで空にかざすグレンの横で並び、クレアは指輪を見上げている。二人共首をかしげ指輪を不思議な顔で見つめていた。
「グレンさーん」
ダグオンが手を振りながら二人の駆けつけて来た。彼にクローディアとトーキーが続いてた。グレンが持つ指輪を見たダグオンの顔つきが変わる。
「それ見せてください!」
「あぁ。ほら」
走って来たダグオンがグレンに向かって手を付き出し、指輪を見せるように言ってきた。返事をしたグレンはダグオンに指輪を渡した。
指輪をつまんで角度を変えながら指輪を見つめた、ダグオンはかけていた眼鏡のつるに手をおいて直した。
「これは…… 女王の指輪ですね……」
「なんだそれ?」
首をかしげるグレンに得意げな顔をしてダグオンはうれしそうに話を始めた。
「極夜騎士が盗みだしたと言われる氷の女王の宝物ですね。これを持つ者は永遠に溶けない氷の力を得ると言われてます。まぁもちろん女王にはかないませんけどね」
「へぇ」
相槌をうちながら話を聞くグレンだった。
女王の指輪は氷の女王の宝物の一つで、極夜騎士が女王から盗み出した。氷の魔力を秘めた強力な石が埋め込まれた、アイスクイーンリングは所有者に氷の恩恵を与え強力な氷魔法を使いこなせるようになると言われている。
ダグオンはつまんだ指輪の石を上にむけた。
「いやあ。美しいですねぇ。このホワイトアイスルビーの輝き……」
恍惚の表情を浮かべダグオンは指輪の中央にある石を見つめていた。ニヤニヤと笑うダグオンはどこか気持ち悪くグレンは顔をしかめていた。
「なぁ。その石は貴重なのか?」
指輪の上に乗る石を指さしてグレンがたずねる。グレンに顔を向けたダグオンは大きくうなずいた。
「はい。魔導石と氷が長い時間をかけて結びついて結晶に変化した石です」
「うん!? それって…… 氷石だろ?」
話を聞いていたグレンがダグオンに尋ねた。氷石はダグオンが言った魔導石の魔力と氷が結晶となった物だ。細かく砕くことで熱さましや打撲などに効く湿布などの材料になる。
「はい。通常なら氷石ですが…… 魔大陸にある永遠に溶けない氷の下で結びついた物は強大な魔力を有しホワイトアイスルビーになるんですよ」
グレンに向かってうなずいて答えるダグオンだった。魔大陸で生成される氷石は強力な魔力を有しホワイアイスルビーと呼ばれる。話を聞いてグレンは改めて指輪の石に視線を向けにんまりとほほ笑む。
「もしかしてこれ高いのか?」
「はい。魔大陸の分厚い氷の下でわずかに生成される石ですし採掘は命がけですからね。売ればそれなりに……」
貴重な鉱石であるホワイトアイスルビーは高額で取引されている。グレンの言葉にクレアが目を大きく見開き慌てた様子で口を開く。
「グレン君! 売るなんてもったいないですよ」
「わかっているよ…… ほら返せ! これは俺のだ」
「わっ!?」
もったないと言われたグレンは頬を赤くして、首を横に振ってクレアに答えた。ひったくるようにしてダグオンから指輪を取った。ダグオンはグレンの指輪を握る手を名残惜しそうに見つめていた。
「うっ売るならぜひ! ギガンゴスシティ大学に!」
ダグオンがグレンに向かって叫ぶと横からすぐにクローディアが口を開く。
「教授! そんな予算ありませんよ! また大学の財務課に怒られますよ!」
「いや…… でも貴重なホワイトアイスルビーですよ。研究しないと……」
「ローキンス! あんたがそうやって甘やかすから!」
「ヒッ!」
話にローキンスが口を挟むとクローディアは眉間にシワを寄せ彼を睨みつけた。怯えた表情で悲鳴をあげるローキンスだった。
「「うっう……」」
クローディアに叱られたダグオンとローキンスはしょんぼりとうつむくのだった。トーキーは二人を見てあきれて笑っていた。
グレンは怒られた二人に気まずそうに指輪をポケットにしまう。クレアはそんな彼を冷たい目で見てた。
「貴重な物を売るなんて悪い子ですよ」
「だから売らねえって…… それに…… 俺が手に入れたんだからクレア義姉ちゃんには関係ねえだろ」
「なっ!? ぷくーーー!!!」
プクっと頬を膨らませ両腕で鞄を強く抱きしめ、不服そうに口を尖らせるクレアだった。グレンはクレアを見て笑った。笑うグレンにクレアはさらに不満げに目を細める。
「何を笑っているんですか! お姉ちゃんをないがしろにすると怒りますよ」
「笑ってねえよ…… ってかもう怒ってんじゃん…… ほらよ」
鼻で笑いながら笑ってないと言ったグレンはクレアの組んでいた腕に手を伸ばす。彼はクレアの左腕をつかむと腕を解かせて少し強引に自分の方へ腕を引き寄せる。
「えっ!?」
目を見開いて驚いた顔をするクレアだった。
「おぉ! ぴったりだ。もしかしてはめようとすると魔法でサイズが変わるのかな?」
嬉しそうに笑うグレンだった。グレンはクレアの左手の薬指に女王の指輪をはめた。
「なんで私に……」
指輪がはまった左手の薬指を見つめるクレアにグレンは頬を赤くして顔を背け答える。
「貴重なもんなんだろ? だったらクレア義姉ちゃんが預かってくれ……」
「はっはい……」
「わっ!? こら! 離れろ」
クレアは両手を広げてグレンに抱き着いた。グレンは恥ずかしそうにしてクレアを離そうと手を伸ばすのだった。
「なによ…… あれ…… まったく……」
クローディアが二人を見てあきれて笑っていた。ダグオンとローキンスは指輪をはめたクレアをうらやましそうに見つめていた。
「ほら! もう行こうぜ。コナーたちを冒険者ギルドに届けねえとな!」
「あっ…… もう!」
恥ずかしそうにテントの前で眠るコナーたちを指し、抱き着いていたクレアを振りほどいて駆けていくグレンだった。クレアは不満げに走るグレンを見つめていた。
しばらくして…… グレンたちは聖都へと戻りコナーたちを冒険者ギルドへと届けた。その後、冒険者ギルドからギガンゴスシティ大学のダグオンの研究室へと移動した。
「えっと…… 配合割合は…… トマト多めですかね……」
「そうですねぇ…… うーん……」
作業台の上にブリザードトマトが二つ並んで、その前にローキンスとダグオンが立って何かを話している。グレンとクレアとトーキーとクローディアは二人の後ろに立っていた。
「スライスしてパンに乗せたり……」
「あっ! ちょっと待って下さいね」
ローキンスに手を向けて止めたダグオンは手帳を出してペラペラとめくりだした。とあるページでピタッとめくるのやめ中身を見ると、ダグオンはすぐにパタッと手帳を閉じた。
「火と水の準備と…… ブリザードトマトを細かく切って鍋に放り込んでください」
「わかりました」
ダグオンはローキンスに指示をだす。返事をした彼はナイフを使って、ブリザーとトマトのへたを取り細かく刻み小さな鍋に放り込み火と水を用意する。準備をするローキンスを見てダグオンは満足そうにうなずきグレンに向かって口を開く。
「グレンさん! ヴァンパイアの血清って持ってますか?」
「えっ!? あるぞ…… クレア義姉ちゃん」
「はーい」
ベルトの切れた鞄を抱えていた、クレアは鞄を開けて中に手を突っ込んで血清を取り出しダグオンに渡す。ダグオンは血清を受け取るとブリザードトマトを入れた鍋に血清と水を注ぎ込む。
「きょっ教授!? なにを?」
「ブリザードトマトジュースを作りますよ。さあこれを火にかけてトマトをつぶしてください」
「はぁ……」
首をかしげてローキンスはダグオンの指示通り鍋を火にかけるのだった。




