第545話 暗闇からこんにちは
クレアたちが洞窟から脱出する少し前。グレンは真っ暗な穴を下りていた。足を下にして垂直にゆっくりと下りて行くグレンは左手に赤い液体が入った瓶を持っている。魔導橋梁が撤去されランタンのわずかな灯りだけが照らす、彼の周囲は二メートルほど先は真っ暗で暗闇に包まれていた。
視線を動かし周囲を警戒しながらグレンは左手に持っている瓶を持ち口へ運ぶ。
「レッドホットワインはまずいな…… 薬ってなんてこうまずいんだろうな…… でもこれ飲まねえと動けなくなるからな……」
瓶に口をつけぼやくグレンだった。彼が飲んでいるのは耐寒用ポーションであるレッドホットワインである。レッドホットワインの作り方は酒に激熱ミントに干した苦渋虫にカエン大キノコをまぜる。グレンがぼやいていた通りに材料の一部は香辛料になるものもあるが基本的に苦くまずい。
「まずいとガキが飲まねえからな…… 今度はレイナ姉ちゃんに相談するか……」
つぶやきながらグレンは飲み切った薬の瓶を下へと放り投げた。すぐにがちゃんという音がした。
「!!!!!!!!!!!!!!!!」
グレンが目を大きく見開いた。暗闇の中から何かが浮かび上がってくる。
「ピギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
鳴き声が日々引き暗闇から白い巨大な人型の魔物が姿を現す。
「こいつが極夜騎士か……」
グレンが姿を現した魔物に向けてつぶやく、この人型の魔物が極夜の騎士だ。極夜騎士はゆっくりとグレンと同じ高さへと上がって来た。グレンと極夜騎士は十メートルほどの距離で対峙する。
極夜騎士はフローズンハイオークキングよりも少し大きいくらいの全身鎧を身にまとった人型の魔物だ。全身を銀色の鎧に身を包み真っ白な霜が周囲に漂っている。
顔は青い十字が入ったバケツのような円柱の兜をかぶっている。兜には人間だった頃の名残か下半分にいくつも空気穴が開いて、目の位置にも十センチ幅の長方形の穴が開いており青く光る目が見える。
左手に丸く中央に青い宝石が埋め込まれた金属の盾と右手に白い冷気を放つ青白い刀身のブロードソードを持っている。極夜騎士の左の頬と肩に瓶の破片とわずかに赤い液体が垂れていた。グレンが捨てた瓶は極夜騎士にぶつかったようだ。
「ピギイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!」
「おっと!!!」
声をあげた極夜騎士は前に出て距離を詰めると、右手に持った剣をグレンへと振り下ろした。グレンは右肩を引き体を斜めにし、剣をかわし振り下ろされた剣が空を切った。
「おらよ!!!!!!」
グレンは右肩にかついでいた剣を握る手に力を込めた。大きく剣を持つ手を広げるようにして伸ばし前にでる。グレンは極夜騎士との距離をつめると鎧の頭部へと向けて剣を振り上げた。
「チッ!!」
極夜騎士は素早く丸い盾を前に出してグレンの大剣を受け止めた。大きな音が響くグレンは素早く剣を戻し追撃をしようとした。
「はっ!? クソ!!!」
盾を構えた姿勢のまま極夜騎士が後ろに下がって暗がりへと消えていった。グレンの大剣の衝撃を利用してうまく後ろに下がったようだ。
「どこへ……」
視線を左右に動かすグレンは極夜騎士を探す。凍らされ冷気を放つ壁が冷たい極夜騎士の気配を消しグレンに察知されなくなっていた。
わずかに冷気の白い靄が動いてグレンの視線が横に動いた。
「ここ!」
「ピギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」
暗がりから極夜騎士が飛び出して来てグレンに切りかかった。グレンはなんとか反応して極夜騎士の剣を受け止めた。大きな音がして極夜騎士の剣が弾かれた。さきほど同じように極夜騎士は下がって暗闇の中へと消えていく。何度か同じような攻防が繰り返される。暗がりを利用しグレンの周りを極夜騎士は動いているようだ。
「まったく…… 灯りがないってのはやっかいだな。ふぅ」
ぼんやりとしたランタンの灯りの先に広がる暗闇を見てグレンはつぶやく。小さく息を吐いた彼は左手を強く握りしめ視線を動かし周囲を警戒する。
グレンの背後の暗闇からスッと極夜騎士の頭が姿を現す。極夜騎士は剣を構え静かに音なくグレンに近づいていく。グレンは気づいてないのか振り返る素振りすら見せない。
極夜騎士はグレンの首を狙い剣を斜めに振り下した。鋭く空気が切り裂かれる音がしグレンの口元が緩んだ
「ほっ!!」
いきおいよく振り向いた極夜騎士に向かって左手を前に突き出し同時に開いた。開かれる左手から強烈な黄色い光が漏れていく。
「ピギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!」
グレンが開いた手には小さな月があり激しい光が極夜騎士を照らした。眩しく目がくらみ極夜騎士が鳴き声を上げた。顔を背ける極夜騎士にグレンは左手を戻し右手を振りかぶった。
「おりゃあああああああああああああああああああああああ!!!」
右手に持った大剣を勢いよく極夜騎士に振り下ろした。鈍い音が穴に響く。顔背け斜めに傾けていた極夜騎士の頭にグレンの大剣が命中した。グレンの大剣は極夜騎士の頬から後頭部にかけて鈍器を叩きつけたようにめり込みへこませていった。
「ピっ!? ピギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!」
鳴き声をあげ極夜騎士は落下していき闇に飲まれて見えなくなっていった。
「これでおわりじゃねえよな!!!」
極夜騎士が落ちて行った闇の先を見つめたグレンは左手を下に向けた。彼の左手が黄色く光っていた月が下へと飛んで行く。
「ほっほっ!」
グレンは次々と小さな月を出していく。十個ほどの小さな月が飛んで行き等間隔に浮かび穴を照らし光が奥へと向かって行く。
「いない…… どこだ!」
月の光がフローズンハイオークが居た踊り場まで届いたが、極夜騎士の姿が見えずにグレンは視線を動かし極夜騎士を探す。
「はっ!?」
白い冷気が吹きあがるようにして穴の奥を白く染めた。直後にグレンが飛ばした月が凍り付いてき輝きを失い地面がくらく見えなくなった。
沸き上がって白い冷気が月を凍らせて穴の奥底から一歩ずつ闇が迫っててくていた。
迫って来た冷気グレンの周囲の壁が真っ白にし、同時にランタンの光が届く先が真っ暗な闇に包まれていた。ランタンの光りグレンの周りに浮かぶ白い冷気を照らし靄のように見せていた。
「ちい!!」
暗闇から冷気をまとまった極夜騎士の剣が飛び出して来た。剣先がグレンへと迫ってきた。グレンは大剣で極夜騎士の剣を弾いた。大きな音がして極夜騎士の剣が横に吹き飛ぶ。
「腕!? 腕だけ!? はっ!?」
剣は握る右手と腕肩までの部分しかなかった。吹き飛ぶ腕を見てグレンは目を大きく見開いて驚いていた。しかし、すぐに彼は視線を横に向け厳しい表情をしすぐに体を左に向け足を上げた。
「そこ!? チッ! こっちも腕だけか!」
グレンの左に漂う白い靄の中から、極夜騎士の丸い盾が飛び出しきて向かって来た。グレンは反応し盾を蹴りつけた。後ろに吹き飛んでいった盾も剣と同じように腕のみで体はなかった。
「なら! こっちか!!」
勢いよく振り向いて後ろを向いたグレンは大剣を振り下した。白い靄の中から両腕のない極夜騎士がグレンを蹴ろうと足を伸ばしていた。
激しい音が穴に響く。グレンが振り下ろした大剣は極夜騎士の伸ばされた右足に命中し、バランスを崩した極夜騎士の体は真下へと落ちて行った。




