第543話 闇の底から
「「「ブギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」」」
複数のフローズンハイオークの悲鳴が轟いた。フローズンハイオークキングは顔を青ざめさせ視線を悲鳴が聞こえた方角へ向けた。
フローズンハイオークキングの視線に首や手足がいくつも飛んでいる姿が見えた。
ぼたぼたと音がして肉片や血が地面に落ちていく。血で染まる中心にはグリップから光の大剣を伸ばし、刀身を二つにしたエフォールを回転させていた。彼女は視線を下に向け無言で斜め下にエフォールの白い刀身を突き出した。
「ギャッ!!!」
足を切り落とされ地面に仰向けに倒れていた、フローズンハイオークの背中にエフォールが突き刺さる。脇から赤黒い血が流れていく。クレアの顔が険しくなり視線を後ろに向け右肘を曲げ引くように動かした。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアア…… ぐぼぼおおおおおおおおお!!」
叫び声がしてクレアの足元にポタポタと血が垂れる音がする。背後から襲いかかって来た、フローズンハイオークの腹にクレアは光の大剣を突き刺した。口と開いた腹の穴から血を垂らし、フローズンハイオークは瞳の光が急速に失われていく。
「面倒です…… ねっ!!!」
左右に瞳を動かしうんざりとした顔をし、クレアは右腕を前に突き出すようにだし手首を軽くひねる。フローズンハイオークが突き刺さった光の大剣が大きく横から振られた。フローズンハイオークはすっぽ抜け放物線を描きクレアから右方向に飛んで行き、近くにいた三体のフローズンハイオークを巻き込んで倒す。
すぐに右腕を戻したクレアは左腕を前にだし体を右に向けた。
「フギャ!」
「プイギャ!!!」
「ぐはああああ!!!!」
クレアの指先から伸びた三本の光の剣が倒れたフローズンハイオークを貫いた。光の剣はすぐに消え左腕を下したクレアは不服そうに口を尖らせ視線を背後へと向けた。
「もう! そんなに離れてたら危ないですよ」
左手で後ろに向かって手招きをしながら口を開くクレアだった。クレアの五メートルほど後方に槍を構えたトーキーが立って呆然と彼女を見つめていた。クレアに話しかけられ我に返ったトーキーは彼女に答える。
「いや…… あんたの近くに居る方が危ないだろ……」
近くに寄れというクレアに向かって、トーキーは首を横に振って答えた。
「フッ……」
視線を前に戻し鼻から吹き出すグレンだった。彼の前には次々と倒れていく同胞の姿にフローズンハイオークキングは呆然と見つめる姿が見えた。グレンは笑顔で大剣を構えた。
「さぁ…… お前らは全滅だ!」
「グッ!!! グググッ!!! グワア!!!!」
悔しそうに歯ぎしりをしてフローズンハイオークキングはグレンを睨みつけた。フローズンハイオークキングは左手を前にだしグレンへと向けた。さらにフローズンハイオークキングは石の棍棒を足元にすて右手で左手首を押さえる。
グレンを睨むフローズンハイオークの眉間のシワがさらに深くなっていく。
「グッ! グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
フローズンハイオークキングの周囲の白い冷気が漂い左手から一気に噴き出した。噴き出した冷気は周囲を凍らせながら、高速にグレンへと向かって良き彼を飲み込んだ。
噴き出した冷気のまき散らされた冷気で、フロアの壁と床と天井がほぼ半分が凍り付いた。フロアのほぼ中央で大剣を肩にかついだままグレンは白く凍り付いていた。巻き込まれたフローズンハイオークも凍り付きシェーラとバルも真っ白に凍り付いていた。
「はあはあ…… グッ! グハハハハハ!!」
左手を下し肩で息をしながら凍り付いた、グレンを見て笑うフローズンハイオークキングだった。
「グハハ! グハハハ! グヘヘへ」
にやりと笑ったフローズンハイオークキングは足元に転がした石の棍棒を拾い上げると、グレンへと向かって歩き出した。歩きながら石の棍棒で広げた左手をぺちぺちと軽く叩く、フローズンハイオークキングの足取りは軽く今にもスキップをしそうな感じだった。しかし……
「グギャ!?」
あとわずかでグレンに手が届くというところで、白くなっていグレンが動き出した。凍り付いて白くなっていたグレンはあっという間に元に戻った。
「ふぅ…… 冷てえな。まったく…… あっやべえ!」
服に残った霜を叩きながらグレンは目を大きく見開いた。彼の視線の先は凍り付いてしまったシェーラとバルの姿が見えていた。慌てて振り向いてグレンが叫ぶ。
「クレア義姉ちゃん! 二人の救助を頼む!」
「えっ!? はーい! すぐ行きまーす。トーキーさん! 後はお願いしますね」
「へっ!? ちょっちょ!?」
返事をしたクレアはフローズンハイオークとの戦いを切り上げ、二人の救助へと向かうのだった。
「がうあ! がうわ!!」
眉間にシワを寄せフローズンハイオークキングはグレンに向かってどこか不満そうに声を上げていた。
「なんだよ。俺が凍らないのが不服か? いいだろ別に…… 月は優しく温かいんだよ。それに…… 寒さは植物を強くするからな!」
大剣を構えるグレンに顔を歪ませるフローズンハイオークキングだった。フローズンハイオークキングの視界にクレアが映った。彼女はシェーラとバルの救助へと向かっているのだ。
「グワアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「おっと! 邪魔はさせねえよ」
「べっ!? ベフウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!」
慌ててクレアを追いかけようとするフローズンハイオークキングだったが、すぐにグレンが追いついた。グレンは右手に持った大剣を引き横からフローズンハイオークキングの胸へと叩きつけた。
「プギャ!!!」
鈍い音がしてフローズンハイオークキングが胸を押さえてうずくまる。グレンはフローズンハイオークキングの前へと回り込み、大剣を肩にかついで立ち塞がるようにして立った。
顔をあげグレンを恨みがましい目で見つめるフローズンハイオークキングだった。フローズンハイオークキングは右手に持っている石の棍棒を強く握りしめた。
「ギっギギギギギギ…… グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
いきおいよく立ち上がったフローズンハイオークキングは石の棍棒を横からグレンに叩きつけようとした。
「よっと!」
「ぐっ!? ギギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!??!?!?」
視線を横に向けグレンは余裕の笑みを浮かべ、地面を蹴って軽く飛び上がり石の棍棒をかわした。彼の足元を石の棍棒が通過していたった。石の棍棒を空振りしたフローズンハイオークキングはバランスを崩しそうになる、着地したグレンは斜め前に出てフローズンハイオークキングの背後へと回り込む。
顔を横に向けグレンが背後に回り込んだのに気づいた、フローズンハイオークは棍棒を振り被りながら素早く振り向く。
「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
フローズンハイオークキングは振り向くと同時に、今度は上から石の棍棒を振り下しグレンに叩きつけようとした。グレンは視線を上に向けにやりと笑い右手に持つ大剣に力を込めた。
「それ…… 邪魔だな!」
「ぐひいいいいい!!?!??!?!」
タイミングを合わせてグレンは大剣を振り上げた。
グレンの大剣と石の棍棒がぶつかると激しい音が響いた。フローズンハイオークキングは悲鳴をあげて尻もちを着いた。
「グギギ!?」
呆然とするフローズンハイオークキングの目の前をキラキラとした綺麗な粒が舞い落ちっていった。グレンの大剣により、石の棍棒は粉々に砕かれ宙を舞っていいるのだ。
「さて…… 邪魔なものはなくなったな」
満足そうに笑いグレンは肩に大剣をかつぎフローズンハイオークキングを見た。彼は一歩ずつゆっくりとフローズンハイオークキングへ近づいてくる。
「ぐっぐぎぎぎぎ!!!!」
悔しそうにグレンを睨みつけたフローズンハイオークキングは尻もちをついたまま両手を前に向けた。白い冷気がフローズンハイオークキングの両手に集約されていく。
「チッ! 往生際が悪いんだ…… よ!!!!」
地面を蹴って飛び上がったグレンはフローズンハイオークキングとの距離を詰めた。フローズンハイオークキングはグレンの速度に反応できず、気づいた時には大剣の先を自分に向けるグレンが目の前にいた。グレンはフローズンハイオークキングの胸に向かって大剣を突き出した。
右手に硬い感触を覚えたグレンはニヤリと笑う。彼の大剣はフローズンハイオークキングの胸を貫いていた。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」
激しい鳴き声をあげフローズンハイオークキングは動かなくなった。グレンは左足をあげフローズンハイオークキングの胸に当て押すと同時に右腕を引いて大剣を胸から引き抜いた。
音がして仰向けに倒れた、フローズンハイオークキングを見たグレンは強く大剣を振って血を拭った。大剣を肩に担いでグレンはクレアの元へと向かう。クレアはシェーラとバルの治療を始めていた。凍り付いていた二人は解凍され拘束も外されて毛布にくるまって寝ていた。
「終わったぜ!」
治療中のクレアの背後からグレンが声をかけた。振り向いてクレアは優しくほほ笑む。
「お疲れ様です。こっちもすぐに治療は終わります。残党がいるのでトーキーさんの手伝いをお願いします」
「えっ!? でもあいつもヴァンパイアだろ。キングがいなくなったフローズンハイオークくらい……」
「いえお願いします。ちょっと気になるんです」
「そうか…… わかった」
真剣な表情で心配そうにするクレアにグレンはうなずいて返事をした。彼は飛び上がりフローズンハイオークの残党と戦っているトーキーを助けに向かった。直後……
「ピギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」
けたたましい魔物の甲高い鳴き声が鳴り響くのだった。




