第541話 穴の中の冒険者
ドーム型の天井の直径二十メートルほどの広場のような空間。壁に直径二十メートルほどの穴がいくつも開いている。中央には巨大な焚火が置かれ、フローズンハイオークが取り囲んでいた。フローズンハイオークたちは宴会を開いていた。焚火を囲んでフローズンハイオークたちの前に食事が置かれ器に注がれた赤い血のような飲み物をがぶがぶと飲み、彼らの後ろでは太鼓をたたくフローズンハイオークも居てかかなり盛り上がりを見せていた。盛り上がる焚火と宴会場の片隅に雪のように真っ白なトマトが籠に入って積まれている。
周囲の穴からは頻繁にフローズンハイオークが出入りをし、焚火の左には地面に大きな穴が開き、右には天井にも穴が開いていた。ここはリアンテ洞窟の穴の途中にある踊り場のような空間のようだ。
焚火の近くに木で出来た檻が置かれ中には二人の男女が居た。男は寝ており彼の横には女性が座っていた。
「シェ…… シェーラ……」
髪が胸の近くまで長い目の細く後ろ手に縛られた背が高く、水色のローブに身を包んだ男性が周囲の騒がしい音にかき消されそうな小さな声をあげた。この男の名前はバル、冒険者コナーの行方不明になった仲間だ。バルはフローズンハイオークに捕まりここへ連れて来られ今まで気絶してた。
「居るわ…… 私は大丈夫…… あなたが守ってくれたから」
バルのすぐ横に座っていた女性が返事をする。女性は赤い髪に黄色のぱっちりとした瞳を小さな顔で、膝当てのついたブーツに白のショートパンツの横に黒いの腰当てを付け、緑の上着の上に革の胸当てを装備している。彼女の名前はシェーラという。彼女もコナーの仲間だ。シェーラは狩人でバルは僧侶である。
「そっそっか…… よかった。でも…… クッ! 僕はもう…… ダメだ」
「大丈夫…… きっとコナーたちが助けてに来てくれるわ。頑張って……」
シェーラの返事を聞いて嬉しそうに笑うバルだったが、怪我が深いようで痛みで顔をゆがませる。シェーラは彼に声をかけ励ましていた。
「でっでも…… グハ!」
「だっダメ! お願いよ。一人にしないで……」
「ゴホゴホ……」
口から血を吐いて苦しむバルだった。シェーラは彼の体に頭をつけて泣きながら必死に懇願する。そこへ……
「グガアアアアアアアアアアア!!!」
檻の扉が開き一体のフローズンハイオークが入って来た。フローズンハイオークは革の腰巻きにクロスした革のベルトを付けており、それに背中に手斧をひっかけている。また檻の扉の前にもう一体のフローズンハイオークが立っている。シェーラを見てニヤニヤと笑ったフローズンハイオークは彼女へ手を伸ばす。
「ちょっと! やめてよ!!!」
フローズンハイオークに肩を掴まれ立たされそうになったシェーラは抵抗する。
「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
眉間にシワを寄せ斧を取り出してシェーラの首に突きつけるフローズンハイオークだった。
「ふん…… 殺すなら殺しなさい……」
「チッ!」
「えっ!?」
斧を突きつけられてもシェーラは気丈にフローズンハイオークを睨みつけていた。彼女を見たフローズンハイオークは舌打ちをし斧を外した。
「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
声をあげたフローズンハイオークが斧を振りかぶった。フローズンハイオークの振りかぶった斧の下にはシェーラではなくバルが居る。フローズンハイオークはバルを代わりに痛めつけるつもりのようだ。
「やめてええええええええええええええ!!!!」
悲痛な声をあげるシェーラだった。フローズンハイオークは動きと止め視線を彼女へ向けた。
「わかった。言うこと聞くわ……」
ゆっくりと立ち上がるシェーラにフローズンハイオークは斧を下し、立ち上がった彼女の背後に回り左手で縛った腕をつかみ押して檻の外へ連れていく。
フローズンハイオークとシェーラと入れ替わるように、入り口に居たもう一体のフローズンハイオークが檻に入っていく。
「うがあああああ!!!」
「グッ……」
倒れてうずくまっていたバルの首根っこを雑につかみ引きずりだすフローズンハイオークだった。バルが苦痛に顔を歪め檻から引きずり出す。
バルが引きずり出される音が聞こえシェーラは立ち止まって振り向いた。
「なっ!? ちょっと! バルは! キャッ!!!」
自分を押していたフローズンハイオークに向かって声をあげ抗議するシェーラだったが、背中を殴られるように押され強引に彼女は歩かされる。二人は焚火の前へと引きずり出される。
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」
二人が連れて来られると焚火の周りで宴会をしていたフローズンハイオークたちが歓声をあげた。よく見ると焚火の正面は誰もおらず空席となっている。空席の幅は五メートル近く開いてフローズンハイオークたちが三人ならんで座っても余裕がありそうだった。
「うがああああ!!」
空席の横にいた恰幅の良いフローズンハイオークが手を叩いた。
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」」」
十体のフローズンハイオークがどこからか直径一メートルほどある、水が張られた大きな鍋を運んで来た。焚火を囲むフローズンハイオークたちは運ばれる鍋を見て歓声をあげる。
「あれは……」
水の張った鍋が揺れ水がこぼれるのを見つめるシェーラだった。鍋が焚火に置かれるとフローズンハイオークたちさらに盛り上がる。木と葉で出来た大きな団扇でフローズンハイオークは焚火に空気を送って火を強めていく。団扇の動きに合わせて太鼓がリズムよく鳴らされ、焚火の周りにいるフローズンハイオークは合いの手をいれる。鍋の水が温まり湯気が立ち昇っていく。
立ち上る湯気が多くなると周囲のフローズンハイオークは興奮していく。鍋の横に斧を肩にかついだフローズンハイオークがシェーラとバルに視線を向けた。
「まさか…… 私達を…… 食べる気……」
フローズンハイオークたちはバルとシェーラを料理して食べるつもりのようだ。ぐつぐつと煮えたぎる鍋を見て恐怖で顔を引きつらせるシェーラだった。
「おぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
激しい声がしてフローズンハイオークが水を打ったように静かになった。フローズンハイオークたちは視線を奥の床にある穴へと注ぐ。ズンズンと足音がして巨大なフローズンハイオークが姿を現す。
「ウガアアアアアアアアアア!!!!!」
穴から身長が五メートル近く大きさで革の腰巻に灰色の胸当てを身を身に着けた、フローズンハイオークが現れた。フローズンハイオークは肩に先端が丸く持ち手に雑に布が巻かれた黒い石の棍棒を担いでいた。
「オークキング…… そんなのがここに居たなんて……」
現れたフローズンハイオークに目を見開いて驚いた顔をする。現れたのはフローズンハイオークキングだ。稀に誕生するフローズンハイオークの変異種であり上位種だ。体格や魔力や知能が通常のフローズンハイオークも強化され周囲の集落を統合し王として君臨し軍団を組織する。寒冷地にある国ではフローズンハイオークキングは脅威であり、誕生が確認されると即座に討伐軍が組織される。
「ブフーブフー!!」
伸びた下あごの上にある大きな鼻の穴から激しく息を吐き、ゆっくりとフローズンハイオークキングは焚火の前へとやってきた。
「がうあああ!!」
「ちょっ!? なに!? やめて!!」
シェーラが叫ぶ。両脇を抱えられた彼女は向かって来るフローズンハイオークキングの前へと引きずられていくのだった。




