第538話 家畜以下ですよ
話を聞くダグオンとクローディアだった。真剣な表情で相槌をうちながらクローディアの横で、途中から目を輝かせ一点をジッと見つめるダグオンだった。話が終わるとダグオンが声をあげた。
「おぉ! トーキーさんはヴァンパイアなんですね」
「えっ!?」
ダグオンはトーキーの前に行くと手を取って勝手に握手をすると、すぐに彼の体や腕をべたべたと触り出す。眼鏡のつるを押さえながら、ダグオンは背伸びをしトーキーの顔を下から覗き込む。
「人間を襲わないヴァンパイアですか…… どうして襲わないんですか? 血を受け付けない体質とかですか?」
「いや…… 俺達は人間が怖くて……」
「怖い? 人間より圧倒的な力を持つヴァンパイアが…… おぉなるほど…… 人間が恐怖の対象…… 宗教的なものですかね……」
ポケットから手帳を取り出しダグオンはメモを取り始める。
「”安寧の血”一族と他のヴァンパイアとの確執について詳しく……」
さらに質問を続けようとするダグオンの背後から彼の首筋に手が伸びて来た。
「うわ!?」
「ダグオン教授! もうごめんなさい……」
襟をつかまれ後ろに引っ張られ声を上げるダグオンだった。自分の横にダグオンを引きずっていきクローディアがトーキーの謝るのだった。
トーキーは二人を見て呆然としている。彼の横に来たグレンが肩に手を置いて笑って口を開く。
「悪いな。あいつ興味を持ったらなんでも知りたがるんだ」
「はははっ……」
クローディアに押さえつけられながら、自分をジッと見つめるダグオンに苦笑いをするトーキーだった。
「もう…… ダグオン教授! クレアから依頼を聞いてましたか?」
拘束を外そうとするダグオンにクローディアがあきれながら尋ねる。
「ヴァンパイア用の食事でしたよね…… うーん」
難しい顔で考えこむダグオンだった。ダグオンの様子にグレンが残念そうにつぶやく。
「さすがのダグオンでもダメか……」
「いえ…… 実はここに来たのも少し関係あるんですよ」
「なに?」
ダグオンの言葉にグレンが驚き声をあげた。ダグオンはメモを取り出しページをめくっていく。
「ガルバルディア帝国の古い歴史書アガーリア戦記にヴァンパイアとの抗争が書かれています。そこにブリザードトマトを原料にする飼料の記載があるんです」
「飼料? それって家畜の餌のことだろ?」
首をかしげるグレンにダグオンは手帳を閉じ顔を彼に向ける。
「僕も最初は家畜用の飼料かなと思ったんですが…… おそらくヴァンパイアの捕虜に与えていたのではないかと……」
「それで血の渇望を抑えることができるのか?」
「おそらく…… ガーリア戦記のある時期からヴァンパイアの暴走の記述が減ってますからね」
話を横で聞いてトーキーは目を細め冷たい視線をダグオンに向け不満そうに鼻から強く息を吐いた。
「ふん…… 家畜と同じってか……」
「いや。同じじゃないですね。家畜の糞や余った家畜の飼料に肉は高いから殺したヴァンパイアの肉などと記載があるので…… ヴァンパイアは家畜以下だったんですよ」
「なっ!?」
冷静な口調で淡々とヴァンパイアのトーキーにヴァンパイアは家畜以下だったという、言葉をぶつけるダグオンだった。唖然とするトーキー、気まずい空気が流れるがダグオンは平然としている。彼の背後からクローディアが注意する。
「ダグオン教授!」
「えっ!? なっなんですか?」
横を向いて首をかしげるダグオンにクローディアはトーキーに頭を下げていた。ダグオンはわけがわからず首をかしげ彼を見たグレンとクレアは顔を見合わせて苦笑いをしたのだった。
気を取り直して話を続けようとクレアがグレンに向かって口を開く。
「じゃあまずブリザードトマトを手に入れましょうか」
「そうだな…… ブリザードトマトはどこに行けば手にはいるんだ?」
グレンは顔をダグオンに向け尋ねる。ダグオンは少し考えてからグレンに答える。
「ブリザードトマトはコールドニアなら確実ですが……」
「コールドニアか遠いな…… もっと近くにないか?」
「はい。一番近いのはここですよ。リアンテ洞窟の穴にも自生しているようです。実は実験と一緒にブリザードトマトを採取しようと思ってたんですよ。寒冷地に作物がなぜこの洞窟にあるのかと!」
地面を指すダグオンだった。ブリザードトマトは本来寒冷地でしか育たない作物だが、なぜかリアンテ洞窟にも自生しており採取できるという。
「おぉ! ならすぐに洞窟に採りに行こうぜ」
「そうですね」
グレンが洞窟を指すと横に居るクレアは大きくうなずいた。洞窟を見て笑う二人にクローディアはあきれた様子で口を開く。
「まったく得体の知れない魔物が徘徊している洞窟によく入ろうなんて考えるわね……」
クローディアも視線を洞窟へと向けて両手を空に向け肩をすくめていた。
「うっ!? ここは……」
男性冒険者が目を覚まして体を起こした。気づいたグレン達は彼の元へと急いだ。グレンが彼の顔を見て
「俺はグレン…… お前は冒険者のコナーだな?」
「えっ!? どうして僕の名前を……」
「こいつからな」
笑顔でグレンは男性が持っていた指輪を彼に見せた。男性の名前はコナーと言う。グレンが指輪を彼に返すとクローディアが続いて口を開く。
「私達はギガンゴスシティ大学の者よ。あなた達は洞窟で魔物に襲われていたのよ」
「あぁ…… そうだ…… 君達が助けてくれたのか」
「ううん。間に合わなかったわ……」
首を横に振ったクローディアは振り向いた。コナーが彼女の視線を追うとそこには倒れた女性が見える。
「ポワン!」
女性を見たコナーが彼女の名前を叫んだ。彼はすぐに周囲に視線を向けクローディアに口を開く。
「シェーラとバルは!?」
「私達が来た時は…… 二人は居なかったわ」
「クッ!!!」
コナーはクローディアに叫ぶような声で残りの仲間の名前を告げた。コナーを見つめクローディアは静かに残念そうに首を横に振り答えた。
「クソ!!」
「おい。どこに行く。まだ治療中だぞ」
自分の横に置かれた剣を取りコナーは立ち上がる。グレンがすぐに彼を止めた。
「二人は大事な仲間だ。助けに…… うっ!」
胸を押さえて苦痛に顔を歪めて膝をつくコナーだった。グレンがすぐに駆け寄り彼を肩を支えた。
「ほら。治療中だって言ったろ」
「でも…… 僕は行かなければリーダーなんだ…… 二人はずっと一緒にやっとここまで来たんだ……」
剣先をついて自分で必死に立とうとするコナーだった。二人の後ろにクレアが近づいて微笑む。
「ふふふ。じゃあ決まりですね」
「クレア義姉ちゃん…… そうだな」
「えっ!?」
振り向いてグレンは大きくうなずいた。彼はコナーを支えて自分の前に立たせると自分を指して笑った。
「俺たちも洞窟の中に用があるんだ。ついでにお前の仲間を助けてやるよ」
「でっでも……」
胸を張るグレンにコナーは困惑した表情をした。ダグオンがコナーに声をかける。
「心配しなくて大丈夫ですよ。二人はA1ランクの冒険者ですから」
「えっ!? A1ランク!? あなた達が……」
「おう! だから大人しく休んどけ」
グレンはコナーを寝ていた場所へ戻し、肩を掴んで下に押し強引に座らせた。座ったコナーは肩にかけられたグレンの手を強く握る。
「二人をお願いします」
「あぁ…… 任せておけ。だからゆっくり寝てろ」
コナーはうなずいてグレンから手を離し横になっていた。グレンが立ち上がりクレアに視線を向ける。クレアはすぐに笑って顔をクローディアとダグオンへ向けた。
「ダグオンさん、クローディアさん。二人をお願いします」
「わかったわ。こっちも実験を続けたいから手早く頼むわ」
「はーい」
手をあげクレアが返事をするとクローディアは笑った。続いてダグオンが洞窟を指して口を開く。
「中にローキンスさんが居て魔導橋梁を守ってます。実験中ですが役に立つと思うので使ってください」
「えっ!? 待てローキンス一人って…… 大丈夫か? 魔物が居るんだろ?」
「大丈夫。彼なら平気よ」
助手のローキンスが洞窟に居ると聞き驚くグレンとクレアだった。すぐにクローディアは笑って平気だと二人に答える。グレンとクレアは顔を見合わせて首をかしげるのだった。




