第537話 前職の備品
クレアは肩にかけていた鞄を外しグレンへと突き出して彼に渡す。鞄を床に置いてしゃがんで開けグレンは手を突っ込んだ。鞄をグレンに渡したクレアは女性の横に座り治療を始めようとしていた。
「そっちは任せて良い?」
「はい」
グレンの問いかけに振り向いてクレアがうなずいた。グレンは女性の横に寝かされている男性の元へと向かう。
倒れている男性の横にしゃがみグレンは彼の様子を見つめる。鎧が破壊され右の脇腹を刃物で切られたような傷が見えた。刃物は切れ味が悪いのか肉がえぐられたようになっている。
グレンは傷をジッと見つめてつぶやく。
「これは…… トーキー! 湯を沸かせたくさんな」
「わっわかった…… でも水なんか……」
「こっちよ。付いて来て」
「すまない……」
トーキーに湯を沸かすように指示を出すグレンだった。水場の場所を知らないトーキーが桶を持って困っているとクローディアが声をかけ連れて行く。
「刀傷の周囲が変色している…… 毒…… ゴブリンかオークか…… よし。なら」
男性の傷から垂れる血が赤黒く周囲が緑色に変色していた。これは毒が塗られた刃物によっておこる症状だった。
「ポーションと毒消し…… 後は…… 氷炎解消剤……」
グレンは鞄から、青い液体が入った瓶と葉の包を出しと木の蓋を蝋で蓋を固めた缶を取り出した。彼は振り向いて女性を治療をしているクレアに声をかける。
「義姉ちゃん! 麻痺毒が使われたみたい。念のためそっちにもこれを使って!」
「はーい」
鞄から缶をもう一つだしてクレアに投げて渡す。クレアは投げられた感を受け取ったのだった。グレンはうなずいて鞄から出した瓶を開けポーションを男性の口へ当て飲ませるのだった。
少しして…… グレンの前に鎧を外され脇腹に包帯に巻かれた男性が穏やかな表情で寝ていた。グレンは男性の表情を見て息を吐いた。
「ふぅ…… これで大丈夫だな。そっちは?」
「終わりましたよ。こっちも大丈夫です」
クレアが笑顔で大きくうなずくとグレンは立ちあがり、トーキーが沸かした湯の元へ向かう。焚火に大きな鉄の鍋が置かれ湯気が上っている。
柄杓を使って木の器に湯を注いだグレンはポケットから、黒い丸く物体を取り出し器の中へ放り込んだ。小さな木のスプーンで木の器をかき回すグレン、周囲になんとも言えない独特の臭いが漂う。トーキーが顔をしかめグレンが持った木の器を覗き込む。
「なっなにをしたんだ?」
「魔法丸を溶かしたんだよ。味はあれだが簡単に栄養が取れるからな。でも…… うへえ」
漂う臭いに舌を出し苦い顔をしたグレンはクレアに顔を向けた。器をやや上げたクレアはクレアに口を開く。
「義姉ちゃん! これを飲ませて」
「はーい」
返事をしたクレアはグレンの元へやって来て木の器を受け取った。
十分くらい後、グレンとクレアとローキーの前に毛布に巻かれ三人が穏やかな表情で寝ていた。グレン達のすぐ横にダグオンとクローディアが立っている。
「この人たちは?」
「わかりません。おそらく冒険者さんだと思います」
「あぁ。それでテントが多いんですね」
怪我をした三人の男女は冒険者と聞いて、視線を横に向け並ぶテントを見てうなずくクレアだった。ダグオンが話を続ける。
「僕たちが魔導橋梁の改良実験をしていたいら下から悲鳴が聞こえて…… それでひっぱりあげて助けを呼びに行こうとしたら」
「俺達が来たと……」
「はい」
クレアとダグオンの二人の会話にグレンが入って来た。ダグオンはグレンに視線を向けうなずいて返事をした。グレンが続けてダグオンに問いかける。
「何が襲っていたのかみたか?」
「いえ…… 僕たちが駆けつけたら逃げて行きました」
冒険者たちを襲った者はダグオンたちが接近すると逃げたという。顎に左手を置くグレン、彼の右手は何かを握っているのか話を始めた時から握られている。グレンは視線をクレアに向け口を開く。
「なんか討伐依頼で来たのか?」
「どうですかね…… 彼らが起きないとわかりませんね」
首をかしげるクレアだった。グレンは視線を倒れた冒険者三人向けにやりと微笑んだ。グレンはクレアに背を向け地面に置いた鞄へ向かって歩き出した。
「しゃーない……」
「あっ!? もう…… 悪い子ですよ」
右手を開いて空へ握っていた指輪を投げながら歩くグレンを見た、クレアは顔をしかめ彼を注意する。
「別に良いだろ? こいつを俺達から回収しない冒険者ギルドが悪いんだ」
鞄の前にしゃがんだグレンは中から丸い小さな水晶を取り出した。冒険者の指輪を水晶にかざすグレンだった。グレンは治療中に男性から冒険者の指輪を外して持っていたのだ。
「なにを?」
「冒険者の指輪には…… 依頼が記録されているからな」
グレンの背後からトーキーが推奨を覗き込んで尋ねる。前を向いたままグレンは笑って答える。グレンが持った水晶に文字が浮かび上がっていく。
「なんで冒険者の情報を君達が引き出せるんだ?」
「ふふふ。それは秘密だ」
「えっ!?」
トーキーの質問グレンは顔を横に向けにやにやと笑う。二人を見ていたクレアはあきれた顔で口を開く。
「なにが秘密ですか…… 私たちはちょっと前まで冒険者ギルドの職員だったんですよ」
「なんだ……」
クレアが答えるとグレンはつまらないのか口を尖らせて不服そうにする。冒険者ギルドを解雇された二人だが、こっそりとギルドの備品を持ち出していた。
「それで彼らへの依頼はなんだったんですか?」
「えぇ!? 俺は悪い子じゃなかったのか?」
「いじわる! 嫌いです」
「ははっわかったよ。ちょっと待ってな…… えっと……」
口を尖らせそっぽを向くクレアを見て笑ったグレンは水晶に浮かび上がった名前に目を通す。
「コールドアラクネーの討伐だな……」
冒険者たちはコールドアラクネーと呼ばれる下半身が蜘蛛で上半身が人間の女性の魔物の討伐に来たようだ。コールドアラクネーはアラクネーが寒冷地に適応した種族で、腹から吐き出される糸は冷気を帯び獲物を凍らせる。ちなみに上半身の部分は襲った人間の上半身を切り落とし、繋いでいると言われている。
話を聞いたトーキーが口を開く。
「じゃあそいつにやられたのか?」
「いえ…… コールドアラクネーなら牙や爪の傷がもっとあるはずです」
「あぁ。こいつらの傷は剣や斧で出来た傷だし殴られたような痕もある……」
トーキーにクレアとグレンは首を横に振って答える。冒険者に治療に当たり傷を見た二人はコールドアラクネーに襲われたことを否定した。
「じゃっじゃあ。彼らは誰にやられたんだ?」
「わかりません。リアンテ洞窟にはほかに魔物か盗賊でも潜んでいるのみたいですね」
呆然としてリアンテ洞窟に視線を向けるトーキーだった。
「後…… こいつらもう一人仲間が居るな…… シェーラとパルって言うらしい」
「そうですか……」
冒険者ギルドの記録にはさらに二人の仲間が居るようだ。クレアは寂しそうに小さくうなずいた。グレンは彼女に視線を向けていた。
「さて…… とりあえず治療は終わりだ。こっちの用事を片付けようぜ」
「そっそうですね……」
グレンは親指で後ろを指す。クレアはグレンに顔を向け小さくうなずいた。二人はダグオンとクローディアの前と移動した。
「そういや…… あんた達はなんでここに来たのよ?」
「えっと……」
クローディアはグレンとクレアになぜここに来たのか尋ねる。グレンとクレアは二人にここへ来た理由を説明したのだった。




