第535話 ハントしなさい
「それで…… 連れて帰って来たと……」
椅子に座り机の上に肘を手に顎を乗せ、キティルはあきれた顔を前へと向けていた。彼女の視線の先には苔にくるまれスヤスヤと横になって眠るポーキーの姿が見える。彼の横には心配そうにトーキーが座っていた。二人を挟むようにグレンとクレアが堂々と立っていた。
ここはヴァンパイアハンター協会本部のキティルの執務室。グレンとクレアとトーキーの三人はイバルッツア村に寄りイレーヌに報告した後、ヴァンパイアハンター協会本部へと帰還した。
現在は二人はポーキーに付いてキティルに報告をしているのだ。説明が終わるとキティルは肘をはずしグレンとクレアに視線を向け渋い顔する。
「ここはヴァンパイアハンター協会ですよ。これじゃヴァンパイア保護協会じゃないですか」
机を指で叩きながらグレンとクレアに文句を言っていた。クレアとグレンは横を向き顔を見合わせグレンが顔をしかめクレアがほほ笑む。二人を見てムッとするキティルにグレンが頭をかく仕草をして面倒そうに答える。
「わかっているよ。俺だって別にこいつらを保護したわけじゃないぞ」
グレンの言葉にさらに顔をしかめまた机を指で叩く。
「じゃあどうするんですか? 血の渇望で暴走しているんですよね? ずっとグレンさんが寝かせくれるんですか?」
「うっ……」
答えられないグレンにキティルは腕を組んで不満げに口を尖らせる。二人の話を聞いていたトーキーが立ち上がりキティルの机に身を乗り出した。
「俺がこいつに頼んだんだ…… ポーキーには俺の血を与えろ…… そしたら俺を殺せ」
キティルの顔を近づけ自分を指して殺せと叫ぶトーキーだった。キティルは顔をしかめ失望したようにトーキーに向かって首を横に振る。
「ダメですよ。約束を忘れたんですか? あなたは生きてウォルフを殺すんです。その為に生かされているんですよ」
「だったら俺の代わりをポーキーに……」
「ヴァンパイアを何人も信用しませんよ。だったら二人共これで……」
キティルが右手を天井に向けた。すぐに彼女の手のひらから、小さな小さな太陽が現れ強烈な光を放ちトーキーを照らした。
「やっやめろ! わかった! わかったから!」
顔を手で覆いながら後ずさりして叫ぶトーキーだった。キティルは満足そうにうなずいて手を閉じると小さな小さな太陽の光がおさまり消えていく。
「おっ俺が魔物を捕まえて来るそれをポーキーに与える。それでいいだろ?」
光りがおさまるとトーキーは顔を覆っていた手を下し、キティルに向かって不満げに自分を指してたずねる。横に居たクレアがキティルより先に答える。
「生きた魔物が町の中にいれるわけないですよ。殺してなら良いですよ」
「血の渇望になったら生き血じゃないとダメだ! じゃっじゃあ町の外で……」
右手の人指し指を立て腕を横に伸ばし、クレアの顔色をうかがうように答えるトーキーだった。ヴァンパイアの暴走を止めるためには生き血が必要で町の外で隠れて血を吸うつもりのようだ。
「外で血を吸わせるつもりですか!? そんなの冒険者に見られたら討伐されますよ?」
「クックソ! じゃあどうしたらいいんだ!!!」
膝を叩きうつむき悔しそうに床に向かって叫ぶトーキーだった。
「まぁまぁ。うるさいですわね…… 外まで声が聞こえてますわよ」
執務室の扉が開きクロースがあきれながら入って来た。全員の視線が彼女へと向けられる。
「クロースちゃん? どうしたの?」
「ちょっとあなたに用事があったんですの。こちらを先に解決した方がよろしいですわね……」
歩きながらキティルの質問に答えるクロースだった。彼女はキティルの机の横にやってきてキティルとグレン達を交互に見た。
「それで何が問題なんですの?」
「えっとね……」
キティルはポーキーがここへ来た経緯と、暴走してしまった彼をどう処理するか相談していたことを説明する。
「血の渇望で生き血ですか……」
顎に手を置き難しい顔で話を聞いていたクロースがつぶやくと視線をトーキーに向ける。
「あなたたちはどれくらい血を吸わないと暴走するんですの?」
クロースが尋ねたがトーキーは膝に手を当てうつむいたままで反応しない。
「えっ…… トーキーさん!!」
少し大き目の声でトーキーに呼びかけた。慌ててトーキーは顔をあげ答える。
「すまん! えっえっと…… だいたい一週間くらいだな」
「あなたは血を吸ったのはいつくらいですの?」
「おれは…… 三日前…… 町の外へ警備に行った時に魔物を……」
「じゃあしばらくは大丈夫ですわね」
視線を天井に向け思い出しながら答えた、トーキーにクロースは笑顔でうなずいた。
「暴走を抑えるのに必要な量は?」
「量じゃない…… 定期的に血を摂取することで暴走する時間が短くなっていく…… ポーキーなら一日で大丈夫なはずだ」
「そうですか……」
トーキーの言葉を聞いたクロースは次にグレンに顔を向け口を開く。
「グレンさん。よろしいですか?」
「なんだ?」
「ポーキーさんをどのくらい寝かせられますか?」
「眠り苔の世話さえサボらなきゃずっと寝かせられるぞ」
ポーキーにまとわりつく苔を指して答えるグレンだった。回答を聞いたクロースはまた大きくうなずいた。
「じゃあこちらも大丈夫ですわね…… 世話は彼女たちに…… なら!」
顎に手を置いて何かを考えていた、クロースは何かを思いついたようで明るい表情でキティルに顔を向けた。
「キティル。この問題はダグオンに相談しましょう」
「えっ!? ダグオンちゃんに? どうして?」
ダグオンに相談し解決してもらおうというクロースだった。いきなりダグオンの名前がクロースの口から出てキティルは驚く。クロースはキティルに笑顔で答える。
「彼は実験用ヴァンパイアが暴走するのに困ってて研究していますでしょ」
「なるほど…… 何かいい案があるかもね」
ヴァンパイアを捕獲するのは難しい。ダグオンが研究を継続して行うには、実験用ヴァンパイアを安定して確保する食事は解決するべき課題で以前から研究しているという。
キティルは笑顔でグレンとクレアに指示をだす。
「グレンさん! クレアさん! ダグオンさんのところへ」
「あぁ…… わかった」
「行きましょう!」
二人はキティルに向かってうなずいて返事をした。すぐにトーキーが二人に向かって手を伸ばし口を開く。
「待て! 俺も行く!」
自分も行くというトーキーにグレンが首を横に振って答える。
「やめといたほうがいいぞ」
「いや! ポーキーは大事な友人なんだ…… 頼む」
必死に頭を下げて動向を願い出るトーキーだった。グレンはクレアに顔を向け口を開く。
「どうする?」
「わかりました。いいですよ。一緒に行きましょう。良いですよね? キティルちゃん」
「はい。大丈夫ですよ。じゃあトーキーさんもお願いします」
「任せろ。よしすぐに行くぞ。グレン、クレア!」
ぱあっと顔を明るくしてトーキーはうなずいて胸を叩いて返事をした。彼はすぐに扉を指してダグオンの元へ行こうとグレンとクレアに声をかけた。
しかし、彼に手を広げて向けてキティルが止める。
「待って…… えっと…… ダグオンちゃんは北にあるリアンテ洞窟に行っているから明日そこに行ってみて」
「そっそっか…… じゃあ俺はポーキーの面倒を…… 苔を世話すれば良いんだよな」
今日はダグオンが外出しており不在だと聞き訪問は明日となった。トーキーは自分でポーキーの世話をすると言い出した。クロースは彼を見て笑顔で口を開いた。
「いえ世話は別の者に任せます。だからあなたも休んでくださいまし」
「いや…… でもこいつを知らないやつに任せるのは……」
不安そうにポーキーに視線を向けるトーキーだった。
「ララとラピですわ。あなたも知っているでしょう?」
「あいつらが…… まぁいい……」
二人の名前を聞いてトーキーともう一人が驚く。
「えっ!? でも今は…… 二人は研修中でしょ?」
「はい。あの二人に書類の書き方を教えてたんですのよ…… なのに間違いばっかりで…… はあ…… だれに似たのかしら……」
クロースが目を細めてキティルを見た。キティルは彼女の視線に気づかず笑顔で話す。
「まぁ慣れないからしょうがないよ。私もよく間違えるもん」
「そうだな…… だいたい書類なんて面倒だし適当でいいよな」
「ねえ!」
よく間違えるというキティルの言葉にグレンが同意した。楽し気に話す二人を冷たい目で見る二人が居る。
「キティル! あながたそんなんだから二人が真面目にやらないんですわ! それにこの間も!!!」
「グレン君もですよ!!!! いっつも私が代わりに……」
怒ったクロースとクレアがグレンとキティルとそれぞれ叱りつけた。怒った二人はこの後、グレンとキティルに数十分説教を続けたのだった。その横でトーキーは気まずく小さくなっていた。




