第534話 吸血鬼はよく眠る
左手を下したクレアは視線をクルベックへと向けた。先ほどまでほほ笑んだいた彼女は厳しい表情になりさっきのこもった冷たい目をクルベックへと突き刺していた。
「あ!! っあ!? あっ……」
クルベックの顔が引きつる。クレアの右手の先からゆっくりと光の剣が伸びていき、クルベックの心臓に向けられた。
「あっあああああ…… ああああ!!!」
慌ててクレアに背中を向けクルベックは逃げ出そうとするが、腰が抜けてしまったようで彼は立ち上がれず四つん這いになり這うように逃げる。
クレアは慌てずゆっくりと彼を追いかける。顔を横に向けクレアが迫って来るのを見たクルベックは恐怖で目と鼻から液体が漏らす。
「来るな! 来るなああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
必死に這いつくばりながら逃げる、クルベックにクレアは表情を一つ変えずに冷静に光の剣を突き出した。伸びていった光の剣はほとんど音を立てず、背中からクルベックの心臓に突き刺さる。
「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
激しい叫び声が砦に鳴り響いた。光の剣にクルベックは心臓を貫かれ動かなくなった。動かなくなったクルベックを見てクレアは満足げにうなずいた。
「はっ!」
クレアは右腕を横に伸ばした。彼女の手から伸びた光の剣が鞭のようにしなって地面に突き刺さっていたエフォールに巻き付く。クレアは肘を曲げ光の剣を引っ張ったエフォールは抜けて彼女の元へと飛んでくる。右手へと戻って来たエフォールを掴むと同時に光の剣は消えた。
「ふぅ…… 終わりです」
エフォールを戻しを背中に戻し、小さく息を吐いたクレアは手を二度ほど叩く。
「終わったか?」
「!!」
背後からグレンの声がしてクレアは嬉しそうに笑って振り返った。グレンに向けてクレアは両手を広げて自分の体を見せた。
「グレン君! 見てください! やられちゃいました!」
「えっ!? おっおう……」
上着とシャツが破れいる場所を左手で指し、クレアは甘える声を出した。返事をしたグレンが視線をクレアに向けると、クレアのシャツが破れたわずかな穴から覗く黒い下着を見え頬を赤くする。頬を赤くしたグレンに嬉しそうに笑ったクレアは抱き着こうと両手を広げ前に出た。
「グッ! なっ!? 何するんですか!」
抱き着こうしたのを止めクレアにグレンは額に手を伸ばして止めた。グレンとクレアは出会った時はクレアの方が背が高かったが、五年の間に十センチほどグレンの方が彼女の身長を抜いていた。
両手を上げて叫ぶクレアにグレンは怪訝な表情で答える。
「何がやられちゃいましただよ。遊びすぎだよ。あんな奴とっとと片付けられるだろ」
「だって…… ピンチにならないとグレン君心配してくれないんですもん」
口を尖らせ腕を組みそっぽを向く。クレアを見てグレンは笑い背後から抱きしめた。
「別に傷つかなくてもいいだろ。ちゃんと心配するからさ…… だから無茶するな」
「グレン君…… うん…… ごめんね」
肩から回ったグレンの腕をつかんでクレアは小さくうなずいた。
「あっ!」
グレンは恥ずかしいのかすぐにクレアから手を離した。クレアは振り向いて名残惜しそうにグレンに手を伸ばし不満げに頬を膨らませる。
「プク」
「なっなんだよ。膨れて」
視線をグレンに口を尖らせてから、クレアは不満をあらわにして膨らませた頬をしぼませる。
「もういいです。そっちは?」
「終わったよ。ただ…… 面倒が増えた」
「うん!?」
グレンが後ろを右手の親指を立てて指した。クレアが体を傾けて彼の背後を覗き込む。そこには苔まみれで目元だけ出て目をつむっているポーキーが見えた。彼の前にはトーキーが膝をついて座っていた。
「あれは……」
「ポーキーを殺すなってよ…… 血の渇望もどうにかするってさ。だから睡眠苔を使って眠らせている」
「そうですか…… 優しいですね」
「うるせえ!」
恥ずかしそうに叫ぶグレンにクレアは微笑み舌をだし駆けて行った。クレアはそのまま捕まっていた人たちの元へ行き話を聞く。
「連れて来られた人たちはイバルッツア村や砦の周辺の村の人達みたいですね」
「そうか……」
「あと…… 聖都の人たちもいるみたいです」
「ふーん」
捕まっていた人々は聖都や周辺の村から連れて来られたようだ。グレンは両手を頭の後ろに持って行き視線を空に向け話を聞いていた。
「あいつらどこへ連れて行くつもりだったんだ?」
「わかりません。誰も聞いてなかったみたいです。汽車も魔導起動船でこの人数を移動させるのは難しいでしょう…… なら近くかも……」
拉致した人々をヴァンパイアがどこへ連れて行くか二人は考えていた。
「すいませーん。毛布か何かありませんか…… 妻が寒がって」
「あぁ。わかった…… すぐに何か用意する」
二人の元に男性が駆けて来て声をかけて来た。グレンが右手をあげ男性に答える。グレンがクレアに向き直すとクレアが口を開く。
「早く救助を呼んだ方がいいですね」
「あぁ」
うなずいたグレンにクレアは右手を上げた。
「じゃあグレン君は見張りをしててください。私が連絡して来ます」
「わかった…… ちょっと待って!」
「えっ!? なんですか? えっ!?」
この場をグレンに任せて飛ぼうとした、クレアに手を伸ばし上げていた右手首をつかんでグレンが慌てて止めた。驚くクレア、彼女をつかんだグレンの手がわずかに緑に光り出した。
クレアの足元に苔が移動して来て、足から上半身へせり上がり彼女の服の破けた部分を覆って緑に光る。光が消えると苔も消えており、クレアの服がすっかりが元に戻っていた。修復されたクレアの服を見てグレンは手をはなして口を開く。
「そんな恰好で行かせられるかよ」
「グレン君…… ふふ。ありがとう。じゃあ行って来ます」
「あぁ。ルドルフは連れて来るなよ」
再度、手を上げたクレアは地面を蹴って飛んで行った。グレンはクレアを見送るのだった。
聖都へクレアが戻って数十分後…… グレンはフードを持ってポーキーの前に座っているトーキーの前へとやって来た。背後から忍び寄るようにしてトーキーに近づくグレンだった。
「わっ!?」
グレンは座っているトーキーの頭の上にフードを雑に投げるように置いた。いきなりフードを置かれ驚いて声をあげた。
「なんだよこれ?」
頭に置かれたフードを掴んでみたトーキーは振り向いてグレンに尋ねる。
「クレア義姉ちゃんが神聖騎士を連れて来る。顔見知りがいたら面倒だろ…… 顔は隠しておけよ」
「あっあぁ。そうだな。助かる…… ありがとう…・・」
クレアはさらわれた人々の救助を依頼に神聖騎士を呼びに行った。トーキーがヴァンパイアであることは神聖騎士団には伝わっており彼のことは隠す必要がある。
うなずいたトーキーはグレンに礼を言ってフードを深くかぶったのだった。それからしばらくしてクレアが神聖騎士を連れて戻って来た。
「これは……」
「あぁ。こいつはヴァンパイアだが…… こっちで色々用事があるんでね。放っておいてくれ」
「わかりました。逃がさないでくださいね」
「任せおけ」
救助に来た神聖騎士がポーキーに付いて尋ねグレンが答える。二人のやり取りをフードの奥から見つめるトーキーだった。グレン達は神聖騎士たちにさらわれた人々を託しイバルッツア村へと戻るのだった。




