第529話 友人に声は届かず
「グッ!!!! なっなぜ……」
苦痛に顔を歪めるトーキーだった。彼の手を引っ張ったヴァンパイアは素早くサーベルを引いてトーキーの腹に突きさしていた。不意をつかれた防げなかった。
トーキーの肩に顎を乗せるくらい顔を近づけて、ヴァンパイアは彼の耳元でささやく。
「ここに血はないよ…… ”安寧の血”のトーキー君!!」
「なっ!? クソ!!」
ヴァンパイアは左手をトーキーの肩に手をかけ押してサーベルを引き抜いた。押されたようになり後ずさりするトーキーだった。彼は右手のスカーフに手を伸ばしつかんだ。
「あっああああ…… 血が……」
苦痛にトーキーの体から急速に力が抜けていく。腹を押さえて彼は膝をついてしまった。腹の傷を見て驚愕の表情を浮かべるトーキーだった。ヴァンパイアは心臓以外であれば、どんなに傷を負ってもすぐに修復され再生する。だが、ヴァンパイアによって受けたトーキーの腹の傷は修復されずに血がずっと流れている。
「これは血吸刀…… 古いヴァンパイアハンターが使ってた刀だよ…… こいつはヴァンパイアの血の力を吸うんだ」
にたにたと笑いながらヴァンパイアはサーベルの刃を顔の近くにもっていき、舌を長く伸ばして付着したトーキーの血を舐めている。
「クックソ…… こんなので」
うずくまり顔を上げヴァンパイアに手を伸ばすトーキーだった。彼の意識は徐々に薄れ視界の縁が白くなってなり大きくなっていく。やがて目の前に暗くなりトーキーは気を失ってしまった。
暗闇の中にトーキーの耳に金属に何かがぶつかるような衝撃音がかすかに聞こえた。徐々にトーキーに届く音が大きくなっていく。トーキーの意識が徐々にはっきりとして目を彼は目を開ける。
「ここは……」
目が覚めたトーキーが視線を左右に動かす。大きな檻に挟まれた場所に彼は居た。遠くに城壁が見え背後には建物がある。どうやら砦を囲む城壁の中へとトーキーは連れて来られたようだ。
「クソ!」
腹の傷は癒えていたがトーキーは柱に両手を鎖で縛られ上に向けた姿勢で拘束されていた。悔しそうに何度か両手を動かし拘束を外そうとしていた。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
「いっ!?!?!?」
檻に巨漢の男がぶつかって来て大きな音を立てた。男はヴァンパイアで白い髪を振り乱し檻の間から口を大きく開けよだれを垂らしながら、見開いた血走った青い瞳でトーキーを見つめている。
「がががが」
「ポッポーキー!!! クソ! 血の渇望か……」
隣にいるヴァンパイアはイレーヌが討伐を依頼したヴァンパイアと容姿が同じだった。トーキーは彼を見て悔しそうに顔をしかめた。
「ポーキー! 目を覚ませ!」
「がががあああああ!!!」
巨漢のヴァンパイアの名前はポーキーという、トーキーは彼を知っているようだ。ポーキーに必死に声をかけるトーキーに一人のヴァンパイアが近づいて来た。
「やあ目が覚めたかい?」
近づいて来たのはトーキーを刺したヴァンパイアだった。ヴァンパイアはトーキーの前に来ると体を曲げ彼に顔を近づけニヤニヤと笑いながら口を開く。
「おまえ…… ポーキーに何をした!」
ヴァンパイアを睨みつけて叫ぶトーキーだった。ツバが飛んで顔をしかめてヴァンパイアは顔をはなした。
「お前じゃない。僕はクルベックだ」
手で飛ばされた唾を脱ぐながら顔をしかめ名乗るヴァンパイアだった。ヴァンパイアの名前はクルベックと言う。
「何もしてないよ。僕たちはただ…… この周辺の人間以外の魔物や動物を排除しただけ……」
「なっ!?」
「優しいポーキー君は家畜を襲えなかったみたいだねぇ……」
「はっ!?」
わざとらしく悲しい顔をして話すクルベックだった。直後に彼は顔をトーキーの前に突き出した。驚くトーキーにクルベックはわざとらしく眉を下げ悲し気な顔をする。
「でも…… 渇きは抑えなられないんだねぇ。人間を襲うようになっちゃった!」
悲し気な顔から一気に口角をあげ馬鹿にしたような表情でクルベックは顔の横に右手を持って行き開いてトーキーに見せている。
「クソオオオオオオオオオオオオ!!!」
「おっと! 当たらないよぉ!」
トーキーは足を上げてクルベックを蹴った。しかし、ヴァンパイアは素早く反応し腰をくの字に曲げてかわした。
「グギギギギ!!」
眉間にシワを寄せクルベックを睨むトーキーだった。食いしばった彼の口から長い牙がのぞく。その姿を見たクルベックは両手を広げニヤニヤと笑っていた。
「そんなに怒ると渇きが大きくなるよ…… まぁここには君の求める物はたくさんあるけどな」
「はっ!?!!?!?」
目を大きく見開いて視線を左右に動かす。周囲の檻には人々が縛られて檻に入れられていた。愕然とするトーキーを見たクルベックは顔を横に向けた。彼は檻に前に立つ黒いローブを身に着けたヴァンパイア達に向かって叫ぶ。
「おい! こいつらを出せ」
「はい!」
返事をしたヴァンパイアは檻を開け、閉じ込められている人々を外へ出していた。檻から出された人々は一列に並ばされた。檻から出た人々は十人ほどの若い男女だった。
「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「キャッ!!」
並んだ人々を見てポーキーが鉄格子に体当たりをして口を開け彼らを血走った眼で見つめている。
「ポーキー! やめろ!」
必死に叫んでポーキーを止めるトーキーだった。クルベックがまた彼に顔を近づけてニヤニヤと笑って両手を広げる。
「おいおい。友達は飢えているんだよ? かわいそうだろ?」
「うるさい!」
眉間にシワをトーキーはクルベックを怒鳴りつけた。クルベックは体を起こしポーキーの檻の前に立つヴァンパイアに手で合図を送った。砦のガチャンという音が響く、ヴァンパイアはポーキーの檻の鍵を開けたのだ。
「なっ!?」
檻の側にいた黒いローブを着たヴァンパイアたちは檻の扉が開かれると、一斉に飛び上がり檻の屋根の上に飛び乗った。トーキーの前に居たクルベックはニコッと彼に笑いかけ首だけ後ろに向けた。
「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
振り向いたクルベックの視線に開いた檻からポーキーが声を上げながら、飛び出して来るのが見えた。クルベックは満足そうにうなずきポーキーに体を向け両手を広げた。
「ほら! ポーキー! 奴らを吸え!」
「やっやめろ!! こいつに罪を重ねさせるな」
「罪? 違うね…… 人間の血を吸うのはヴァンパイアの権利だ!!!」
叫んだクルベックの体がスーッと浮かび上がり空からトーキーを見下ろすのだった。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「キャアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「うわああああああああああああああああ!!!!」
声をあげたポーキーが駆け出して並んだ人々へと向かって行く。蜘蛛の子を散らすように人々は逃げ出した。ポーキーがあっという間に一人の女性との距離を詰めて手を伸ばす。彼の目には頭巾を付けて花柄のロングスカートを履いた白いシャツを着た黒髪の女性が映っている。
「いやああああああああああああああああ!!!」
女性の髪をポーキーにつかまれた女性は悲鳴を上げる。ポーキーはもう片方の手で女性の腕をつかんで拘束する。悲鳴を聞いた人々は振り返るが、足を止めることなかった。顔をしかめポーキーを恨みがましく見つめる者や自分が狙われずに安堵の表情を浮かべる者もいた。
「やめて! やめてええええええええええええええ!!!」
さらに悲痛な声が響く。捕まえた女性の髪を強引に引っ張ってポーキーは自分へと引き寄せたのだった。




