第528話 焦るヴァンパイア
イレーヌが部屋から出てグレン達の元へ戻って来た。
「お騒がせしてすみませんでした。私はイレーヌこの村の村長を務めています」
「俺はグレン」
「トーキーだ」
「クレアです」
笑顔でうなずいたイレーヌは椅子に座り、グレン達にも座るように手で合図してうながす。クレア達は彼女の向かいに並んで座った。椅子に座りクレアがイレーヌに尋ねる。
「なにがあったんですか?」
「少し前に…… ここから南に廃墟となった古代文明のエガルオン砦があるんです。そこにヴァンパイアが住み着き近隣の町や村の人々を襲うようになりました」
「それでヴァンパイアハンター協会に依頼をだしたんですね?」
小さくうなずきイレーヌは視線を下にして口を開く。
「今日の早朝にいきなりヴァンパイアの集団が来て…… 若い女性をよこせと……」
「女性を……」
「はい…… 拒否したら彼らは村人を襲いだして…… 私は子供たちを連れて家に避難しました」
うつむいて悲し気に語るイレーヌだった。視線を彼女に向けトーキーが口を開く。
「依頼書にはヴァンパイアは一人って書いてあるんだが?」
「はい。最初に砦に住み着いた一人のはずです」
「なんでそんなことが分かるんだ?」
イレーヌは砦に住み着いたヴァンパイアは一人だったという、自信をもって話す彼女にトーキーは首をかしげて尋ねる。
「襲われた人達の証言が一致するんです。ヴァンパイアは白い髪で太って体が大きく丸い青い瞳の男だと……」
「なに!? ぽっポーキー…… 襲った集団にそいつは居たのか?」
ヴァンパイアの特徴を聞いたトーキーはやや取り乱してテーブルに身を乗り出し、砦に住み着いたヴァンパイアが村を襲った集団に居たのかを聞いて来た。イレーヌは首を小さく横に振った。
「わかりません。ただ私も子供たちも見てはないです。それに……」
「うん!?」
「村の人を襲ったヴァンパイアは被害者を見つけやすい場所に置いて…… 血清を打てとメッセージを置いてました。だから犠牲者はいないんです……」
「そっそうか…… ヴァンパイアでもいい奴はいるんだな……」
ハッとしてトーキーは乗り出していた身を戻して座り直す。グレンとクレアは彼の様子を横目で見ていた。
クレアが首を横に振ってあきれた顔で口を開く。
「良い人は人を襲いません…… 人を帰せば吸血して良いなんてことはないですからね」
「グッ」
トーキーに釘をさすような言い方をするクレアだった。気まずそうに顔をしかめるトーキーから視線を外しグレンに向けたクレアが口を開く。
「外に死体はなかったので村の人たちは砦に連れて行かれたのでしょう……」
「あぁ…… だろうな」
二人の会話を聞いていたイレーヌが悲し気な表情をする。
「そんな…… 彼らは大丈夫でしょうか……」
「えぇ。しばらくは大丈夫でしょう。おそらくは彼らの目的は血ですから……」
「そうですか……」
うつむいて心配そうにするイレーヌを見たトーキーは胸を軽く叩いて立ち上がった。
「よし! すぐに討伐に…… えっ!?」
「待って下さい。少し休憩を取りましょう。私達は昨日からずっと活動してますしね……」
「何を言っているんだ! さっさと行くべきだ」
砦へすぐに出発しようとトーキーをクレアが彼の前に手を出して首を横に振って止める。三人は昨夜から休まず活動しているため、クレアは休憩をするように指示をした。指示を聞いたトーキーは不満げに口を開く。
「あぁ。クレア義姉ちゃんの言う通りだ。しっかりと休まねえとな」
「クッ…… わかったよ」
グレンもクレアに同調しトーキーは渋々了承した。話を聞いていたイレーヌが口を開いた。
「じゃあ二階の客室をお使いください。少し子供が騒がしいでしょうけど」
「ありがとうございます」
三人はイレーヌの家の客室を借り休憩を取る。客室のベッドに横になるクレア、グレンはソファに横になっている。トーキーは腕を組み椅子に座り寝ているのか目を閉じていた。疲れていたようでグレンとクレアも寝息を立て始めた。
「…… パチ」
二人の寝息が聞こえ始めるとトーキーは目を開け椅子から立ち上がる。静かにこっそりと扉へと移動し客室から出て行った。
「トーキーさん!? どこへ!」
一階からかすかに声が聞こえて扉が閉まる音がした。グレンとクレアが静かに目を開け立ち上がる。
「勝手に先に行きましたね」
「あぁ…… なんか気にしてたみたいだからな。これは命令違反で排除か?」
「いじわる言わないの! ほら追いかけますよ」
「へいへいっと」
適当に返事をするグレンの背中を押すクレアだった。二人は客間から出て一階へと下りて行く。
居間には困惑した様子のイレーヌと子供たちが居る。グレンとクレアに気づいたイレーヌは二人に声をかける。
「あっ!? クレアさんにグレンさん…… トーキーさんが……」
「一人で砦に行ったみたいだですね」
「えっえぇ…… 止めたんですが……」
「大丈夫ですよ。すぐに彼を追いかけます」
イレーヌに返事をした二人はトーキーを追いかけるため家から出て行くのだった。外へ出た二人は地面を蹴って飛び上がり南へ向かうのだった。
イバルッツア村から南へ数キロの上空をトーキーが高速で飛んでいた。彼は槍を赤いスカーフに戻して左手に巻き付けていた。
「ポーキー…… あいつが…… 人を…… クソ!」
飛びながら悔しそうに右拳を握りしめて見つめるトーキーだった。直後にトーキーが止まり彼は視線を前に向ける。
「あれが…… エガルオン砦か……」
平原に小高い丘の上に石作りで城壁に囲まれた砦が見えている。四角い城壁はところどころ崩れ四隅には尖塔三つの尖塔が残っている。かなり長い間放置されていたようで、砦の地面や壁は木や苔に浸食されていた。
「はっ?!」
尖塔の屋根の一部が崩れており隙間から人影が見えた。トーキーは慌てて地面へと下りて草むらに姿を隠すのだった。
「居なくなったか……」
草むらから顔を出して人が居た尖塔を見つめるトーキーだった。人が居なくなるを確認した彼は草むらから出て再び飛び上がって人が居た尖塔へと飛んで行く。
尖塔の上まで飛んで来たトーキーは誰も居ないのを見てニヤリと笑い着地した。崩れた尖塔の壁から砦の内部が見える。壁に身を隠し中を覗き嬉しそうにつぶやくトーキーだった。
「人が上っているってことは下に行けるってことだからな…… あれは……」
城壁の中は大きな建物が一つだけあり手前はかつて建物があったと思われる土台だけが残っていた。残った建物の前に檻がいくつも並べられ中には人が入っているのが見える。
「村人を檻に入れて…… 何する気だ…… まぁいい…… すぐに助けてやるからな。それにポーキー!」
トーキーは拳を強く握り何かを決意したようにして尖塔の階段を下りて行く。
「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
「チッ!!!」
扉を開けて外に出たトーキーに長いサーベルを持った細身のヴァンパイアが斬りかかって来た。横に移動して振り下ろされたサーベルをトーキーがかわした。
「グハアアアアアアアアアアア!!!」
サーベルをすぐに引いたヴァンパイアは続けざまにトーキーの肩にサーベルを突き出した。今度はかわし切れずにトーキーの左肩にサーベルに突き刺さった。
「キャキャキャ! 君はなにかなぁ? どうしてここにいるんだい?」
ヴァンパイアが体を前に出してトーキーの顔を覗き込んで笑う。
トーキーの目に髪が背中の中ほどまでと長く、幅広の帽子を被った緑の色の瞳に目がぎょろッとした手足が長い細長い男のヴァンパイアが口元から牙をのぞかせ笑っている姿が見えた。ヴァンパイアは黒のズボンに黒と白の縞々のシャツに濃い紫色の蝶ネクタイを付け、紫色で服の後ろ側の裾が長く別れた上着を着ている。
トーキーは苦痛に顔を歪めヴァンパイアを見て口を開く。
「おいおい。やめてくれよぉ。俺はお前の仲間だぜ」
「クッ!!!!」
笑ってサーベルを両手でつかんだトーキーは強引に引き抜いて投げるようにはなした。押されたようになったヴァンパイアは踏ん張って耐えると、体勢を戻しトーキーに視線を向けた。トーキーの肩の傷が再生されていいく。
「ここでなら血にありつけるって聞いてな……」
自分はヴァンパイアで仲間だとアピールしこの場をしのごうとするトーキーだった。
「へへへっ…… そうなんだ! じゃあこっちだよ」
トーキーの言葉にヴァンパイアはにやりと笑った。風に吹かれるようにヴァンパイアは体を左右にゆらして手をトーキーに差し出した。
トーキーはホッと安堵の表情を浮かべヴァンパイアに手を差し出した。




