第527話 上手にできました
ヴァンパイアの額から一筋の汗が垂れる。視線をクレアに固定し強く握った斧をさらに強く握ったヴァンパイアは前に出た。
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
周囲に転がる同族の死体から、醸し出される恐怖を払うように声をあげヴァンパイアは走りだす。クレアに声は届いているはずだが彼女は振り返ることもなく歩き続けていた。
クレアに追いついたヴァンパイアが彼女の後頭部を目掛けて斧を振り下す。直後にヴァンパイアの胸に大きな衝撃が走り目を見開き口から血が垂れる。
「グバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ヴァンパイアが悲鳴を上げた。前からトーキーが駆けて来て槍をヴァンパイアの胸を貫いたのだ。クレアにばかり気を取られていたヴァンパイアはトーキーの接近に気づかなかった。
槍を突き出した姿勢のままのトーキーにクレアは顔を横に向けほほ笑む。トーキーは槍を引いてヴァンパイアから槍を抜く。グラグラと頭を揺らしてヴァンパイアは地面に倒れた。同時にトーキーも膝をつく。
「はあはあ…… うっ……」
槍を地面につけ寄りかかるように膝をついて座っている、トーキーは口を押えてえづく。クレアはジッと彼の様子を見つめていた。
「ヴァンパイアを殺したのは初めてなんですか?」
「そんなことはないさ…… いや…… 実はそうだ…… 人と一緒だと思ったんだけどな…… さすがに」
震える両手を見て笑うトーキーだった。トーキーはヴァンパイアを討伐したのは、初めてで極度に緊張していたのがなくなり解け手が震えている。
「じゃあこれでちゃんとできますね…… よかったです」
クレアはトーキーに声をかけ視線を建物の屋根に向けた。
「あっあんた…… わざとこいつを生かして……」
「さぁ…… ただノウレッジの人間は口だけじゃ信じることはありません」
地面を蹴って飛び上がりクレアは建物の屋根へと向かっていった。トーキーは膝をついたまま飛んで行ったクレアを見上げるのだった。
飛び上がったクレアにへりに立って剣を収めるグレンの姿が見えた。彼は下の様子をうかがっていたようだ。クレアはグレンと目が合うとほほ笑み声をかける。
「終わりましたか?」
「あぁ。片付いた」
親指で背後を指して答えるグレンだった。クレアは顔を傾け屋根の様子を確認する。屋根の上には三人のヴァンパイアが転がっていた。
小さくうなずいたクレアはグレンに笑顔を向けた。
「じゃあ…… 部屋の中へ行きましょうか」
「あぁ。よっと!」
グレンは屋根のヘリを蹴って飛び下りた。クレアは静かに地面へと下りて行ったのだった。着地したグレンは地面に座るトーキーの前に来て彼に手を差し出す。
「立てるか?」
「あぁ…… すまないね。グレン……」
差し出されたグレンの手を取って立ち上がるトーキーだった。立ち上がったトーキーから手を離したグレンは建物の扉の前に移動する。途中で振り返り笑ったグレンはトーキーに口を開く。
「すぐに慣れるさ」
「慣れたくないんだけどな。こんなこと……」
「ははっ…… そうだな」
グレンは前を向き扉の前に立つ、クレアは彼の横へと小走りで近づき並ぶ。トーキーは二人の後ろに立っていた。
手を伸ばしグレンは扉が施錠をされているのを確認し扉を叩く。
「おい! 誰かいるか?」
「私達はヴァンパイアハンター協会から来たヴァンパイアハンターです。開けてください」
扉の中に声をかけるグレンとクレアだった。しかし、建物の中からは何も反応はない。
「返事がありませんね……」
「蹴破るか?」
「バリケードとかあったら危ないですし…… 窓から……」
「待て!」
屋根に上り窓から侵入しようとクレアが提案すると扉から鍵が外れる音がした。ゆっくりと扉が開き中から女性が顔をだしたのだった。女性は短い金髪に耳が尖ったエルフだった。鼻は高く目はぱっちりとして瞳は右側が緑色で左側が黄色のオッドアイで唇は細く美しくはかない感じの女性だ。
彼女は垂れた髪に小さな赤い髪留めを二つ上下に並べてつけている。服装は白いシャツに青い袖のない上着を羽織り長い黒いスカートを履き右手に血の付いたショートソードを持っていた。女性は依頼人のイバルッツア村の村長イレーヌだ。
「ヴァンパイアハンター…… 本物なのですね」
「はい。周囲のヴァンパイアは駆除しました。遅れてごめんなさい」
「よっよかった……」
「おっおい! 大丈夫か?」
クレアと話していたイレーヌはドアに手をかけたまま、へなへなとへたり込んで膝をついてしまった。慌ててグレンが彼女の肩を支えるのだった。
「もっ申し訳ありません……」
「気にするな」
顔を真っ赤にして恥ずかしそうにイレーヌは視線を上に向けた。グレンは顔を斜め下に向けてほほ笑んだ。グレンと目が合い慌てて顔を背けるイレーヌの頬はさらに赤くなる。グレンはイレーヌを支えて後に抱きかかえている。グレン達は家の中へ入り玄関ホールを奥へ進んでいた。
「いいなあ……」
抱っこされるイレーヌをうらやましそうに見つめるクレアだった。玄関ホールから居間へ入ったグレン達だった。今は大きなテーブルにソファが置かれ各部屋に続く扉には棚などでふさがれていた。
「おっ重くありませんか?」
「えっ!? いや全然! ほーら!」
「キャッ!」
グレンは笑うとイレーヌを抱き抱えてまま回転したり彼女を持ち上げたりする。
「こーら! グレン君調子に……」
「あっ! イレーヌ村長!」
「楽しそう!」
「ずるい! 僕もー!」
クレアがグレンを注意しようとするとテーブルの下から三人の子供が叫びながら出て来た。子供はグレンの足元へとやってきた。子供は男の子が二人に女の子が一人だ。
「わっわ!?」
「僕にもしてえ!」
「私もー! ブーンってしてえ」
「俺も! もっともっと速く!!!」
子供たちはグレンにまとわりつきイレーヌのようにしてくれとねだっていた。
「もう! おやめなさい! あなた達!」
「はーい」
「はい」
「チェ…… ケチ村長」
イレーヌが子供たちに注意する。二人は素直に返事をしたが男の子の一人は舌打ちをしてつぶやいた。
「聞こえてますよ!」
「わっ! 鬼ばばあが出たぞ! 逃げろ!」
「わー」
「わーい!」
眉間にシワを寄せるイレーヌに子供たちは騒いでテーブルの下にまた隠れた。
「下してください!」
「えっ!? あぁ」
グレンはイレーヌを床に下した。下ろされた彼女はズカズカとテーブルへと歩いていた。
「出てきなさい! まったく」
「わー! つかまったー」
「まったー」
「わっわ!?」
かがんでテーブルの下から一人ずつ子供たちをひきずりだすイレーヌだった。グレンとクレアは子供たちを引きずり出すイレーヌを見て笑っていた。トーキーは二人の少し後ろで神妙な表情をしていた。
グレンはあきれたようすでイレーヌに近づき声をかける。
「この子たちは?」
「村の子供です…… 襲撃の時たまたま家の近くに居て…… 匿ったんです」
「そうか……」
床に座ったイレーヌに抱き着いている子供たちを見て寂しそうに笑うグレンだった。
「みんな。私はこの人たちと大事な話があるの。向こうのお部屋で待っててくれる」
「わかった!」
「うん」
「ちゃんと二人の面倒みるぜ!」
イレーヌは子供たちに声をかけた。返事をした子供たちを優しく撫でたイレーヌは立ち上がり子供たちを隣の部屋へと連れて行ったのだった。




