第526話 情報は不確定
聖都から西に石で出来た小さな壁に囲まれた村がある。村の周囲には平原の肥沃な土地を利用した畑が広がっている。家が二十軒ほどの小さなこの村がイバルッツアである。
「到着っと……」
木製のアーチ状の村のゲートの前にトーキーが着地した。ゲートの下には平原の街道から別れて伸びた細い道が村の奥へと続いている。
「はあはあ…… ふぅ…… 飛ばしすぎたか」
息を整えるトーキーだった。彼が到着してすぐにグレンとクレアが飛んで来た。二人はトーキーの後ろに着地した。
「おぉ! ヴァンパイアである俺の速度に付いて来るとはやっぱりやるなぁ。お前らは!」
「ははっまあな」
「えぇ」
頬を赤くして息が上がったトーキーが振り向いて二人に口を開く。グレンとクレアは息一つ乱さずに余裕で返事をしたのだった。
「えっと…… こういうのは…… どうする?」
「まずは依頼人に会いましょう」
「依頼人……」
振り向いて尋ねるトーキーにクレアが答えた。トーキーはポケットに手を突っ込んで依頼書を取り出す。
「イレーヌ村長ってやつか……」
依頼書に書かれた依頼人の名前をつぶやくトーキーだった。
「よし! さっさと片付けるぞ」
気合を入れポケットに依頼書を戻したトーキーは勇んで村へと向かって歩いていく。
「どうした? クレア義姉ちゃん?」
トーキーに続こうとしたグレンが足を止めて後ろ見ているクレアに気づいて声をかける。
「あれを見てください…… あまり良くないかも知れません」
「えっ!? そうだな…… クソ!」
村の前に広がる畑を見てグレンは深刻な表情をするのだった。二人はトーキーを追いかけて村の中へ向かう。
「これは…… どうした……」
動揺しトーキーは左右に顔を動かしている。彼に見えたの光景は壁や地面に広がるいくつもの血痕と荒らされた村だった。
「何が一体……」
「ヴァンパイアに襲撃されたようですね…… 前の畑の作物がいくつも倒されていました。あれは複数の人が通った痕です」
荒らされた村の光景を見たクレアが答える。話を聞いたトーキーは驚愕した表情でつぶやく。
「そんな…… 依頼書にはヴァンパイアは一人って……」
「依頼書にはな。ヴァンパイアが増えることだってある」
「そうですね…… こういう場合はヴァンパイアハンター協会に増援を依頼してください」
「今日は俺達が居るからいらねえけどな」
グレンとクレアは顔を見合わせて笑った。トーキーは呆れて表情で二人を見つめていた。
「オリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
「キャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
村の奥の方から怒号と悲鳴が聞こえた。三人は顔を見合わせてうなずくと駆け出した。道を行くと大きな広場があり、広場の奥には二階建ての大きな家が見える。
家の扉の前に集団が群がっているのが見える。集団は十人フードの付いた真っ黒なローブを身に着け手にはメイスや剣などを持って武装している。扉の前に以外にも屋根や窓に人影が見える。
「開けろ!!!」
集団の先頭にいる男が扉を叩いて怒鳴りつけている。
「あいつらヴァンパイアか……」
「おそらくはそうでしょうね。こうなったら……」
「だな」
クレアは右手を背負った大剣へと持って行く。グレンも右手を剣にかける。クレアは前に立つトーキーに声をかける。
「突っ込んで助けますよ」
「えっ!? あぁ…… わかった」
振り向いて寂し気にうなずくトーキーだった。クレアはトーキーに尋ねる。
「トーキーさんあなたは武器は持ってますか?」
「俺にはこれがある……」
丸腰のトーキーに武器があるか尋ねるクレアだった。うなずいたトーキーは前に出て左腕に着けていた腕章を外し右手に持った。
「ハッ!!」
腕章は赤いスカーフで彼が力強く腕章を握ると白く腕章が光り出した。腕章の形が変わり大きな刃を持つ白い金属の槍へと変わった。トーキーは槍を頭上で回転させてゆっくりと下ろした。
「さぁ行こうか」
振り向いたトーキーはグレンとクレアに声をかけ二人は静かにうなずいた。直後に三人は同時に地面を蹴って駆け出した。
「クッ」
悔しそうにするトーキーだった。同時に出たグレンとクレアははるか前に出ていた。彼は二人にあっという間に引き離されてしまったのだ。
村長の家の手前三メートルほどでクレアが立ち止まり大剣を引き抜く、グレンは止まらず一気に村長の家へと走っていった。グレンの目に村長の家に群がるヴァンパイアの集団の背中が見えた。
「一番乗り!」
「えっ!? グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
グレンの声が聞こえヴァンパイアの一人が振り返った。同時にヴァンパイアの視界が真っ暗になりグレンの剣が彼の顔面を貫いた。素早く剣を引き抜くグレン、振り向いたヴァンパイアはその場に膝をついて倒れそうになる。グレンは素早く剣を引いてヴァンパイアの心臓を貫く。
「なっ何者だ!? お前…… いっ!?」
突如として現れたグレンにヴァンパイアの一人が反応し、持っていた剣を彼に向けようと手に力を込めた。グレンはニヤリと笑いながらヴァンパイアの視界から消えた。彼は素早くしゃがんだのだ。
「グハアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「お前らですよ」
「「ぐああああああああああああああああああああああああ」」
悲鳴が響いたヴァンパイアの剣は上がることはなく腕と一緒に地面へと落ちた。クレアが伸ばした光の大剣を水平に振り抜いたのだ。一振りは三人のヴァンパイアを同時に斬りつけた。
「じゃあ俺は上に行くぜ」
「お願いしまーす」
「いぎ!?」
「ぐはあ!!?」
「ガッ!?」
地面を蹴って伸びあがるようにして、飛び上がったグレンはクレアに声をかけ屋根の上へと向かった。
クレアは返事をしながら左手を大剣からはなすと指先から伸ばした光の剣で倒れた三人のヴァンパイア心臓を貫く。
クレアが左手を引くと光りの剣が指先へと戻っていく。彼女は視線を左右に動かし口元を緩ませる。彼女の前にいるヴァンパイアたちは目を大きく見開き後ずさりする。
「さぁ…… あなた達も同じようにしてあげますね」
「なっなんだこいつ…… みんな! 一斉に行くぞ!」
ヴァンパイアたちが武器を構え一斉にクレアに襲い掛かった。武器を持った五人のヴァンパイアがクレアへと迫って来る。
「遅いですよ」
右手に持った大剣を水平に振り抜き、クレアは迫って来るヴァンパイアを斬りつけた。
「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」」」」」
五人のヴァンパイアは真っ二つに切り裂かれる。地面へヴァンパイアが次々に倒れていく。倒れたヴァンパイアを見てクレアはにっこりとほほ笑み前へと歩き出す。
「ぐは!」
「ぐぼお!!」
「ぐえええ!!」
「ぎゃああ!!」
「グげげええええええええ!!!」
歩きながらクレアは淡々と倒れている、ヴァンパイアの心臓に指先を向け光の剣を突き刺していく。
家の扉の前に一人のヴァンパイアが立っており、迫って来るクレアを怯えた顔で見つめている。一歩ずつクレアはヴァンパイアへと迫る。彼女はヴァンパイアの一メートルほど前に来ると光った指先を向けた。
「あっあああああ……」
クレアの指先の光がヴァンパイアの頬を照らす。彼は恐怖に顔を引きつらせていた。
「フフ…… ふー」
体をかがめてヴァンパイアの顔を覗き込み、ほほ笑んだクレアは指先に息を吹きかけた。光っていた指先から光が消え彼女は振り向いた。クレアは大剣を背中にしまうとゆっくりと前へでて歩いていく。
「えっ!? ええ…… へへへ……」
自分に背中を見せゆっくりと歩いて行くクレアにヴァンパイアは驚いていた。隙だらけの背中を見せるクレアに、ヴァンパイアは口元を緩ませ持っていた斧を強く握り振り上げた。




