第525話 信用するには
キティルが引き出したから出した紙が机の上を滑りトーキーの前へとやってきた。
「これは……」
視線を下に向けたトーキーは自分の前へと滑って来た紙を見てつぶやく。キティルはニコッとほほ笑み口を開く。
「それはここから西にあるイバルッツア村のヴァンパイア討伐依頼書だよ」
「あなた? どういうことですの?」
「ふふ。任せて」
キティルはクロースの手首から手を外し、彼女にほほ笑みかけると静かに椅子に座り直した。キティルは座るとトーキーを見上げ笑顔を向ける。
「俺にヴァンパイアを倒して来いってことか?」
「うん。お願いね」
眉をひそめトーキーはジッとキティルを見つめ尋ねる。キティルは大きく笑顔でうなずいた。
「キティル!? どうして彼に仕事を……」
「クロースちゃんが言ったんでしょ。ヴァンパイアを信用するなって! だからテストだよ」
眉間にシワを寄せ怒った様子でクロースがキティルの横から口を挟んだ。キティルはトーキーをテストして信用に値するか確認すると言う。トーキーはクロースとキティルをを見て鼻で笑い不機嫌そうに口を開く。
「ふん…… 人間の方が信用でないだろうよ。俺達を利用しいつも捨てるじゃないか!!!」
クロースとキティルを怒鳴りつけるトーキだった。彼を見てキティルは首を横に振り失望したようにつぶやく。
「じゃあ、いらないわ!」
「えっ!?」
必要ないと言われた目を大きく見開き驚くトーキーだった。キティルが右手を天井に向けると、彼女の手の上に再度小さな小さな太陽が現れ上る。
ジッとトーキーを見てキティルは怒りがこもった言葉をつなぐ。
「トーキーさん…… 私はウォルフを倒すの。そしてエリィを取り戻すの。ヴァンパイアでも使えるなら使う…… でも使えないならいらない…… 焼き払うだけ」
協力しないならいらないとトーキーに告げたキティル、トーキーは何もずに驚愕の表情を浮かべている。徐々に彼女の右手に輝く太陽の光が強くなっていく。トーキーの皮膚が焦げまた焼けるように熱くなっていく。クロースはトーキーを見て問いかける。
「早く答えなさいな。それとも…… ウォルフを倒すなんていうのは戯言だったのかしら?」
光りに照らされたトーキーはキティルを真顔で見つめて答える。
「やる…… やれば良いんだろ? ただし条件がある…… 成功したらウォルフを殺すを手伝え!」
「いいですよ。それはこっちも望むところです」
優しくほほ笑んでうなずいたキティルは右手を握り、小さな小さな太陽を消した。そのまま横を向いてクロースに右手を上げ合図を送る。クロースはトーキーに近づき短剣で縄を斬った。
「ふぅ…… お前さんきつく縛りすぎだ」
縛られていた手首をおさえながら、トーキーは横に立つラピに視線を向けて彼女の縛った縄のきつさに文句をつける。
「当たり前だ。おめさヴァンパイアだからな」
「そうよね。甘えるんじゃないわよ。ヴァンパイアなんか信用できないのよ!」
鋭い視線でトーキーに厳しい表情を向けるララとラピだった。トーキーは肩をすぼめて下唇を前に出し不服そうにしてキティルに顔を向けた。
「協会長さん…… しつけがなってねえな。ちゃんと教育しろよ」
「ヴァンパイアハンターがヴァンパイアに厳しいのはむしろ良い教育が出来ていると思ってます」
とぼけた顔でキティルが答えると苦い顔をするトーキーだった。トーキーの顔を見て笑ったキティルはグレンとクレアに顔を向けた。
「グレンさんとクレアさんは彼に同行してください」
「わかりました」
「あぁ……」
二人は手を上げて返事をした。トーキーは不機嫌な表情をキティルへと向ける。
「ガキじゃねえんだから手伝いなんていらねえよ」
グレンとクレアの同行を拒否するトーキーにキティルは小さく首を横に振った。
「ううん。二人は手伝いじゃないよ。監視だからね。失敗したり裏切ったらあなたを処分するんです」
「クッ…… クソ……」
悔しそうにするトーキーにキティルはにんまりと笑っていた。ララが机の下から手を上げた。
「じゃああたしも! 一緒に……」
「ダーメ!」
「なんでよ!」
自分達も付いていくララだったが、キティルは即座に却下した。キティルは落ち着いた口調でララに口を開く。
「ララちゃんとラピちゃんは特別任務があるの」
「えっ!? 特別任務!?」
特別任務と聞いて目を輝かせるララだった。キティルは口元をニヤリとさせ顔をクロースに向けた。
「じゃあ、クロースちゃんお願いね。後、プリシラさんを呼んでくれる」
「わかりましたわ。じゃあ行きますわよ。二人共!」
「えっ!? あっ」
「なんだべ!?」
クロースはララとラピの手を掴むと二人を引っ張って部屋から出て行ったのだった。三人が出て行ってすぐにプリシラが執務室の部屋の扉を開けた。
「お呼びですか?」
「うん。彼に一般ハンター装備を用意してください」
扉を開けたプリシラにキティルはトーキーを指して答えた。
「えっ!? わっわかりました」
プリシラは少し動揺した様子で返事をすると扉を閉めた。しばらくすると扉がノックされたプリシラが戻って来たようだ。
「もっ戻りました。開けてください」
「おう」
グレンが返事をして扉に行って扉を開ける。扉の前には桶くらいの大きさの宝箱を抱えたプリシラが立っていた。
「じゃあこれです」
「おう! 悪いな」
背中で扉を押さえてプリシラから宝箱を受け取るグレンだった。プリシラは扉が開かれるとチラチラと部屋を覗きトーキーを見ていた。
宝箱を抱えてグレンはトーキーの前へと来た。
「トーキー! これはお前のだ!」
「えっ!?」
グレンから宝箱を差し出されたトーキーは受け取った。彼はしゃがんで床に宝箱を置いて開ける。
中には薄茶色のフード付きのマントに革の鎧に手袋に膝当てと肘当てと装備一式と木箱が入っていた。トーキーは中から一つずつ出して床に並べる。
「なんだ…… これ?」
宝箱の中身を見てトーキーは首をかしげる。横に立っていたグレンが口を開く。
「ヴァンパイアハンターの標準装備だ。ここじゃ神聖騎士の鎧じゃ動けねえだろ」
「そうか…… ヴァンパイアがヴァンパイアハンター装備か…… 面白いじゃねえか」
神聖騎士の鎧を外しトーキーはヴァンパイアハンターの装備へと着替えるのだった。トーキーは鎧の腕に巻き付けていた赤い腕章を外し自分の左腕に着ける。着替え終わったトーキーはキティルの机から依頼書を取りポケットに突っ込んだ。
「よし…… じゃあ行って来る!」
「行ってらっしゃい。終わったら報告してね」
「おう! 任せとけ。行くぞ。グレン、クレア!」
うなずいて返事をしたトーキーはグレンとクレアを連れ部屋から出て行くのだった。トーキーはヴァンパイアハンター協会から出た。
「えっと…… イバルッツアは西だよな…… よし!」
ポケットから依頼書を見て場所を確認した、トーキーは階段を上がって地上へと出た。朝の澄んだ空気の空が聖都の上に広がっていた。
「地上に下りるなら地下からの方が早いぞ」
「下りる? ふん…… 俺はヴァンパイアだぜ! こうするんだ!」
「おっおい! クソ!」
地面を蹴って軽くジャンプしたトーキーの背中に蝙蝠のような翼が生え一気に飛んで行った。慌ててグレンも地上を蹴って飛び上がる。クレアも二人に続いて飛び上がった。
あっという間にグランドアーリア平原へと出たトーキーは西へ向かって速度を上げて飛ぶ。彼の少し後ろをグレンとクレアが飛んでいる。
「朝日の中を飛ぶヴァンパイアか…… フフ」
前を飛ぶ朝日に照らされるトーキーを見て笑ってつぶやくグレンだった。




