第523話 お休み会長
剣をおさめたグレンはトーキーの背後から肩に手をかけ起こす。トーキーは安堵の表情を浮かべていた。
「グレン君 また彼の口を塞いでください」
「了解!」
手をパンと叩いたクレアはグレンに指示を出していた。
「なっ!? なぜ!? 僕は君達の敵じゃ?」
「わかっています。それでもあなたはヴァンパイアです。ヴァンパイアハンター協会としてあなたを簡単に自由にできません」
「だってよ! 諦めろ」
「クッ……」
グレンは布を出してトーキーの口をふさいだのだった。グレンはクレアに近づいて右手の親指を立てトーキーを指した。
「どうするんだ? あいつ?」
「連れ帰ってキティルちゃんとクロースちゃんに引き合わせます」
「わかった……」
右手をあげグレンはうなずいて答えるのだった。二人の後ろでララをラピは縛られているトーキーに視線を向けた。
「ヴァンパイアの中も複雑なのね……」
「んだな……」
腕を組みつぶやくララにラピはうなずくのだった。二人の間にクレアが立って手を叩いて体をかがめて視線を合わせる。
「さぁ。ララちゃん、ラピちゃん! これで仕事は終わりですよ。帰りましょう」
「んだ!」
「うん!」
二人は笑顔でクレアに返事をした。リレイルの討伐により貧民街に現れたヴァンパイアは解決した。グレン達はヴァンパイアハンター協会へと戻る。
グレン達はステファニーの前に並んだ。ラピはトーキーを縛っている縄を持っている。
「じゃあ私達は戻るわね。ステファニー! 色々手伝ってくれてありがとう」
「ありがとうだす」
「うん。大丈夫だよ。こっちこそありがとうね……」
ララとラピがステファニーに礼を言うと、笑顔でステファニーは彼女らに答える。ただ、その笑顔は徐々に曇っていく。
「はあああ……」
「どうしたの? ため息をついて?」
大きなため息をついたステファニーに首をかしげるララだった。ステファニーはしょんぼりとして寂しそうにうなずく。
「うん…… ヴァンパイアは居なくなったけど…… トーキー君にジャンセンさん…… それにリレイル君も居なくなったら明日から…… 忙しく…… はああああ」
今回の事件で貧民街の担当する神聖騎士が三人も抜けてしまう。負担が増えると嘆くステファニーだった。彼女を見てグレンが笑った。
「しゃーない…… 上に言うんだな」
「あっ! そうだ! だったらグレンさんが言ってくださいよ」
グレンを見たステファニーが彼に神聖騎士の上層部に掛け合うように頼む。
「なっなんで俺が!? 俺は神聖騎士じゃねえよ」
「だってグレンさんってルドルフさんの友達ですよね? だからルドルフさんにステファニーが困っているって言ってください」
「はああ!?」
「グレンさんの言うことならルドルフさん聞いてくれると思うんですよ。だってすごい信頼しているし!」
得意げな顔をするステファニーの前でグレンは苦い顔をしていた。二人の会話を聞いていたクレアは吹き出すのを必死にこらえていた。クレアは肘でなんどかグレンをつつきグレンは眉間にシワを寄せ彼女を睨む。ムッとしたグレンはステファニーに向かって叫ぶ。
「うるせえ! 友達じゃねえし!」
「えぇ!? そうなんですかー…… しょんぼり」
悲し気にうつむくステファニーにグレンは腕を組み不服そうに口を尖らせる。優しく笑ったクレアはステファニーに声をかける。
「大丈夫ですよ。私からルドルフさんに伝えます。彼ならすぐに人を手配してくれるでしょう」
「えっ!? やった!!!!」
クレアの言葉に顔をあげて両手を天所に突き上げ喜ぶステファニーだった。グレン達はトーキーを連れてヴァンパイアハンター協会へと戻って来た。地下で分かりづらいが、夜はもうすっかり上がり朝になっていた。
ララとラピを先頭に拘束されたトーキーを挟むようにグレンとクレアが後ろから奥へと進む。カウンターにいてグレン達を見つけた、プリシラが笑顔で声をかけて来る。
「お帰りなさいー…… えっ!? 神聖騎士さん? なんで……」
拘束されたトーキーを見て驚き止まるプリシラだった。グレンは顔を傾けトーキーの横から顔をだすようにしてプリシラに答える。
「ちょっとな。キティルは居るか? こいつのことで話がある」
「えっ!? はい。執務室にいるはずですよ」
「わかった。ありがとう! 後…… クロースも呼んで来てくれ」
「はっはい」
返事をしたプリシアが振り向いて戻ろうとするとグレンがすぐに口を開く。
「おっとプリシラ! こいつヴァンパイアだから触るなよ」
「えっ!?」
斜め前にいるトーキーを指すグレンに、目を見開きさらに驚き立ち止まるプリシラだった。キティルの居場所を聞いたグレン達は前へ進む。グレンは笑顔で立ち止まったままのプリシラを追い抜いて手を振るのだった。
グレン達はキティルの執務室へとやって来た。
「キティル! 戻ったわよ!」
ララが扉をノックをしキティルを呼ぶ。しかし、返事はなく廊下はすぐに静かになる。
「あれ!? 出ないわね……」
「居ねえのか……」
返事をない扉を見て首をかしげる、ララの横でラピは残念そうにしていた。トーキーは神妙にしてクレアとグレンは三人の後ろで顔を見合わせた。
「おかしいですね。執務室と聞いていたのに……」
「ったく…… しょうがねえな。探してくるか」
グレンがキティルを探しに行こうと歩き出すとすぐにララが止める。
「待って!」
止められたグレンが立ち止まり振り返った。彼の視線にはララが扉に手をかける姿が見えた。
「えっ!? 勝手に開けていいんだべか?」
「鍵をかけてないってことは開けていいのよ…… それと静かにね」
右手で扉を開けながら横を向いて、ララは左手の人さし指を口にあてラピに静かにするように指示をした。彼女は慎重にゆっくりと扉をわずかに開けると中に首をつっこんで覗く。
「やっぱり…… キティル~!」
ララは中を見て苦々しい顔をして扉を開けた。グレン達に扉の奥の様子が見えてくる。
「寝てんのか……」
執務室の奥に置かれたキティルの机と椅子がある。キティルは椅子に深く座って背もたれに体をあずけ天井を向いて居眠りをしていた。
「魔法学校でも有名だったのよ。さぼり屋キティルってね…… よく良い昼寝場所を教えてもらったわ」
扉を開けた姿勢で振り向き得意げな表情をグレン達に向けるララだった。
「おっおう…… ったくだから落ちこぼれるんだろう」
「グレン君は人のこと言えませんけどね」
「うっうるせえ」
「ふふふ」
頬を赤くするグレンにクレアはほほ笑むのだった。ララたちは慎重に物音を立てずに、ゆっくりとキティルへ近づく。
「ふふふ…… グレンさん…… そんな…… かわいいだなんて…… ふひひひひ」
椅子で居眠りをしにやけながら寝言をつぶやくキティルだった。グレン達はキティルの机の前へとやってきた。
「どうするべ?」
「任せて」
右手の指を立てたララがキティルの机へ向ける。机に置かれた羽ペンがゆっくりと浮かび上がる。羽ペンはゆっくりとキティルの顔へと近づく。
羽はキティルの口か鼻を優しく撫でるように動く。羽の先がキティルの鼻をくすぐる。
「はっはっはっ!!!! はっくちゅん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
大きなくしゃみが執務室に響いた。目を覚ましたキティルにグレン達の姿が見えた。いきなり執務室に現れた彼らに彼女は混乱して声をあげる。
「はっ!? えっ!? グッグレンさん!!!! どうして?」
「私もいるんだけど?」
「オラも!」
グレンの名前だけを呼ぶキティルだった。ララは不服そうに口を腕を組みラピは左手をあげて存在をアピールする。キティルは顔を横に動かしララとラピを見た。
「ララちゃんにラピちゃん? おっお帰り……」
困惑しながらキティルはララとラピに声をかけるのだった。




