第522話 安寧の血
クレアとラピの二人は神聖騎士団の詰め所へと戻る。ラピは拘束されたトーキーの縄を引っ張り、倒れていた女性とリレイルをクレアが両肩に担いでいる。
「ラピ!!」
前から声が聞こえたステファニーとララとグレンが前から歩いて来ていた。
「トーキー!!! やっぱりあんただったのね……」
一人で駆けて来たララがトーキーの前で立ち止まり彼の顔を指で指した。
「ブンブン!」
「なによ。見苦しいわね…… ってなんでこいつが生きているのよ! ヴァンパイアでしょ!」
必死に首を振って否定するトーキーだった。ララはトーキーに向かって叫びクレアに顔を向けた。ステファニーとグレンもララに続いてやって来てクレアを見た。
「えっと…… 戻ってから話しますよ」
クレアは詰め所に戻ってから説明をすると三人に告げた。不満そうなララに横で首をかしげるステファニーだった。ただ一人だけ素直に彼女の言うことを聞き入れうなずいて手を伸ばす。
「そうか。ほら貸しな」
グレンはクレアに向かって手を出し、肩に担いでいる女性を彼女から受け取り抱き抱える。ステファニーがグレンに近づき彼が抱き抱えた女性の髪をかき上げ顔を確認する。
「酒場の上級娼婦さんですね。確かミーロさんもそうでした……」
「そうか」
「すぐに教会の診療所に連れて行きます」
「わかった。行こう。クレア義姉ちゃんたちは先に戻っててくれ」
ステファニーの指示にうなずいてグレンは返事をした。二人はすぐに教会にある診療所へと女性を連れて行くのだった。クレアたちはトーキーを連れて神聖騎士の詰め所へと戻って来た。
詰め所の前で話を始めるグレン達だった。詰め所の扉の前にトーキーを座らせ横にリレイルの死体を横に置いた。二人の後ろでララ、グレン、ステファニーとクレアと向かい話を始める。
「まずは先にグレン君たちの報告をお願いします」
「あぁ」
グレンはうなずきラピとクレアの二人にジャンセンを尾行して起きたことを話した。
「ゴミ捨て場で町の人を脅して…… そんな人だったんですね」
「んっんだ…… 意外だべ……」
詰め所を見てつぶやくララだった。話を聞いていたステファニーは顎に指を置いて視線を天井に向けた。
「うーん。ジャンセンさんは真面目で問題はなかったけど…… まぁでも…… 別に珍しくないかも! ここじゃ前の隊長も市民への暴行で砂塵回廊送りになったからねぇ」
「うわああ。悪者ばっかりね…… はっ!?」
前任の隊長も不祥事を起こしていたというステファニーにあきれていたララは目を大きく見開いて彼女に尋ねる。
「じゃあステファニーもなにかやったの?」
「わたし? えっと…… えっと……」
視線をララに向け彼女の問いかけに、ステファニーはまた顎に指を置き天井に視線を向けた
「えっと…… 聖都が魔物に襲われた時に間違って聖堂の鐘を落として味方と敵を巻き込んだりしたくらいかな。後は…… 護衛をした枢機卿の人がシスターさんのお尻を触ったんで叩いて止めたくらい……」
記憶を思い出しながら話しをするステファニーにグレンが顔を引きつらせる。
「おっおう。意外と豪快だな」
「そお?」
首をかしげるステファニーは笑って視線を周囲に向けた。
「だからここに居る神聖騎士はちょっと上と違うかもねぇ」
ステファニーはグレン達に向かって無邪気に笑ったのだった。貧民街にいる神聖騎士は不祥事を起こし飛ばされて来た者が多く。ジャンセンは不祥事を起こして飛ばされたわけでないが、徐々に貧民街に染まっていったのだった。ステファニーの話を聞いたララとラピが顔を引きつらせ、グレンは顔を横に向けクレアに口を開く。
「じゃあ次はクレア義姉ちゃんたちだな」
「はーい。えっと…… ゴミ捨て場から出て」
手を上げて笑顔で返事をしたクレアがトーキーを尾行して見て来た、彼が貧民街の人たちの話を聞き女性を襲ったヴァンパイアと戦闘していたことを話す。
クレアの話を聞いたグレンは驚愕の表情を浮かべトーキーに顔を向けた。
「ヴァンパイア同士が争ってただと……」
「はい。トーキーさんは話を聞いてくれと言うので…… ここに……」
ララは不満そうに腕を組み困惑した表情を浮かべるグレンだった。クレアとラピもどこか納得していないような雰囲気だったが、ステファニーは無邪気に笑って両手を上げた。
「じゃあ! トーキー君の話を聞いてみよう」
「ちょっと! こいつはヴァンパイアなのよ! 話なんか聞かないで…… すぐに処理をすべきよ」
トーキーの話を聞こうとするステファニーをララが慌てて彼女を止めた。ステファニーは首をかしげララを見ている。
「うーん…… でもトーキー君は悪いことしたっけ?」
「それは…… 別に…… でもヴァンパイアだから……」
「ヴァンパイアだって喋れるんですから! 大丈夫ですよ」
「ちょっと待ちなさいよ! えっ……」
ステファニーに手を伸ばそうしてララは彼女を止めた。直後にララは何者かが彼女の肩に手をかけられて驚く。慌ててララが振り向くとグレンが立っていた。
「グレン……」
「話くらい聞いても良いだろ。ただし…… 拘束を解くの口だけだ!」
笑顔をララに向けたグレンは前に出て二人を追い抜いてトーキーの前に来た。トーキーは後ろ手に縛られ正座をさせられていた。グレンは剣に右手をかけトーキーを睨みつけた。
「フー!!!????」
グレンは足を上げてトーキーを蹴りつけ後ろに倒す。剣を抜いた彼はトーキーに振り下した。
「あっ…… ぐっ!!!」
トーキーの口を塞いでいた布が外れた。すぐにグレンが彼の心臓に剣を突きつけた。
「少しでも余計なことをしたら…… 俺がお前を殺す…… いいな?」
「わっわかった……」
小さくうなずいたトーキーだった。グレンは顔を横に向け視線をクレアに顔を向ける。クレアは小さくうなずいて口を開いた。
「トーキーさん…… あなたはヴァンパイアですね」
「そうだ」
クレアの問いかけにトーキーはうなずいて返事をした。クレアはさらに尋ねる。
「リレイルさんが言ってた”安寧の血”とは何ですか?」
「僕達一族の名前だ。僕たちはガルバルディア帝国のハイランドシルヴァ山脈にずっと隠れ住んでいた…… 他のヴァンパイアとはほとんど交流することはなかった」
「なぜノウレッジに?」
「君達の…… いや愚かなヴァンパイアが魔王軍との戦争に加担し人間の世界に進出しようとしたんだ…… それが失敗して一時的に彼らを匿った」
魔王軍との戦争で落ちぶれた教会の福音派とヴァンパイアは接触し、主流となった現生主義派から主導権を奪おうと画策した。しかし、魔王軍は勇者オリビアにより討伐され福音派とヴァンパイアの企みは失敗に終わる。その際にヴァンパイアたちは一時的に”安寧の血”に身を寄せて匿われていたという。
天井を上に向け話していたトーキーは眉間にシワを寄せ悔しそうな表情をする。
「でも…… ヴァンパイアたちは僕たちを裏切った。教会の福音派と結託し僕らの里を襲ったんだ。族長は怪我をし…… 僕の妹は彼らにさらわれた」
「そうですか。あなたは福音派を追ってノウレッジに……」
「あぁ」
トーキーは小さくうなずく彼は連れ去られた妹を追ってノウレッジにやって来たのだ。グレン、ララ、ラピ、クレア、ステファニーは彼の話を真面目に聞いていた。
「わかりました…… ありがとうございます。グレン君…… 剣をしまってください」
「うん!? わかった」
話を聞いたクレアはグレンに剣をしまうように指示をだした。うなずいて返事をしたグレンはトーキーを睨みつけ牽制しながら剣をしまうのだった。トーキーは安堵の表情を浮かべていた。




