第521話 諸共
クレアとラピが唖然としていると、掴みかかっていたトーキーを神聖騎士が突き飛ばした。トーキーは神聖騎士から離れ倒れそうになりながらなんとか踏ん張って耐える。体を起こして前を向きトーキーは神聖騎士を睨みつけた。
「リレイル…… お前だろ? ミーロを襲ったのは? なぜそんなことを!」
「味見だよ! 解放戦線に送られる前のな!」
神聖騎士の名前はリレイルという。トーキーやステファニーの同僚である。リレイルは腰に剣とベルトから紐で繰りつけられた厚手で口が広い手袋をぶら下げている。テックの修理屋から手袋を盗んだのはレレイルだったようだ。
プラプラと揺れる手袋を見たトーキーは眉間にシワを寄せリレイルを睨みつけ叫ぶ。
「お前のようなやつがいるから…… マージャ様やリリファが!!!」
「なんだ…… 貴様! ”安寧の血”か!! 人間に従う裏切り者め!」
「俺達は従っても裏切ってもねえよ!」
トーキーは腰にぶら下げていたメイスを掴んで取り出し構えた。
「ふん! 生意気な……」
不服そうに鼻で強く息を吐きリレイルは手袋を外して両手に付けた。彼は両手を体の前に交差させ開きながら勢いよく下した。手袋が伸びて太い銀色の刃に変化する。体を横に向け右手を前にだし構える両手の刃が灯りに照らされ光輝く。
「生意気なのはお前だよ!!」
トーキーはメイスを両手で持ってリレイルに殴り掛かった。リレイルはメイスを刃となった両手をクロスさせ受け止める。大きな音が響いてリレイルは顔をしかめ両足が地面にわずかにめり込んだ。
「グッ! クソ!」
リレイルは両手に力を込めてトーキーのメイスを押し返した。悔しそうに顔をしかめ押されたトーキーは後ろに二歩ほど下がる。素早くリレイルは腕を引いて刃の尖った先をトーキーに向けて突き出した。
「チッ!!」
必死にトーキーはメイスから左手をはなし、体を斜めにして突き出された刃をかわした。トーキーは目の前に突き出されたメイスを振り上げてリレイルの刃へと叩きつける。大きな音がして突き出されたリレイルの右腕が下ろされた。トーキーは右腕を引きながら横に開きそのままリレイルの頭を叩こうした。
「クソ!!」
「やるじゃねえか」
トーキーとリレイルは一進一退の攻防を繰り広げていた。
広場の入り口でラピとクレアは二人の戦いを見つめていた。激しく争うヴァンパイアに動揺してラピが横に顔を向けクレアに尋ねる。
「どっどうするべ?」
「うーん…… どうするもありません。敵が一体から二体に増えただけですよ。二人共排除してください」
「でっでも…… どうすれば…… うえっ!?」
二人とも排除しろという指示をするクレアだった。指示に躊躇するラピだったするとすぐに彼女前からクレアが消えた。
トーキーがメイスを振り上げリレイルは両手を振り上げ斬りかかろうとしていた。
「いぎ!?」
「ぐえ!?」
目を大きく見開き信じられないという表情をするトーキーとリレイルだった。二人の間に横向きで体を浮かせ両手をクロスさせたクレアが急に現れたのだ。彼女は右手に大剣を握り左手は拳を握り白く光らせていた。
左右に視線を向けたクレアは口元を緩ませた。
「ドーン!!!」
「ぐはああ!!」
「ぐわああああ!!」
叫びながらクレアは両足を伸ばし地面に着けて同時に両腕も伸ばした。リレイルとトーキーの胸をクレアは同時に殴りつけた。二人は左右に飛んで吹き飛ばされた。トーキーはすぐそばのゴミ山に体を突っ込み砂煙を上げた。リレイルは吹き飛ばされ地面に背中から叩きつけられた。
「がっは……」
仰向けで口から血を流すリレイル、腕の刃が短くなり手袋に戻っていた。必死に体を起こしたリレイルに剣を持ったクレアが近づいて来るのが見えた。
「あっあああ…… お前は何者だ……」
恐怖で顔を青くさせてリレイルは逃げようとする。だが、彼の体は衝撃のダメージでうまく動かず腰が抜けて立つことできない。必死に手を動かして足で地面を蹴って後ずさりする。
「グハアアアア!!!」
必死に後ずさりするリレイルの右足の甲を、クレアの左手の人さし指から伸びた黄色の光の剣が貫いた。クレアは指を曲げ光の剣を消して、今度は指を二本立てて左手を自分の顔の横へと持って行く。
「私はクレア…… ヴァンパイアハンター! そして…… ノウレッジの銀色怪物を絶対に倒すお姉ちゃん…… です!!!!!!」
左手を前に出して突き出した、同時にクレアの指から勢いよく伸びた光の剣がリレイルの胸を貫いた。胸から飛び散った血が地面を赤く染めた。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
リレイルが叫び声が広場に響き彼は動かなくなった。クレアは剣を消し腕を下したラピに振り向き声をかける。
「ラピちゃん! こうやるんですよ! さあ彼も!」
「んっんだ……」
うなずいたラピは腰に付けて金棒を持ち、トーキーが吹き飛ばされたゴミ山へ向かう。クレアも走ってラピに続いてトーキーの元へ向かう。
緊張した面持ちで金棒を強く握りしめ砂埃が舞うゴミ山に近づく。
「えっ!? うわああああああああああ!!!」
ラピが目を大きく見開いて立ち止まった。砂埃の中からトーキーが彼女の前へと這い出て来たのだ。ラピは慌てて金棒を振り上げ、トーキーは手を伸ばして横に動かして叫ぶ。
「待て! 待ってくれ!!! 俺は違う! 違うんだ」
違うと必死に言ってトーキーは待てとラピを止める。ラピは金棒を振り上げたまま止まり彼に尋ねる。
「でも…… おめさヴァンパイアだべ?」
「そうだ! 俺はヴァンパイアだ」
「なら!」
自身がヴァンパイアであることを認めたトーキーにラピは大きく金棒を振り上げた。
「うわああああああああああ!!! 頼む話を…… 話を……」
涙を流し必死に懇願するトーキーにラピはまた動きを止めた。ラピの後ろにクレアがやって来て厳しい表情をトーキーに向けた。
「聞きませんよ? あなた達は人間を襲う時に話を聞くんですか?」
「頼む…… 頼む…… 俺はここで死ぬわけには…… リリファを…… 妹を……」
クレアの問いかけにトーキーは答えず、泣きながら必死に懇願するだけだった。クレアは鼻から小さく息を吐いてラピに顔を向けた。
「ふう。ラピちゃん…… 彼に縄をかけてください。口をふさぐのも忘れないで……」
「わかった」
縄を持ってラピが近づく。とっさのことで後ずさりしようとするトーキーにクレアは厳しい表情を向けた。
「抵抗しないでください。少しでも怪しい動きをしたらあなたの心臓を私が貫きますよ」
「わっわかった……」
ラピがトーキーの手と縄で口を布でそれぞれ縛り付け拘束した。
「じゃあここに座わらせてください」
「んだ」
倒れたリレイルの元へトーキーを連れてくるようにクレアは指示する。うなずいたラピはクレアの指示通りにトーキーをリレイルの横へ連れて来て座らせる。
座ったトーキーの前にクレアが立って彼を見下ろしながら声をかける。
「あなたの話はあとでヴァンパイアハンター協会で聞きます」
「コク……」
トーキーはクレアの言葉に小さくうなずいて答えた。クレアはラピに顔を向ける。
「さぁ。ラピちゃん。ここを片付けてグレン君とララちゃんと合流しますよ」
「んだ!」
元気よくラピは返事をした。二人はゴミ捨て場で倒れていた女性に治療を行った。治療後に二人はグレンたちと合流するために神聖騎士団の詰め所へと戻るのだった。




