第518話 評価はみな一緒
倒れたままうごかずにいるジャンセン、女性は座ってうなだれている。ララはグレンの横に立って二人をジッと見つめている。グレンが手をポケットに突っ込むのにララが気づいた。
「なっなにするの?」
「一応な。あいつがヴァンパイアかどうか調べるのさ」
ポケットから木箱を出してクリアブルーアイを中から取り出しかけるグレンだった。彼の姿を見たララがハッとして顔をしかめた。
「なっなによ! それでさっさと調べればよかったじゃない! そうすればすぐに……」
「まぁ。そうだな」
クリアブルーアイでジャンセンがヴァンパイアか確認すれば効率が良かったというララだった。グレンは彼女の言葉にうなずいた。ただ、彼は少し間を開けてからまた口を開く。
「でも…… ジャンセンがヴァンパイアがじゃなくてもどこかで繋がってたら? バーガンだってヴァンパイアじゃなかっただろ?」
「そうか…… すぐに調べて調査対象から外したら…… ヴァンパイアとどこかで協力されるもんね」
グレンの言葉にララはうなずいていた。グレンは彼女の様子を見て話を続ける。
「まぁ…… ただ場合によってはすぐに調べた方が良いけどな」
「えぇ!? うーん…… 難しいわ……」
「ははっ。そのうち慣れるさ」
笑ったグレンはララの頭を撫でてクリアブルーアイをかけた顔をジャンセンへと向けた。クリアブルーアイを通して見たジャンセンは変わりはない。グレンは首を横に振ってクリアブルーアイを外す。
「違うな…… 人間だ」
「そう……」
ジャンセンはヴァンパイアではなく人間だった。少し残念そうに返事をするララだった。
「さぁ。ララ! ステファニーを呼んで来い」
「わかったわ!」
グレンの指示にうなずくララだった。彼女はステファニーを呼びに神聖騎士団の詰め所へと向かったのだった。
しばらくしてステファニーを連れてララが戻って来た。ララがステファニーの手を引っ張り前を指してながらグレンの前に駆けて来た。ステファニーの後には四人の神聖騎士が続いていた。
「はあはあ…… ふぅ」
グレンの前に来たステファニーが膝に手を置いて肩で息をしていた。すぐに体を起こしグレンに向かって彼女は口を開く。
「えっと…… ララちゃんから聞きましたけど…… もう少し詳しく……」
「そうだな」
二人が会話を始めるとジャンセンが顔をあげ叫んだ。
「スッステファニー! 助けてくれ! こいつらを早く逮捕しろ! 神聖騎士や市民への暴行罪だ!」
「なっ!? ちょっと! あんたが…… ステファニー! 違うよ!」
ジャンセンが言い逃れをしようと必死にステファニーに訴える。慌ててララがジャンセンの言葉を否定する。
「何を言うか! 私をだまし討ちにして彼女を暴行しようとしてただろ!」
「えっ!? 違う! ステファニー! 違うよ!」
堂々とするジャンセンに女性はうつむいたまま動かない。ララは狼狽しながら必死にステファニーに違うと訴える。毅然とするジャンセンは騎士の風格を醸し出し、ララの行動は追い詰められた犯人のように見える。ステファニーは困惑した表情を浮かべ彼女が連れて来た神聖騎士も同じだ。
「グレンさん…… どういうことですか?」
「あぁ。あのな……」
状況を理解できないステファニーはグレンに顔を向け彼に尋ねる。グレンはステファニーに起きたことと見たことを冷静に説明した。
「そうですか……」
首を横に振ったステファニーはジャンセンの元へと向かう。ジャンセンは歩いてくるステファニーをジッと見つめていた。ステファニーは倒れているジャンセンの前に立って顔を覗き込みニコッと笑った。ジャンセンは彼女を見上げホッと安堵の表情を浮かべた。
しかし、ステファニーは眉間にシワを寄せジャンセンを見た。
「ジャンセンさん! メーですよ! まったく町の人からお金を取るなんて」
「なっ!?」
指を立てて眉間にシワを寄せジャンセンを叱りつけるステファニーだった。ジャンセンは唖然として固まっていた。
「みんなー! ジャンセンとこの女性を連行するよー!」
「えっ!?」
振り向いたステファニーは連れて来た神聖騎士に指示を出した。ステファニーの指示に困惑する神聖騎士だった。指示に困惑する神聖騎士を見たジャンセンは我に返って口元を緩ませた。
「違う! 連れて行くのはこいつらだ! 私は彼らに暴行を……」
「黙ってください!」
「グッ!!!」
必死に叫ぶジャンセンに、ステファニーは素早く剣を抜き彼の口元に突きつけて黙らせる。
「みんな。グレンさん達は善意の通報者で犯人を現行犯逮捕した市民だから!」
「きっ貴様! 騎士長である私よりもあいつらの言葉を信じるのか!!!!」
「はい」
「えっ!? あっ……」
大きくうなずきはっきりとステファニーはジャンセンに返事をした。上司である自分の言葉よりグレンの言葉を信じた部下に唖然とするジャンセンだった。彼女は顔をグレンに向けほほ笑んだ。
「ふふ。ルドルフさんからグレンさんは口と態度は悪いが信用は出来ると聞いているんです」
「なっ!? あの野郎……」
ステファニーの口からルドルフの名を聞き顔をしかめるグレンだった。ステファニーは神聖騎士となったばかりの頃ルドルフから指導を受けていた。聖都にステファニーが異動した後も連絡を取り合い、ルドルフは先輩として彼女に助言を与えていたのだ。
「グッ…… あの堅物…… クソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
最後の抵抗か転がりながら天を仰ぎ悔しそうに叫ぶジャンセンだった。ステファニーは真顔になって女性とジャンセンを指した。
「みんな! 二人を連れて行くよ」
「クソ! やめろ! 私は騎士長だぞ」
「はああ…… 私は……」
ステファニーの指示で女性とジャンセンを神聖騎士が引っ立てる。引きずられる二人を見たステファニーがグレンとララと向き敬礼をした。
「じゃあ預かるね! 後は任せて!」
うなずいたグレンが顎で引きずられる女性を指した。
「あっちの女はジャンセンに脅されただけだ…… だから……」
「大丈夫だよ。あの人は罪に問わない代わりに証人になってもらうから!」
「そっそっか……」
女性を心配していたグレンはステファニーの言葉にホッとする。彼を見ていたステファニーはほほ笑んだ。
「ふふふ。グレンさん…… ルドルフさんの言う通りですね」
「なっなんだよ。あいつ碌なこと言わねえだろ」
顔をしかめるグレンにステファニーは大きく首を横に振った。
「ううん。グレンさんは態度は悪いけど優しくていい奴だっていってたよ。だから頼りになるって! ”私が神聖騎士以外で信用する数少ないやつだ”ってさ」
最後にルドルフの真似をするステファニーだった。グレンは顔を真っ赤にして目を大きく見開いた。
「えっ!? あっあいつ…… うるせえ!!」
「はははっ! じゃあねぇ!!! ありがとう!」
顔を真っ赤にして怒り出すグレンに、ステファニーは笑って手を振ると去っていった。恥ずかしそうに右手で顔を覆うグレンの横にいるララはニヤニヤと笑っていた。
「へぇ。グレンって意外と評判良いのね。でも態度は悪いって…… あはははは! みんなそう思うんだねぇ」
「チッ! うるせえ! 余計なこと言いやがって…… ルドルフの野郎!!!」
グレンは腕を組み不服そうに口を尖らせるのだった。
「ふぅ…… おかしかった…… でもジャンセンが違うってことは……」
「あぁ。俺達もすぐに向かうぞ」
「うん!」
笑っていたララはすぐに真面目な顔に変わった。二人は顔を見合わせてうなずくとクレア達の元へと急ぐのだった。




