第515話 俺とやろうってのか?
ダイアは強く光った右手をグレンに向かって突き出した。突き出された彼女の右手から白い光の光線がグレンへと向かって飛んで行った。グレンは右手を素早く剣へと持って行き振り向く。
「何しやがる!」
叫びながらグレンは振り向きながら剣を抜いて光線を斬りつけた。光線はグレンの剣とぶつかると弾かれて天井へと向かって飛んで行き消えていく。
「お前…… 本気か? 俺とやろうってのか…… ふん」
グレンは剣先を下に向けながらゆっくりと前に足を出した。ダイアには幼馴染の鋭い目にははっきりと自分の顔が映っているのが分かり、彼の体からは強い殺気が漂っていた。
「やっやめて…… グレン…… 違うの…… お願い…… 助けてよ……」
声を震わせダイアは首を横に振りグレンに懇願する。だが、グレンに彼女の言葉は届かずに歩みを進める。絶望でダイアの顔が青ざめていく。幼い頃からグレンとダイアは一緒だった。彼は優しくどんなわがままを言っても、グレンは許してくれてダイアは甘えていた。彼を裏切り傷つけてもグレンは許してどんな状況でも、彼は自分を見つけ出し助けてくれると都合よく思っていた。五年間彼に会って助けてもらえることだけを希望に生きて来たダイアに一歩ずつ現実と絶望が近づいて来る。ダイアに現実は受け入れることが出来なく震えていく。
「そっそんな…… いや! 嫌よ! いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
叫びながらダイアは駆けて逃げて行った。ダイアは途中で柵を飛び越えようと足がひっかかり転んでもすぐに立ち上がり一目散に逃げて行った。グレンは逃げるダイアを追うこともなく黙って見つめていた。彼女の姿が見えなくなると小さくつぶやく。
「行っちまいやがったな…… 地下に落ちた空の支配者か…… ふふふ…… ははは!」
吹き出して大笑いするグレンだった。彼の声は嬉しそうで今までにないくらいすがすがしさに満ちていた。
「追いかけねのか?」
「何言ってんだ。あいつはヴァンパイアじゃねえよ。ほら道草くっちまったからな。さっさと仕事に戻ろうぜ」
「そっそうだが……」
ゴミ捨て場の奥を指して歩き出すグレンだった。ララは静かにうなずくと彼に付いていく。ラピはとっさには動けずに遅れる。クレアは彼女の横で動くのを待っていた。
ラピはクレアに顔を向けどこか恐怖で怯えた様子で口を開く。
「なんかグレンさん…… こええな…… あの人は幼馴染なんだべ?」
「そうですか? 私は彼女の方が怖いですよ」
「えっ!?」
ダイアが消えた方角に顔を向け真顔でジッと見つめるクレアだった。
「ノウレッジは自ら立つ人には優しいです。でも…… 自らの場所を作れない人には厳しい場所です。だからって人の足にしがみつくのは違います」
小声でつぶやくクレアにラピは首をかしげていた。クレアはラピに視線を向けゴミ捨て場の奥へ向かうグレンとララを指した。
「さぁ。二人に置いて行かれちゃいますよ。行きましょう」
「んっんだ!」
うなずくラピの手を取りクレアだった。二人はグレンとラピを追いかけるのだった。先を行くララとグレンは並んで歩いている。後ろを振り向いたララがすぐに前を向いた。
「ねっねえ。グレン……」
「どうした?」
気まずそうに口を開きグレンを呼ぶララだった。グレンは視線をララに向けて声をかけた。
「さっさっきの人…… 友達なんでしょ?」
「あぁ。幼馴染だったやつだな……」
「ふーん…… そっか」
ダイアとの関係を過去形で言い切るグレンだった。ララは彼の言葉を聞いて小さくうなずきすぐに顔をあげ得意げに笑った。
「まぁ。代わりに今度は私が友達になってあげるわね」
「そうだな。よろしく頼む」
「えへへ……」
胸を張るララにグレンは笑顔で親指を立てた。ララは恥ずかしそうに笑っていた。ダイアと遭遇するというトラブルがあったが二回目の巡回もヴァンパイアの襲撃はなく終わった。
神聖騎士団の詰め所へとグレン達は戻って来た。
「何もなかったわね…… もう夜も明けるべ…… 今日は終わりだな」
「そうね…… ふわああああ…… 眠いわね!」
「んだな。おらも眠いべ。ふわああああ」
ララとラピは両手をあくびをしていた。グレンとクレアは二人を見て笑っていた。
「あっ! ララちゃーん! ラピちゃーん! 巡回は終わった?」
詰め所の扉を開けてステファニーが出て来た。ララとラピを見つけた彼女は笑顔で声をかけて来る。
「んだ。いま終わったところだべ」
「今日はヴァンパイアは居なかったわ」
「そうなんだぁ」
二人が返事をするとどこか嬉しそうに笑うステファニーだった。彼女は笑顔で二人に声をかける。
「ねえ。私も今日は終わりなんだー。一緒に朝ごはん食べに行かない?」
「あっ朝ごはん…… 行くわ!」
「えっ!? ララ? 何を勝手に……」
ステファニーが朝食に誘われ独断で即座に返事をするララだった。勝手に返事をしたララにラピが注意するがララは彼女を見て得意げに笑って答える。
「何を言っているのよ! 神聖騎士団と親睦を深めるのも仕事でしょ」
「ったく…… 調子がいいべな……」
ララの答えにラピはあきれるのだった。ララは笑ったままステファニーの手を取った。
「えへへ。なんとでもいいなさい。さぁ! ステファニー! 行きましょう」
「うん。あっちだよ!」
ステファニーが通りの先を指さして二人は手をつないで並んで歩き出した。ララはグレンとクレアにも声をかける。
「グレンとクレアも来る? もう仕事は終わりでしょ」
「もちろん行きますよ。ねぇ? グレン君!」
「しょうがねえな」
巡回が終わったグレンたちはステファニーと一緒に朝食をとるため移動するのだった。ステファニーは貧民街から出て聖都まで上りグレゴリウスの屋台へとグレン達を連れて来た。
「ここは……」
「最近話題の屋台なんだよ」
「知っているわ。美味しいわよね」
「うん! あっあそこ空いているよー!」
グレン達は空いている席に着く。四人掛けの四角いテーブルにララ、ラピ、グレン、クレアが向かい合い。ララとグレンの横にステファニーが椅子を持って来て座った。
席に着くとすぐにオリビアが注文を取りにグレン達の元へとやってきた。
「おう! クレア! いらっしゃい…… 今日は神聖騎士の人と一緒か……」
オリビアはグレン達と共にいるステファニーを見てつぶやいた。なんだかすっきりしない表情でステラファニーを見たオリビアに気づいたクレアが声をかける。
「どうしたんですか?」
「いや…… 最近…… ニコライと言うやつがな」
「ニコライがなにか?」
小さくうなずいたオリビアが話を続ける。
「あぁ。なんでもグレゴリウスの料理を気に入ったみたいでな…… ダバロ枢機卿の専属料理人にならないかと誘われてな」
「そうなんですね。すごいじゃないですか!」
チラッとステファニーを見たクレアは笑顔で実力を認められたグレゴリウスを讃えていた。注文をしすぐに料理が運ばれステファニーとララは楽しく食事をとったのだった。
「ふぅ…… 疲れたぁ…… もう大変だったんだよ」
食べ終わったステファニーが疲れたと嘆いている。ララが彼女に顔を向け尋ねる。
「なにかあったの?」
「うん。トーキー君に皆が巡回しているって言ったらずっとどこかに行っちゃうし…… ジャンセン隊長も巡回に行ったら全然帰ってくれなくて…… ずっと私が対応してたの」
「そうなんだ。大変ね」
「んだな……」
ステファニーの言葉にララとラピは同情しうなずく。グレンとクレアは顔を見合わせて真顔でうなずいたのだった。




