第514話 くすんだ輝き
ダイアはうつむきグレンの視線に傷がついた額が見える。ダイアは上目づかいでグレンに口を開く。
「せっかく会えたんだよ…… もっともっと話をしよう……」
言い終わるとダイアは離されないように必死につかんだグレンの手を力強く握った。顔をしかめグレンは面倒そうに答える。
「だから仕事中だって!」
「お願い! あなたともっと……」
必死に懇願するダイアにグレンは顔を横に向け困った表情で、背後に立つララとラピに視線を向けた。ララが顔を横に向けクレアに尋ねる。
「あの人ってなんなの……」
「グレン君の古い友人ですよ」
「そう…… ねえ」
ララはクレアに向かって手招きをした。クレアはしゃがみララに顔を近づける。ララは口元に手をたてて小声でさらに尋ねる。
「もしかして…… あの人が怖いもの?」
「はい。そうです……」
笑顔でうなずき視線をダイヤに向けるクレアだった。クレアの視線が冷たく凍り付いておりララは恐怖を覚えた。
「断らせた方が良いのか?」
怯えた声でララがグレンに断らせた方が良いか確認する。クレアは指を立て顎に当てながら考えてから答える。
「うーん…… ここで断ってもしつこく追いかけてくるでしょうね。だったらさらに面倒です」
「あぁ。そうか…… じゃあ」
ララはグレンに顔を向け大きくうなずいた。
「いいわよ。待っててあげる。ねえ? ラピ」
「んだな。少しならいいべよ」
「そうか…… 悪いな」
右手をあげララとラピに返事をしたグレンはダイアに視線を戻した。
「いいぞ。話を聞いてやる」
「あっありがとう…… じゃあ…… えっ!?」
ダイアはグレンに手を伸ばしたが彼はそっと手をどけた。
「こっこっちへ……」
手招きしてダイアはグレンを呼び、ゴミ山の前に置かれた丸太へグレンを連れて行った。ララとラピとクレアは丸太の五メートルほど前に並んで立つ。
「グレン…… ほら」
ちょこんとダイアは丸太に座り自分の隣を手で軽く叩いてグレンに座るように促した。グレンは動かずジッと腕を組んで彼女を見下ろしている。ダイアはグレンを見上げまた上目遣いで甘えるように尋ねる。
「座らないの?」
「あぁ…… 話しってなんだ? さっさと話せよ」
首を横に振って腕を組んだままグレンはダイアに話すように促した。
「えっ!? えっとね…… あなたと…… 別れてから……」
グレンの態度に少し驚いたようにダイアは話を始めた。グレンは話を始めたダイアに怪訝な表情をするのだった。
レオンとダイアはグレン達を捨てた直後は順調だった。ダイアの特殊能力を使って数々の功績をあげ冒ていた。
テオドールから北回りに東へ向かったダイアはコールドニアから東のノースコンドル山脈を超えグレートワインダー砂海を越えた。グレンを捨ててそこまで三年の月日が経ち二人の冒険者ランクはB1にまで到達していた。ただ…… ギガントヴァレーで調子に乗ったレオンは無理な仕事を請け負い大きな失敗をして借金を背負ってしまった。
「クッ……」
グレンが必死に口を閉じている。彼はあくびを噛み殺そうとしていた。長々と話すダイアに彼は飽きていたのだ。
「それでね……」
「なぁ!?」
「なに!」
明るく嬉しそうに返事をするダイアだった。彼女はグレンが自分に興味を持ったと思ったのだ。ただその希望はすぐに打ち砕かれる。
「用件はなんだ? さっきも言ったろ? 俺は仕事中なんだよ。手短に頼む」
「ごっごめん…… あのね…… 私…… 借金があるの……前は体を売って必死に借金を返したんだけど……」
レオンとともに背負った借金によりダイアは体を売って生活をしていた。
「最初は順調だったのよ。でも…… タイタロスの貴族の部屋に行った時に…… 魔物と…… そしたら今は誰も買ってくれなくて……」
ダイアはその容姿から娼婦としても人気があり借金は順調に返済出来ていた。しかし、ある日、貴族の部屋に呼ばれた時に趣味から魔物に犯され額に傷をつけられたしまった。依頼は魔物に犯された傷物の娼婦として忌み嫌われ彼女は誰からも買われなくなり借金の返済が滞るようになった。
グレンはまた不思議な感覚に襲われる、彼は彼女の境遇を聞いてもなんとも思わずなんの感情も沸いて来ないのだ。
「だから…… グレン…… 私を助けて! ここから連れ出して! そしたら私…… 今度こそあなたに……」
ダイアがグレンに手を伸ばして来た。クレアの目が鋭くなりララは顔をしかめた。しかし、直後にゴミ捨て場にパチーンという乾いた大きな音が響いた。
「えっ!?」
ダイアは目を大きく見開い瞳の光が失われる。グレンが伸ばしたダイアの手を叩いたのだ。グレンはダイアに心底あきれた表情を向けた。
「はぁ!??? なんで俺がダイアを助けて連れて行くんだ? ふざけるなよ!」
眉間にシワを寄せグレンだった。希望を打ち砕かれ呆然とし固まっているダイアはグレンの言葉は届いてないようだ。グレンはかまわず言葉を続ける。
「お前にはレオンがいるだろ? 助けてもらえよ」
右手で払うような仕草をして頼む相手が違うと言うグレンだった。優しいグレンではあるが、さすがに自らを傷つけ裏切り逃げたダイアを助けるほどお人好しではない。
グレンの言葉にダイアはハッとして目に涙を溜めて叫ぶ。
「レオンは死んだの!!!! 失敗ばっかりだったから…… 違法な仕事に手を出して…… ギルドから派遣された刺客に……」
うつむき涙を流しながら話すダイアだった。一発逆転を狙いレオンは違法な仕事に手を出した。グレンのこともあり監視を続けていた冒険者ギルドは彼が違法な仕事に手を出すと、即座に”天使の涙”を実行し排除した。
ちなみにグレンを見捨てた行為は現在なら冒険者相互安全義務違反となり一発排除だが、これはグレンの事件が起きたことをきっかけに出来たルールためレオン達には適用されない。
「しっ刺客って……」
顔を横に向けクレアに視線を向けたグレンだった。クレアは口笛を吹くように口を尖らせ彼から視線を外している。彼女のわかりやすいごまかす仕草にグレンの表情がゆるむ。レオンに対して”天使の涙”を実行したのは、当時のテオドール冒険者ギルドの冒険者支援課長である。なお、冒険者支援課長はノウレッジの冒険者ギルドが出来てから、歴代で一人しか就任していない。現在はその地位は空席となっている。
「そうか…… はははは! ざまああ!!!」
「グッグレン…… そんなひどい……」
レオンが葬り去られたと聞き安堵した彼は思わず吹き出してしまった。レオンが死んだと聞いて笑うグレンを口を押さえ涙目で見つめるダイアだった。
グレンはダイアの視線に気づき笑いながら謝る。
「あぁ。悪い悪い。でも俺はもうお前と関わりあいたくないんだ。じゃあな」
「えっ!? ちょっと待って!」
振り向いてダイアに背を向けたグレンだった。必死に手を伸ばしてグレンの手をつかんだ。グレンは振り向いて優しくダイアの手を外す。
「大丈夫だ。ダイアは特殊能力があるだろ? それを使えばまだ何かできるさ」
ほほ笑んで励ますグレンだった。ここで彼に見捨てられればみじめなまた生活が始まるダイアは簡単には諦めない。再度グレンの手をつかみ必死に叫ぶ。
「ダメよ! 私を…… 私を見捨てないで!」
「見捨てないでと言われても……」
「私達! 幼馴染でしょ! せめてオレンオ村に……」
「嫌だね。ダイアの幼馴染は死んだ。俺はクレア義姉ちゃんの義弟だからな。それに…… お前のせいで俺もオレンオには帰れないんだよ!!」
語尾を強め先ほどとは違い雑にグレンはダイアの手を外しまた背中を向けた。ダイアはまだ必死に言葉をしぼりだそうと考えハッとする。
「あっ! そうだ! あなたギルドに居るんでしょ? だから私を助けて! 私はまだ冒険者……」
「指輪は? どこですか? 冒険者なら持ってますよね?」
「えっ!?」
ダイアの言葉にクレアが反応した冒険者であれば冒険者の指輪を持っているはずだ。
「あなた確か指輪を売りましたよね? 回収されて聖都の冒険者ギルドに保管されてますよ」
「あっ!!! なんでそれを……」
口を押えて驚愕の表情を浮かべるダイアだった。クレアはグレンに代わりダイアのことを調べていたのだ。勝ち誇った笑みを浮かべクレアはまた口を開く。
「それにもう私たちは冒険者ギルドの職員じゃありません」
「そうだな。だから…… もう俺はお前を助ける義理も義務もないんだ。じゃあな」
右手を適当にあげグレンはダイアに背中を向け歩き出した。
「えっ!? ちょっと……」
クレアはグレンに近づいて腕を組んだ。嫌がりながらもクレアを受けいれるグレンだった。腕を組んで歩きながら二人は見つめ合い同時にほほ笑んでうなずく。
見つめ合うグレンとクレアを見たダイアに認めたくなかった、二人の深い関係という事実が襲い掛かる。
「いやあああああああああああああああ!!!! グレン! 行かないで!!!!」
ダイアが空にかざした手が白く強く光り出したのだった。




