第512話 悪評を広めないで
顎に指を置いてラピは視線を上に向け何かを思い出しながら口を開いた。
「たすか…… ミーロさんが襲われたのは三日前だったべな……」
「そうよ。それがなんなのよ?」
ララの言葉に彼女の方を向きニヤリと笑ラピだった。笑うラピにララは不思議そうに首をかしげている。笑顔のままラピは顔をクレアに向けラピは口を開いた。
「そろそろあいつらも腹が減って来るべな」
「えぇ」
ヴァンパイアが食事である人間の血を吸わずにいられるのは長くても一週間である。長い期間血を吸わずにいたヴァンパイアは理性を失い暴走する。ラピはミーロを襲ったヴァンパイアが動きだすと推理しクレアも同意したのだった。クレアの横に居るグレンもうなずいた。ララだけが意味がわからずに首をかしげていた。この状況にララはたまらずにラピに尋ねる。
「どういうことよ?」
「えっと…… そろそろヴァンパイアがまた人を襲うってことだべ」
「えっ!? そっか! 大変! ラピすぐに行くわよ」
立ち上がったララはラピの手を取ってすぐに貧民街に向かおうと言う。ラピは彼女の言葉に静かにうなずいた。
「んだ。じゃあすぐに行くべ!」
勢いよくラピも立ち上がった。直後……
「「ぐぅぅぅぅキュルルルー」」
二つの間抜けな音が重なり合うように響く。音がした後にララとクレアの顔を赤くなっていく。間抜けな音は二人の腹が鳴った音のようだ。
「まっ待って! ご飯がまだだったわ」
ララは静かにラピの手を外し、ごまかすように腹をさすりながら口を開く。
「えっ!? さっき食べたから平気だべよ」
「ダメです! どこかの国では腹が減っては戦が出来ぬというそうですよ」
「クレアさんまで……」
ララに続いてクレアも飯を食うと言い出した。ラピはあきれて二人を見つめている。グレンはラピに向かって首を横に振って口を開く。
「いや…… クレア義姉ちゃんの意見はもっともだ。飯くらい食わせてやれ」
「んだか…… わかったべ」
「それと飯を食い終わったら上で仮眠を取っとけよ」
グレンは天井を指して仮眠をとるようにララ達に指示をした。クレアもうなずいて彼の指示に同意する。
「そうですね。夜間の張り込みなら仮眠を取っておくべきでしょう」
「わかったわ。じゃあまずはご飯ね!」
「はい」
ララの言葉に大きくうなずくクレアだった。四人は運ばれて来た料理を食べ仮眠を取るのだった。
屋根裏のグレン達の部屋。ソファに深く腰かけだらけた姿勢でグレンは部屋の奥にある扉を見つめている。扉の向こうは寝室でララとラピとクレアが静かに寝息を立てていた。
「クレア…… 義姉ちゃん……」
扉が静かに開いてクレアが顔を出した。クレアはグレンと目が合うとホッと安堵の表情を浮かべ笑った。クレアは寝室から出るとグレンの隣に座り彼を見た。
「一人でどうしたんですか?」
「別に……」
「そうですか……」
クレアは前を向いてソファに座り直して視線を下に向けた。グレンに視線を合わさず彼女は小さな声でつぶやく。
「居ますよ…… あの人…… 貧民街に……」
「だろうな。えっ…… ん……」
体の前に置いていたグレンの手の上にクレアが自分の手を置いた。驚くグレンにクレアは前かがみになり彼の顔を覗き込んでほほ笑みそのまま口づけをした。グレンは彼女を強く抱きしめた。
しばらく二人は唇を重ねグレンからクレアが離れる。離れるのを惜しむかのように二人の体液が糸を引いていく。離れたクレアはグレンに向かってニコッとほほ笑んだ。
「大丈夫…… 私が居ます。今のグレン君なら何も心配はありません」
「そうだな…… ありがとう…… クレア……」
「えっ…… グレン君……」
うなずいたグレンはクレアに手を回してまた抱きしめた。二人の唇が再度重なり彼の手はクレアの腰から下へと伸びていく。二人が座るソファの前方にある寝室の扉がわずかに開いていた。
寝室の向こう側でララが隙間に立って覗いていた。抱き合う二人を見た彼女は静かに扉を閉めて扉に背中に当てた。
「なんなのよ…… べたべたしちゃってさ…… ふん」
不満そうにつぶやいてララはベッドへと戻ったのだった。しばらくしてクレアとグレンもベッドに戻り仮眠をとった四人は貧民街へと向かうのだった。
四人が貧民街へと続く階段の前へとやってきた。ララとラピが並んで先を行きグレンとクレアが後に続いていた。
「グレン…… 大丈夫? 無理に付いて来なくていいわよ」
振り返りグレンに声をかけるララだった。グレンは少し驚いた表情をしてすぐに返事をする。
「なっ何言ってんだ…… 大丈夫だよ。ほら行くぞ」
「えっ!? んだ!」
階段を指したグレンはラピの手を取り、ララを置いて二人で先に階段を下りていってしまった。
「なっなによ…… あいつ……」
置いて行かれたララは不満げにつぶやくとクレアが横にやってきた。
「ララちゃん…… ありがとう」
「べっ別にグレンのことなんか心配してないわよ! それにあいつがへたれたらクレアが面倒みなさいよね!」
ビシっとクレアを指さしたララがぷりぷりと怒りながら一人で歩いて階段を下りて行く。
「ふふふ」
クレアはララの背中を見てほほ笑み三人を追いかけていくのだった。
貧民街へと下りてグレン達はゴミ捨て場へと向かった。階段から池に沿って歩きゴミ捨て場を囲う柵が見えて来た。柵の手前にはクレア、ララ、ラピが訪れた神聖騎士の詰め所が見える。
「ステファニーさんだべ!」
小屋の前にステファニーが立っていた柵の向こうを監視していた。ラピの声に反応して彼女は振り返った。
「あー!! みんなー! どうしたの?」
向かって来るララ達を見つけると、嬉しそうに手を振りながらステファニーが近づいて来た。
「こんばんはー」
ララの前まで駆けて来たステファニーはかがんで二人に笑顔を向けた。
「クレアさんもこんばんは…… あれ!?」
体を起こしたクレアにも挨拶しようとしたステファニーはグレンに気づき首をかしげた。
「あれ!? この男の子は?」
「俺はグレンだ。こいつらと同じヴァンパイアハンターだ」
「そうなんだぁ。私はステファニー! 神聖騎士…… あれ!? グレンって……」
グレンの名前を聞いたステファニーは顎に指を置き、視線を上に向け何かを思い出そうとしていた。
「あっーーーーー!!!! 冒険者ギルドの不届き者グレンさん?!」
「はあああ!?」
自分を指さし大きな声が不届き者と叫ぶ、ステファニーにグレンは顔をしかめていた。
「失礼だな。何が不届き者だよ」
「だっだってルドルフ先輩が言ってたんですよ! 冒険者ギルドに無作法な不届き者が居るって」
「なっ!? ルドルフ…… あいつ…… 覚えてろよ」
不機嫌なグレンにステファニーは怯えた様子で答える。神聖騎士団にグレンが無作法で不届き者だルドルフは吹聴しているようだ。
「まあまあ間違ってないからいいじゃないですか」
「そうよ。グレン! 諦めなさい」
「んだな」
「なっなんだよ! みんなまで」
腕を組んで不機嫌そうにするグレンにララ、ラピ、クレアの三人は笑っていた。
「みんなはなんだまたここに?」
「ゴミ捨て場にヴァンパイアがまた来るかも知れないから見張りに来たのよ」
「あっ! そうなんだあ。じゃあ気をつけてね。聞いたかも知れないけど警報がなったらすぐにゴミ捨て場から出るんだよ」
「わかったわ」
うなずいて返事をしたララにステファニーは何かを思い出したのかさらに話を続ける。
「あっあと! 神聖騎士も巡回しているから尋問されたら私が知っているって答えるといいよ」
「うん。ありがとう」
「ありがとな」
ララとラピはステファニーに礼を言った。ステファニーは笑顔でうなずいて二人に手を振った。グレン達はゴミ捨て場の中へと向かう。




