第511話 怪しい人達
ダグオンがハッとして振り向いた。階段へ向かうララを追いかけて彼女の背中に声をかける。
「ララさん! ちょっと待ってください」
「なに?」
立ち止まり振り向いたララの前にダグオンが駆けて来る。グレン達も同じように立ち止まり振り返り二人の様子を見守っていた。
「これをララさんに!」
ポケットに右手を突っ込んだダグオンは何かを取り出して、ララに向かって差し出した。彼の手の上にはピンク色の数珠状の紐に通された十字架が乗っていた。
十字架を見てララが首を傾げた。
「なにこれ?」
「小型サザンクロスですよ。試作品ですけど使ってください」
「えっ!? 良いの?」
ピンク色の数珠状の黒い小さな十字架は小型化したサザンクロスだという。サザンクロスの試作品と聞いたララは驚き声には嬉しさが漏れている。
「はい。キティルさんにララさんに試作品を渡して試して良い」
「それってやっぱり私が天才だからよね? さすがキティル! わかっているわね」
得意げな顔で笑うララだった。ダグオンは笑顔のララにきょとんとして首を横に振る。
「いいえ。ララさんは魔力が高くて頑丈そうで失敗しても平気そうだから! 僕がぜひとお願いしたんですよ。それにラピさんに渡して怪我したら申し訳ないですからね」
胸を張り笑顔で語るダグオンだった。彼は目の前に居るララが顔をしかめ、眉間のシワが深くなり表情が怒りで満ちていくのに気づかなかった。
ララはふんだくるようにしてダグオンの手からから十字架を取った。
「はああ!!! 何よそれ!」
「ひぃ! ごめんなさい。ごめんなさい」
両手を上げララがダグオンに向かって叫んだ。ダグオンは恐怖で目をつむり悲鳴をあげ手を前にだして必死に謝るのだった。
「ふん。まったくレディの扱いがなってないわね!」
「うっ……」
鼻息を荒くし不満そうに口を尖らせ腕を組むララだった。すぐに腕を外したララは十字架を持って笑った。
「まぁいいわ。実験と犠牲がなきゃ技術の発展はないもんね!」
「はっはい。お願いします……」
胸を張り大きくうなずくララに気まずそうにし彼女に頭を下げるダグオンだった。二人の姿をクレアとグレンは顔を見合わせて笑っていた。ただ…… ラピは二人のやり取りを複雑な表情で見つめていた。
グレン達は大学の外へと出た。時刻は夜になり大学の前の通りを行き交う人は少なくなっていた。
「どうする? 次は?」
「えっ!? あっ…… んだな…… 一旦ヴァンパイアハンター協会に戻るべ。そこで考えるべ……」
「そう。わかった。じゃあ行こう」
一度戻って考えるというラピにララは同意し通りの先を指して歩き出した。グレンとクレアもララに続く。ラピは動かずに歩き出した三人をジッと見つめていた。彼女は意を決したようにして口を開く。
「なっなぁ!? あんたらいいべか? いくらヴァンパイアでも実験に使ったりすて……」
立ち止まり振り返る三人。どうやらラピはまだヴァンパイアとはいえ犠牲をともなう実験をしていることに納得がいっていないようだ。
「いいも悪いも…… ねぇ」
「えぇ」
「でっでも……」
首をかしげるララとクレアにうつむいてしまるラピだった。二人に視線を向け笑ったグレンはゆっくりとラピの元へと戻って来た。ラピの横に立ったグレンは彼女の肩にそっと手を置いた。
「まぁ。無理に納得する必要もない。いずれ分かる。とりあえず犠牲になったやつに感謝しとけよ」
「感謝されても犠牲がなくなるわけじゃ……」
顔をあげグレンを困った顔で見つめるラピだった。グレンは笑顔で大きくうなずく。
「そりゃそうだ。俺達の自己満足だからな。でも…… 技術の発展の恩恵を享受しといて見下したり同情するだけよりマシだろ?」
「うーーー……」
グレンの言葉にラピはうなりながら真顔で考え込んでいた。ラピの様子を見て彼女の頭を優しく撫でるグレンだった。少ししてラピが歩き出すとグレンも彼女の横に寄り添う。四人はヴァンパイアハンター協会へと戻るのだった。
併設された酒場の空いてる席に着く四人だった。席に着いた四人に白シャツに黒いズボンにエプロンを付けたウェイターが声をかけて来る。
「なににしますか?」
「えっと…… さっき食べて来たから飯はいらんべ……」
大学による前にグレゴリウスの屋台で四人はたらふく食べていた。ラピが食事を断ろうとすると隣のララが勢いよく声をあげる。
「はああああ!? 私は食べるわよ!」
「私も食べます!」
「えぇ!? だってさっきたらふく食ったべさ」
「「キッ!!!!」」
向かいからと隣から二人がラピを睨みつけた。ラピは困惑した様子で斜め向かいにグレンに助けを求めるように見た。グレンはあきれた顔をして小さくうなずいた。
「あぁ。ラピ。うるさいから食べさせておけ」
「んっんだ…… じゃあ二人は頼むべ。オラとグレンさんには茶を頼む」
「「わーい」」
両手を上げて喜ぶララとクレアだった。ウェイターは顔をひきつらせた笑いをうかべていた。二人は料理を注文し満足そうに笑いながら待っていた。
料理が運ばれるまでの間にララ達は話を始めた。
「さて…… 今までの情報をまとめると……」
「ヴァンパイアはテックさんから手袋を盗んで…… ミーロさんを襲ったんだべ」
貧民街で集めた情報を整理していくララとラピだった。二人の向かいに座るグレンとクレアは静かに見守っていた。
ララは顎に手を置いて真剣な表情でぶつぶつとつぶやきながら考え込む。
「銀色の手袋には魔導ジェル…… 神聖騎士団なら手に入れやすい…… だとしたら…… ヴァンパイアは……」
ハッと目を見開いて顎から手をはなしたララは顔をラピへと向けた。
「トーキー…… あいつよ!」
ヴァンパイアをトーキーだというララにややあきれながらラピが答える。
「いや…… 下にいる神聖騎士はいっぱいいるべよ。なんでトーキーさんなんだべ!」
「態度が悪いし…… なんか怪しい」
「そんなことでヴァンパイアにしたらかわいそうだべ!」
「そっそうよね…… もうちょっと考えるわ」
決めつけに近い推測をするララにラピが注意をする。ララは気まずそうに頭をかく仕草をしてまた考え込んでいた。
二人は並んで腕を組み考え込んでいる。クレアとグレンは二人を見て顔を見合わせて笑った。クレアがララ達に顔を向け優しくほほ笑み口を開く。
「トーキーさんと決めつけるのは良くないですけど…… ララちゃんの神聖騎士が怪しいのは間違いではないですね」
「えっ!? そっそう?」
ララが神聖騎士が怪しいという考えは間違っていないというクレアだった。ララは嬉しそうに笑っていた。
「はい。魔導ジェルもですけどゴミ捨て場の巡回路や時間も把握しやすいですよね……」
「そっそうよね。ほら! みなさいラピ!」
クレアの言葉にララはラピを指して得意げな顔をする。調子に乗るララにラピはムッとして口を開く。
「調子に乗んな。たまたまだべ」
「なっなんですって! 怒るわよ!!」
叫びながらラピに体を向け立ち上がり両手を上げ怒るララだった。ラピは舌を出して笑うとララの額に手を置いた。
「なっなによ。離しなさい」
「いいから椅子に座って話を聞け!」
「うっ…… 何よ。ラピのくせに……」
離せと叫ぶララにラピは彼女の額に置いた手を強引に下に押し座らせる。ぶつぶつお文句を言いながらララが座るのだった。




