第509話 もう一つの実験室
「ねえ。ダグオン! そういえばサザンクロスは?」
ララは天井監視所でダグオンが試験をしていた、サザンクロスのことを思い出し尋ねる。彼女はヴァンパイアハンターとしてあの兵器に興味があったのだ。
「あぁ。あれならもう一つ上の階で改良試験をしていますよ」
うなずいたダグオンは上を指してララに答える。塔にはもう一つの実験室がありサザンクロスは試験をしているという。
「もう改良したべか? すげな」
昨日天井監視所から昨日帰還したばかりなのに、改良を行ったというダグオンに驚く。
「はい。飛竜船の中である程度改良は考えていましたからね。帰還してすぐにとりかかりました」
「すげえな…… オラたちと遊んでたりすてたのに」
飛竜船の中で改良について考えていたと得意げな顔で笑うダグオンにあきれるラピだった。ララはダグオンの横に来て彼の手をとった。
「ねえねえ。サザンクロスの実験を見て見たい!」
「えっ!? 構いませんけど…… ララさんは仕事中では?」
「あっ! そうか!? ラピ? 良い?」
サザンクロスを見たいというララだった。ダグオンに仕事中だと指摘されたララはラピに振り向いて彼女に尋ねた。
「そだな。オラも見て見たいべ」
「やったー! ラピ大好き!」
「はっ!? 調子がいいべな」
「ふふ」
大好きと言いながら抱き着いてくる、ララにラピは嫌そうな顔をしながらどこか嬉しそうに笑った。三人は並んで上の階へ続く階段へ向かう。
「グレン! クレア! 私達はサザンクロスを見て来るね。一緒に来てもいいよぉ!」
階段に向かうララが振り返り
「まったく…… 何が一緒に来ても良いよだ。任務中だろ」
「何が任務中ですか。サボり魔のグレン君に文句を言う権利はありません」
「なっなんだよ!」
「ふふ。それにサザンクロスはヴァンパイアハンターに有益な道具になりそうですからね。さぁ私達も行きましょう!」
クレアは笑ってグレンの手を掴んで階段へと連れて行く。不満げな表情をするグレンだったが素直にクレアに引きずられていくのだった。
「でも、あんまり…… 見ない方が良いと思うけどね」
首を横に振りクローディアはクレアとグレンに続いて階段へと向かうのだった。
階段を上がると一階下と同じような実験室がグレン達に見えて来る。実験室では天井にサザンクロスが浮かび一人の男が中央に立っていた。男性の横には縦横ニメートル、高さが三メートルほどの大きな布がかかった大きな物が置いてある。
男性は黒く長い髪を後ろに縛り眼鏡をかけたスレンダーで長身だった。目は細く無精ひげを生やしステラとリヒテンシュタインと恰好は同じだが、二人と違い膝当てついたブーツに革の胸当てに厚手の手袋に腰に細長く鍔の長い十字架のような剣をさし武装している。
ダグオンが実験室の中央にいる男性に声をかける。
「ローキンスさん。こんにちは」
「教授…… 後ろの方々は?」
男性が振り向いて右手をあげララとラピを見て首をかしげた。彼の名前はローキンスという。
「昨日お話したヴァンパイアハンターのララさんとラピさんですよ」
手でララとラピを指してダグオンがローキンスに二人を紹介する。
「おぉ。この方たちが。私はローキンスと言います。ダグオン教授の助手を務めております」
「ララよ」
「ラピだべ」
手をあげてローキンスの名乗るララとラピだった。ステラ、リヒテンシュタイン、ローキンスはダグオンの実験を手伝う助手だ。ちなみに三人は以前にグレンとクレアとは会っており面識がある。
「どうですか? サザンクロスは?」
天井を指すダグオンだった。ララとラピの二人は視線を彼の指先に視線を向け、サザンクロスを見上げていた。
「はい…… こちらを」
返事をしたローキンスは作業台に置かれた水晶に手をかざす、彼の手に反応に水晶に光の文字が浮かび上がった。ローキンスは水晶を持ってダグオンに見せた。
「グダール塩湖の効果をもう少し素早く発揮したいですね…… 今の出力では日除けを飛ばすのに時間がかかります」
「そうですか…… 火の力をもう少し上げてみますか?」
光の文字を見つめてうなずくダグオンだった。彼は水晶の光から目をはなしローキンスに向け口を開いた。ローキンスは首を横に振った。
「いえ…… 火を上げすぎると塩が焼かれて日除けを落とす効果が薄れるんです」
「うーん…… 焼かれると効果が薄れるんですね……」
腕を組んでダグオンが考え込んでいた。しばらくするとハッと目を大きく見開きダグオンは何かを思いつき声をあげる。
「あっ! そうだ! 逆にすれば良いんです…… ちょっと貸してください」
「えっ!? はっはい」
手を伸ばしてローキンスから水晶を取るダグオンだった。真剣な表情でダグオンは水晶に手をかざす横に動かす、彼の手の動きに反応して光の文字が書き変わっていく。
「よし」
書き換わった文字を見て満足そうにダグオンがうなずき、彼はローキンスに水晶を差し出した。
「これでもう一回! やってみてください」
「レインシャワーですか?」
「はい。ちょっと気になるんでやってみてください」
「わかりました」
自信満々に話すダグオンにローキンスは小さくうなずき振り向き作業台へと向かう。ダグオンは作業台に向かう彼を見てグレン達に体を向けた。
「皆さん。これから実験です。少し離れましょう」
両手を広げて下がるように指示をするダグオンだった。グレンたちはダグオンの指示通りに下がり階段の手前まで戻された。
「これからの実験は長くなりそうですけど時間は大丈夫ですか?」
「もちろん! 大丈夫よね? ラピ」
「んだ! おらも見てえし!」
二人が返事をするとダグオンも嬉しそうに笑った。
「それじゃあ始めますよ」
ローキンスがダグオンとクレア達に声をかけ、作業台の横にある大きな物に近づき布に手をかけ勢いよく引っ張った。音がして布が引かれて外される。
「檻…… 何を保管しているんだべ…… 何もないべ」
布の下には鉄格子に囲まれた檻があった。現れた檻は何も入っておらず、ラピは困惑の表情を浮かべた。ローキンスは鉄格子の隙間から檻を覗き込む。そこには手足と首のない革の鎧と革の腰巻を巻いた死体が置いてあった。死体はわずかに赤く光っていた。
「まだ再生中ですか…… さっさと起きてください!」
ローキンスはポケットに手を突っ込みに緑色の液体が入った瓶を取り出した。彼は瓶の蓋を開けると死体に向けて投げた。瓶は死体に当たり床に落ちて流れ出た液体が死体の下へとしみこんでいく。
死体から発せられた光が強くなっていく。特に首と手足の付け根が強く光っている。光が伸びて根元から徐々に消えるとゆっくりと体が再生されていく。少しすると手足と首のなかった死体は再生され男が現れた。無精ひげを生やした顔が丸く目も円い短い茶髪の男性だ。再生した男性は鉄格子にローキンスが立っているのを見ると駆けて来た。ローキンスは後ずさりして鉄格子から一メートルほど離れ右手を腰にかけた剣に伸ばす。
「はあはあ…… やめろ! もうやめてくれ!!!」
男はローキンスの前に来ると鉄格子越しにやめろと訴えかけて来た。
「はいはい。大丈夫。すぐに終わる。気づかないうちにね」
「クソオオオオオオオオオ!!!!」
鉄格子の隙間から手を伸ばす男だった。ローキンスは剣を抜き男の腕に向かって剣を振り下した。ローキンスの剣は男の右手を切り落とした。
「うぎゃああああああああああ!!! やめろおおおおおおおおおおおおお!!!!」
鉄格子から離れて苦痛に顔をゆがめて男は左手で右腕を押さえうずくまり。切り落とされた腕は徐々に再生していく。ローキンスが左手を男に向けるのだった。




