第508話 宝の山かゴミ山か
ダグオンはララとラピを連れ塔の扉の前へとやってきた。彼は扉を開け中に入り扉を押さえて二人に中へ入るようにうながす。
「どうぞこちらへ」
ララとラピは興味深々と言った様子で、左右に視線を動かしながら塔の中へ入る。クレアとクローディアとグレンも彼女らに続く。
「うへええ…… なんだべこれ……」
「うわ!?」
「すごいですね」
ラピが顔をしかめて続いてグレンとクレアも驚いて目を見開いた。後ろでクローディアは恥ずかしそうに首を横に振った。
「地下の山と一緒だべな」
「えぇ。そうですね……」
塔は広い空間で手前に小さな机があり、奥にはガラクタが山積みにされていた。ラピ、グレン、クレア、クローディアがガラクタの山をあきれて見つめる。一方で一人だけララはガラクタに駆け寄っていく。
「ねえ。ダグオン! これもしかしてガルディア銅線? こっちは深海エメラルド?」
「おぉ! そうですよ。さすがララさん」
「すごーい……」
細長い銅線を持って目を輝かせ横に転がる深緑色の宝石をさすララだった。彼女が銅線や鉱石に興奮するのを見てダグオンは笑顔になっていた。
二人の様子を見て
「それそんなにすごいのか? ただのガラクタにしか見えないけど……」
「ガラクタ? 何言っているのよ。魔導技術に使う希少材料じゃない! 知らないの?」
「知らねえよ。魔導技術なんて普通の人は知らんぞ」
「そうなんだ」
銅線と宝石を不思議な顔で見つめるララだった。ララが持っているのは銅線はガルディアで加工された物で魔導船やランプに使われている。深海エメラルドは最近掘削が始まった鉱石で魔導技術への応用が期待されている。双方とも相当深く魔導技術に関わらなければ知る機会はない。
「ここは魔導時術に使う物を置いてあるのよ」
物の山を指すクローディアだった。得意げな顔をするダグオンだった。話を聞いたグレンが首をかしげる。
「うん!? ここは? ってもしかして上も」
「えぇ。二階は魔法薬…… 三階は魔導技術…… さらに入りきらない物は四階の倉庫にあるわ」
「はあ…… そんなにため込んでどうすんだよ」
あきれた顔をするグレンにダグオンはやや不服そうに答える。
「もちろん実験や試作に使うんですよ! ここの物だって二ヶ月くらいでなくなりますからね!」
「そうなんだ。すげえな」
「えぇ。本当に天才なんですね」
ダグオンの答えにグレンとクレアは顔を見合わせ笑っていた。ダグオンはララとラピに顔を向け口を開く。
「それで皆さんのお話というのは?」
「そうだべ。おめさが持っていた銀のドレスについて何かわかったか教えてけれ」
「えっと…… あれは…… 五階で実験中でしたね……」
顎に手を置いてダグオンがつぶやいた。顔をまた二人に向けたダグオンは笑顔で天井を指した。
「じゃあ一緒に上に行きましょう。実験の様子を見ながらお話ししますよ」
ガラクタの横にある階段を指して歩きだすダグオンだった。グレン達は彼についていくのだった。ダグオンを先頭にグレン達は塔の壁に沿ってらせん状に上る階段を上がっていく。
四階へと上がったグレンたち円形の空間の中央に長方形の台があり階段の手間に机が四つ並んでいる。壁に棚が並び見慣れない器具が並んでいる。
白いシャツに茶色のズボンを履いた二人の男女が作業台で作業をしていた。
「ステラさん、リヒテンシュタインさん! お疲れ様です」
階段を上がるとダグオンが男女に声をかける。
「あぁ。こんばんは!」
振り向いた男性が右手をあげた。男は体格が良く大柄で短く角ばった髪型の目が細く鼻が低い。彼の名前はリヒテンシュタインという。
「ダグオン教授。こんばんは」
女性が振り向いて笑顔をダグオンに向ける。女性は短い茶色の髪を後ろでまとめて大きな赤いリボンで縛っている。垂れた目に黄色の瞳を持ち鼻がぷっくりとした可愛らしい女性だ。彼女はステラという。
近づくダグオンにステラがララとラピに気づき首をかしげた。
「こちらは?」
「朝話したララさんとラピさんですよ」
「まぁ。本当に可愛らしいヴァンパイアハンターさんですね」
両手を前に組んで笑うステラだった。可愛らしいと言われラピは嬉しそうに笑いララは不満そうに口を尖らせる。
「ララさん。ラピさん。僕の助手のリヒテンシュタインさんとステラさんです」
「おらはラピだべ」
「私はララよ!」
ララとラピは名乗り挨拶をした。リヒテンシュタインとステラはララとラピに順に握手をかわしたのだった。リヒテンシュタインとステラはダグオンの助手だ。
「銀のドレスの解析は進んでますか?」
「はい。これを……」
「どれどれ」
ステラが一枚の紙をダグオンに渡した。ダグオンは受け取った紙に目を通す。
「ほう…… 僕とステラさんの故郷の技術だったんですね」
「はい」
紙を持ったままステラに顔を向けるダグオンだった。彼女は笑ってうなずいた。
「なにあんたの故郷ってどういうこと?」
「えっと…… 銀のドレスはガルバルディアの金属加工技術が使われたみたいですね。確かに世界で金属糸を作れるのはガルバルディアくらいでしょう……」
ララの質問にダグオンが答える。ガルバルディア帝国は古くから金属加工技術が発展し軍事大国になった。世界の魔導起動船や魔導機関車などはガルバルディアの金属加工技術が使われている。
「でも…… これはノウレッジで作られた物でしょうね……」
「えっ!? そんなこと分かるの?」
「金属糸に傷が少ないです。おそらく魔導ジェルに漬け込んでいるんでしょう。形や色が変わるのは魔導ジェルのせいでしょう」
ダグオンがララに顔に向けてうなずき答える。
「何よ。魔導ジェルって?」
「魔導ジェルは神聖騎士団が使う儀式用の薬品ですよ。魔導石にワックス草に虹海の水を混ぜて作るんです。出来た魔導ジェルに魔力を注ぐと色が変化するです。糸にジェルをしみ込ませ馴染ませることでドレスの色を変化させているみたいですね」
「なるほど……」
ララは難しい顔で腕を組む。ダグオンは話をさらに続ける。
「赤や青や虹のような模様も魔導ジェルなら簡単に表せるんですよ」
納得したような相槌をうつララの横でラピが首をかしげている。
「神聖騎士団が色なんか変えてどうするんだべ?」
「模擬戦で使ってみたいですね。旗や鎧の色を変えて識別しやすくしているようです。敵役用に旗や鎧を用意するより安上がりですからね」
「おぉ! 節約は大事だべな」
大きくうなずくラピにダグオンはほほ笑み。さらに言葉を続ける。
「後は…… 救助作業での識別とかですね。布の色で怪我の種類を現すとヒーラーがそれを見てすぐに治療を開始できます」
「ほお」
「それに規律違反をした騎士は左腕に魔導ジェルで色を付けた腕章をつけるって聞きましたね。規律違反の回数によって青、黄、赤になって赤は破門寸前と言われています」
「そっか。今度注意深く見て見るべ」
両手をあげ嬉しそうにするラピにダグオンは苦笑いをするのだった。
話を終えたダグオンは持っていた紙をステラに返す。話を聞き考え込んでいたララがダグオンに顔を向けた。
「ねえ…… 魔導ジェルって神聖騎士団なら簡単に手に入るの?」
「はい。ノウレッジ開発前は貴重品でしたが、開発が進んで魔導石の供給が安定して来ましたから今は手に入りやすいですよ」
「そう…… わかったわ。ありがとう」
深刻な表情でララはダグオンに礼を言った。すぐにララはラピの元へと向かう。
「とりあえずダグオンから聞けそうなのはこれくらいね」
「んだな」
「ダグオン…… ありがとう助かったわ…… あっ!」
うなずくラピだった。ララが改めてダグオンに礼を言おうと彼に顔を向けるとすぐにハッとした。ララはダグオンに向かって口を開くのだった。




