第507話 囚われの教授
ギガンゴスシティ大学の裏庭はあまり広くなく。門から続く壁が十メートルほど先に見えている。花壇や植物畑や木が並んでいた。ララとラピは視線を動かし裏庭を見つめていた。
裏庭に出て動かない二人にグレンが声をかける。
「何ぼーっとしてんだよ。言われて通りに左に行くんだ」
「んっんだ……」
「でもここって外じゃん! どこにダグオンが居るのよ」
振り向いてララがグレンに向かって声をあげる。グレンは彼女の言葉に納得したように小さくうなずいて左を指す。
「あぁ。そうか。ダグオンの研究棟はあそこの塔だ」
「「えっ!?」」
驚いた顔で同時に顔を左に向けるララとラピだった。グレンが指した先には窓が六つ縦に並ぶ六階建ての円形の塔が見える。塔をダグオンが研究棟として使用しているという。
「なんであんなところに…… はっ!? 特別扱い!? ずるいわね! あいつ」
大学からのダグオンが特別扱いを受けていると腹を立てるララだった。グレンは彼女に向かって小さく首を横に振った。
「うんや。元はこっちで研究してたんだけどな。あいつの危険な実験とか平気でやるから追い出されたんだよ」
「えぇ…… 何やってんのよもう…… あいつ……」
特別扱いではなく隔離だと聞いて今度は憤慨するララだった。ララ達は塔に向かって歩き出した。
「グレン、クレア…… なにしに来たの!」
塔の扉の前に腕を組んだクローディアがおり、グレン達に気づくと眉間にシワを寄せイラついた様子で声をかけて来た。
「仕事だよ。ヴァンパイアハンターのな」
「んだ! ダグオンに話があるべ」
「えっ!? そうなの……」
クローディアは答えに納得した。次にグレンがクローディアに尋ねる。
「お前こそここで何しているんだ?」
「人がいると気が散るから出ていけですって……」
不服そうに振り返り塔を見つめるクローディアだった。どうやらダグオンが何らかの作業をしておりクローディアは塔から追い出されたようだ。
クローディアは視線を前に戻りグレン達を見てため息をつく。
「はああ…… あんた達が来ると教授がまだざわつくからやめてほしいのよね」
「悪いな……」
クローディアにグレンは笑顔で手をあげていた。クローディアが冷たく恨みがましい視線をグレンに向けた。直後……
「うぎゃああああああああああああああ!!!」
「えっ!? なに!? ダグオン!?」
「悲鳴だべ!」
塔の裏から悲鳴が聞こえ動揺するララとラピ、グレンとクレアは悲鳴に身構える。しかし、クローディアだけは悲鳴を聞いてニヤリと笑った。
「かかったわね!」
「おっおい。待てよ」
声をあげたクローディアは駆けていく。グレン達は慌てて彼女についていくのだった。
「えっ!? あれ何しているの?」
ララが前を見ながらつぶやいた。塔の裏に回り込んだクローディアの前に、左足を木から伸びた縄で結ばれ逆さに吊るされたダグオンが居る。
ダグオンがクローディアに気づき右手を伸ばして助けを求める。
「あぁ! クローディアさん! 助けて……」
必死に手を動かし助けを求めるダグオンだったが、クローディアは腕を組み彼を睨みつけた。
「助けてじゃないわよ! また逃げ出そうとしたわね!」
クローディアの言葉にダグオンの顔は青ざめていく。必死に助けを求めた彼は今度は必死に言い訳を始める。
「ちっ違います。外での実験が必要になったんで…… でかけようと」
「じゃあなんで? 裏口から? 外に行くときは私と一緒という約束でしたよね?」
腕を組みに冷めた目でジッとダグオンを見つめ淡々と質問をするクローディアだった。
「うっうう…… ごめんなさい…… もうしませんから助けてください」
ダグオンはクローディアに言い訳通用しないと悟ったのか観念して謝るのだった。笑みを浮かべるクローディア、彼女の表情を見て安堵するダグオンだった。しかし、クローディアの口元だけが笑っているだけで目は冷たい。
「信じられると思いますか?」
「えっ!?」
腕を組んだままでクローディアは尋ねる。驚くダグオンにクローディアは目つきをきつくし眉間にシワを睨みつけた。
「いっつもそうやってもうしませんって何度も逃げ出して!」
「僕は逃げ出しているんじゃなくて出かけようとするとあなたが止めるから……」
「止めるような場所や時間に準備もなく一人で行こうとするからです!!!!」
「ひいい!!」
クローディアはダグオンに怒り怖い顔で叫び睨みつける。ダグオンは怯えて声をあげ震えている。彼はは思い立ったら即行動をし夜中であろうが早朝であろうが出発してしまう。また、危険な場所で移動に許可が必要な場所であっても平気で出かけてしまうのだ。
会話をしている二人の後ろから駆けて来たララが声をかける。
「ダグオン!? あんた何しているのよ」
「あっ! ララさーん! 助けてください」
「ダメよ。ダグオン教授を反省させているんだから」
助けを求められたララに横から手を出してクローディアが止めた。
「なんだぁ。あんたが悪いのか。反省しなさい」
「そんなぁ…… 助けてくださーい!」
ララはクローディアの言葉をあっさりと信じダグオンに反省をうながしていた。ダグオンは必死にララに助けて求めクローディアは腕を組み勝ち誇った顔をしていた。
「おめさダメだべよ。ダグオンに話を聞きに来たんだべ!!」
「あっ! そうだったわ」
横に来たラピがダグオンを指してララに注意する。ララはラピに指摘されここに来た目的を思い出しハッとして頭をかく仕草をした。
「クローディアさん。ダグオンを下してけれ。あいつに聞きたいことがあるべ」
「しょうがないわね……」
腕をほどいたクローディアはダグオンを下すことに同意した。ララが話を聞いて手を上げた。
「じゃあ私に任せて! ラピ! ダグオンを落とすから捕まえてね」
「えっ!?」
ララが指を一本立てて右腕を横に向けた。銀の短剣が一本ベルトから抜ける。すぐにララは腕を前に突き出した。銀の短剣が勢いよく飛んで行きダグオンを捕まえていた足の縄へと命中した。
「うわああああああああああああああああああ!!!」
縄が切れたダグオンが落下して地面へと向かって行く。
「よっと!」
「わっ!?」
駆けて来たラピが飛び上がりダグオンを受け止めた。ダグオンを両手で抱きかかえてラピは着地した。
「もう大丈夫だべ」
笑顔をダグオンに向けラピは彼を地面へと下ろした。
「ララ! あぶねえべ! 下ろすならもっと丁寧に…… わっ!?」
「ラピさーん! ありがとうございます!」
振り向いてララに向かって叫んでたラピにダグオンが抱き着いた。彼は泣きそうになりながら必死にラピに礼を言っていた。抱き着かれたラピは頬を赤くして困惑しながらダグオンの頭を撫でる。
「おっおう…… 大丈夫だか?」
「はい。大丈夫です…… ありがとうございます」
「わっわ!」
ダグオンはまたラピに抱き着いた。ラピは恥ずかしそうにして立っていた。ムッと頬を膨らませてララがズカズカと歩いて二人に向かっていく。
「ちょっと! あたしが助けたのよ! あたしにも感謝しなさいよ」
ララがダグオンに向かって叫ぶ。ダグオンはラピから顔を離しララを冷めた目で見つめた。
「嫌です。ララさんは僕を見捨てましたから」
「えっ……」
眼鏡を直しながらダグオンは感謝しろというララを拒絶する。彼の態度にショックを受け固まるララだった。ラピはダグオンに顔を向け口を開く。
「なぁ? 銀の服に付いてなにかわかったか? 話を聞きてえんだ」
「そうですか! わかりました! ささっ! 研究室にどうぞ」
ダグオンはラピを連れて塔の扉へと向かうのだった。ダグオンはラピを見ながら嬉しそうに話をしていた。並んで歩く二人をララは悔しそうに見つめる。
「もう! なんなのよ! 待ちなさいよ!」
顔を真っ赤にして叫び二人を追いかけていくララだった。三人を見ていたクローディアがニヤリと笑う。
「ふーん…… なるほどねぇ。教授もやるじゃない。でも、彼は鈍感だから大変よ」
「ふふふ。そうですね……」
「えっ!? なに? なんかあるのか?」
二人の会話を聞いてグレンが首をかしげる。クレアは視線を横に向け、冷めた目でグレンを見つめため息をついた。
「はああ…… まったくグレン君は……」
「あんたも大変ねぇ。ほら行くわよ」
「はーい。行きましょう」
「えっ!? ちょっと待って……」
クレアとクローディアはグレンを置いてララ達を追いかけていく。グレンは慌てて皆を追いかけるのだった。




