第506話 合流
夕刻が迫る聖都の喧騒から離れた裏路地の広場。屋台から肉や魚の焼かれる香ばしい香りが漂い。その匂いに惹かれてか客が一人また一人と広場へと引き寄せられていく。
「うまーい! アーリアボアのソテー!」
四人掛けのテーブルに並んで座っているララが頬を押さえ声をあげた。彼女の前に厚く切られた焼かれた肉に赤く透明なソースがかけられた料理が置かれている。
「これいのししだべ? どうやったらこんな柔らかくなるべ?」
横にいるラピも同じ料理を食べて料理を運び、まだそばにいたオリビアに顔を向け尋ねる。
「えっと…… それは……」
質問を受けたオリビアは答えがわからず、困った顔をしすぐに屋台に顔を向けた。
「グレ! この肉が柔らかいのはなんでだ!」
屋台の奥からグレゴリウスが顔を出して笑って答える。
「すりおろしたグリーンパインに漬け込むんだよー。甘い香りもつくからさらにお肉が美味しくなるんだー」
「だそうだ」
「へえ……」
フォークに指した肉を見て相槌を打つラピだった。横でララは肉を頬張り幸せそうな顔をするのだった。
「この赤いソースはなんだ?」
「えっ!? グレー!!!」
近くにいた男性客が立て続けにオリビアに尋ね。困ったオリビアがまたグレゴリウスを呼ぶ。料理の手が空いたのかグレゴリウスが出て来て男性客に説明する。
「お野菜とトマトを細かく切って…… 最後にお塩で味を整えて……」
客の前で笑顔で身振り手振りを交え、丁寧に説明するグレゴリウスだった。男性客はグレゴリウスの話を頬をわずかに赤くして聞いていた。口に手を当て微笑むグレゴリウスを見つめララがつぶやく。
「ここのシェフってかわいいよね…… なんか女の子って感じで」
「んだな。綺麗な女の人だべ」
「えっ!? ふふふ…… そうですね……」
クレアは二人の言葉にほほ笑みながら相槌をうつのだった。
「ニャー!」
「えぇ!?」
テーブルの下から猫の鳴き声が聞こえた。クレアが笑顔になりテーブルの下を覗き込んだ。真っ白で赤い瞳の丸い猫が座っていた。
「どうしたんですか?」
「ニャーニャー」
クレアが声をかけると猫は立ち上がってテーブルから出た。そのまま広場の出口の方へ駆けていく。広場の出口には一人の男が立っていた猫は足元にすりよった。男はしゃがんで猫を両手で優しく抱き抱える。
「ここは…… なんだ? お前はクレア義姉ちゃんみたいに食い意地はっているのか……」
「グレン君!」
「えっ!?」
男はグレンで抱きかかえた白猫にあきれた様子で声をかけていた。クレアは彼に気づくと嬉しそうに声をかける。声をかけられたグレンは驚いていた。彼はクレア達がいるテーブルに近づく。
テーブルまで来たグレン、両手を広げて猫を求めるクレアに彼は当然のように猫を彼女に渡した。グレンはクレアの隣の空いた席に座った。
「もう調査は終わったのか?」
「ううん。まだよ…… とりあえず一旦戻って来たのよ…… それでね。早めの夕ご飯!」
自慢するように目の前を皿を指して笑うララだった。グレンは彼女を見てほほ笑む。
「そうかい。でっ調査は?」
「えっとね……」
ララがグレンに貧民街での調査したことを伝えた。グレンは難しい顔でつぶやく。
「銀の手袋か……」
「うん。同じ形の手袋は修理屋さんにあったみたいなんでけど…… 盗まれたみたい」
うなずくララの横でラピが威勢よく声をあげる。
「だから次は盗んだやつを探すべよ」
「そうね。でも、どうやって探そうかしらね……」
「うーん」
二人は顔を見合せ腕を組み悩んでいた。良い考えが浮かばなかったのかララは顔をクレアに向けた。
「どうしたら良い?」
「えっ!? そうですねぇ…… 銀色の手袋…… ダグオンさんに聞いてみたらどうですか?」
「そうか! あいつ確か調べるって言ってたんもんね。行ってみましょう! ラピ」
「んだな!」
ダグオンの元へ行こうというララにラピが大きくうなずき同意した。グレンはクレアに顔を向けやや渋い顔をする。
「でも、昨日持って帰ったばかりだろ? もう調査出来ているのか?」
「どうですかね。クローディアさんによると興味を持つと徹底的にやるみたいですから……」
「はは…… ダグオンらしいな」
グレンがあきれて笑う。食事を終えたララ達はダグオンの大学へと向かうのだった。
「ニャーニャー!!」
聖都の道を白い猫が歩きなが振り返って鳴く。猫のすぐ後ろにララとラピが並んで歩いている。二人の後ろにはグレンとクレアが並んで一匹と二人を見守っている。
「大学までの道は分かるんだけど……」
両手を頭の後ろに持って行き不満そうにつぶやくグレンだった。
「良いじゃないですか。猫さんと一緒ですよ。それに…… 二人の仕事なんですから出しちゃダメですよ」
「はいはい…… わかったよ」
口を尖らせ返事をするグレンにクレアはどこか安堵した様子でほほ笑んだ。
「えっ!? おい……」
いきなりグレンの右手をクレアがつかんだ。驚くグレンにクレアはムッとして口を尖らせる。
「良いじゃないですか。今日は少し離れてたんですから!」
「はぁ。はいはい。勝手にしろ」
「えへへ。勝手にします」
強くグレンの手を握るクレアだった。グレンは諦めたようにため息をついて彼女を受け入れ手を繋いであるくのだった。
「いやらしい」
「んだな」
目を細め冷たい視線を横に移動してつぶやくララだった。ラピも同意し大きくうなずいたのだった。
猫はララ達を先導し聖都の東側へと連れて来た。大きな通りが突き当りに立派な門が見えて来た。門の向こうは中央に噴水のある庭に三階建てで、正方形の中央がへこんだ形をした白く青い屋根の立派な建物が見える。ここがギガンゴスシティ大学である。
ララ達は開いていた門から大学の中へ入り、中庭を歩き建物へと向かうのだった。
「もうすぐ夜だけどダグオンはまだいるべかな……」
夜が近づき帰宅する、複数の学生や教授たちとすれ違いラピは心配そうにつぶやいた。
「うーん…… 多分だけどあいつはここに住むレベルでいるはずよ」
「んだべか?」
「私も魔法学校時代に寮に帰らず教室にいたら先生に怒られたもん! 早く寝なさいって!」
「んっんだか……」
ララの言葉にラピはあきれながら相槌をうつ。ダグオンとララは飛び級をするほどの天才であり、共通点が多く考えも近く同じような行動をしていたようだ。
建物の中へ入った三階まで吹き抜けのホールのような大きい場所で、中央に円形のカウンターが見える。カウンターの向こうの壁には三つの廊下がある。カウンターには青い制服を着た女性が一人座っていた。女性は水色の長い髪を後ろに縛り眼鏡をかけ目の下にほくろがある。
「おばんです。オラたちはヴァンパイアハンターでダグオンとあえねだが?」
「ダグオン…… あぁ!」
カウンターに来たラピが女性に声をかけた。女性は少し考えてからハッとし目を大きく見開いた。
「それなら出てそちらの廊下をまっすぐ進んで奥の扉を出て左です」
振り向いて背後に見える廊下の左端を指して答える女性だった。
「わかったべ。ありがとう!」
ラピが右手をあげ礼を言うのだった。ララたちは案内された通りに廊下を進む。歩いてしばらくする扉が見えて来た。
「ここを出て…… 左ね」
「んだ」
扉に手をかけてララは勢いよく開けた。開いた扉からララとラピは飛び出した。
「へっ!? 出て左って……」
「外だべ……」
扉の向こうは裏庭だった。ララとラピが出て来た扉は裏口で二人は扉の前で呆然と裏庭を見つめるのだった。




