第505話 彼女の名推理
小屋の壁にもたれかかるようにして落ち込む、テックの前でララとラピは顔を見合せる。
「ミーロさんを襲ったやつが付けてた手袋はここのやつで間違いなさそうね」
「んだな」
二人は顔を見合せながら話をしていた。クレアは二人の後ろで見守り、ステファニーは二人の横で興味深げに聞き耳を立てていた。
「ヴァンパイアがその手袋を盗んだとして……」
「問題は誰が盗んだかだべな」
「うん!」
ララが大きくうなずいた。二人は顔を見合わせて笑った。直後に二人の横から
「おっ! 手袋泥棒さんですか…… じゃあ私の出番ですね!」
「「えっ!?」」
同時にララとラピが声をあげた。横を向くとにこやかに笑うステファニーが身をかがめて立ち二人の目線に合わせ立っていた。ステファニーは得意げな顔を浮かべて体を起こし自分を指す。
「私は神聖騎士ですからね。泥棒の捜査は慣れてますよ!」
「でっでも、これはおらたちの仕事で…… あっ!? 待つべ!」
「まぁまぁ遠慮しないで任せてください! テックさーん!」
協力を申し出るステファニーを断ろうとするラピだった。ステファニーはラピが止める間もなく一人でテックの元へ行ってしまった。
「良いのかしら……」
「しゃーない。任せてみるべ」
首をかしげるララの横でラピは諦めたような顔をするのだった。
「ラピちゃん……」
「えっ!? んっんだ!!」
クレアがそっとラピに耳打ちをした。彼女のポケットに手を突っ込み、ハンター道具が入った箱を取り出すのだった。
床に座ったままのテックの前にステファニーがやってきた。笑顔でテックの顔を覗き込み口元を緩めた彼女が彼に尋ねる。
「最近ここに来た人は?」
首をかしげてにこやかに尋ねるステファニーだった。テックは笑って右手を彼女の顔を前に差し出した。
「もちろん。わかっているよな? 別にお前の体でも……」
パチンという音がしてステファニーが軽く出されたテックの手を叩いた。
「もう! テックさん! いつも言っているでしょ。神聖騎士の質問にちゃんと答えないと逮捕だよ」
「うるせえ」
「お年寄りが砂塵回廊に行くことになったもう帰って来れないよ! いいの?」
子供っぽく頬を膨らませ口を尖らせステファニーはテックが逮捕され収監されれば、二度と娑婆に出れないと告げる。テックは怪訝な顔をして彼女の質問に答えるのだった。
「貧民街の連中が毎日来るからな…… 誰って言うのはわからん」
腕を組んでステファニーからの視線を外すテックだった。顎に指を当て少し間を開けステファニーは質問を続ける。
「じゃあ小屋の中に入ったのは?」
「うん…… ここに入ったのは…… 巡回に来る神聖騎士とさっきの娼婦だけじゃよ…… 後あんたらか……」
「そうですか…… ありがとう」
振り向いて自信満々な顔でステファニーは両手を広げた。
「犯人はさっきの女の人と巡回の神聖騎士! それに私達です!」
「それじゃあ何もわかってないってことじゃん……」
「えっ!? そうですね…… あはは……」
頭をかく仕草をして恥ずかしそうに笑うステファニーだった。ララはそんな彼女をあきれた顔で見つめていた。
「どうする…… うん!? なにやっているの?」
「ちょっと調べものだべよ」
首をかしげるララだった。ラピは眼鏡をかけており、ララに声をかけられると彼女はすぐに眼鏡を外した箱におさめてポケットにしまったのだった。
テックの話を聞き終わりララ達は小屋を出た。
「じゃあ私は詰め所に戻ります」
小屋から出るとステファニーは敬礼をして詰め所へと戻って行った。柵から出て通りを池の方角へ向かって歩いていった。
「一旦どこかで情報を整理しましょう」
「んだな。一度地上へ戻るべ」
「よし行くわよ」
ララは通りを指して歩き出す。彼女に続こうとしたラピは振り返り小屋を見てつぶやく。
「あの人と…… テックさんは違ったべな」
「そうですね」
「えっ!? 違うってなによ?」
クレアはうなずいてラピの横に立った。二人はステファニーが歩いていった通りの先を見つめていた。ララは二人の会話を聞き立ち止まって振り返って尋ねる。ラピが笑顔でララに答える。
「さっきテックさんとステファニーさんをクリアブルーアイで調べたんだべ。二人ともヴァンパイアじゃなかったべよ」
「なるほど…… ってなんで私には隠れて調査したのよ!」
「それはクレアさんが……」
「なっ!?」
不満げに口を尖らせ怒った顔をするララだった。問い詰められたラピは気まずそうにクレアの指示だと答えるだった。
ララは怖い顔でクレアを見た。視線をララに向けた彼女はやや申し訳なさそうに答える。
「だって…… ララちゃんはうるさいからこっそり調べるのとか向かなそうだし……」
「んだな!」
「なっなによ!!! もう! 二人共! 嫌い!」
両手を上げて怒ったララは腕を組んでそっぽを向くのだった。ラピとクレアは顔を見合わせて笑っていた。
「もう…… なによ。私がうるさいですって…… なんなのよ…… もう!」
貧民街の通りを歩きながらララはぷりぷりと怒っていた。ララから少し離れたところクレアとラピが並んで歩いていた。
「ごめんなさい。機嫌を直してください」
「そだべ。さっさと機嫌さなおせ。だいたい普段からおめさが大人しくしねから……」
「キッ!」
振り向いて眉間にシワを寄せラピを睨むララだった。クレアはラピの肩に手を置いて口を開く。
「ラピちゃん…… ダメよ」
「んだ…… すまね……」
「フン!!」
鼻から力強く息を吐いて前を向き不機嫌アピールをするララだった。クレアはなんとかララの機嫌がよくなることを考える。
「えっと…… そうだ! ララちゃん! ご飯食べに行きましょう。お詫びに奢りますよ」
クレアは自分が一番喜ぶことをララに提案した。ララは嬉しそうに勢いよく振り返った。
「本当? じゃあクレアのおすすめのところへ連れて行って!」
「わかりました。行きましょうか!」
「いくー! ラピ! 行くわよ!」
「えっ!? 待つべ! クレアさんに連れ行ってもらうんだべよー」
前を指したララは駆けて行ってしまいラピが慌てて追いかけていく。駆けていく二人を見てクレアは優しくほほ笑むのだった。
貧民街からハンター協会がある階層を通り過ぎ、クレアたちは地上へと出た。
「ここなの? 聖都のご飯って高いんじゃ……」
「大丈夫ですよ。任せてください。えっとこっちへですね」
「えっ!?」
綺麗な邸宅が並ぶ通りの狭い路地をクレアが指した。驚くララにクレアは構わず路地を進んでいく。ララとラピは彼女の後に続く。
しばらくいくと四角い広い広場に出た。広場に屋台がいてその前にテーブルと椅子が並んでいる。クレアが屋台に向かって歩いていく。
「屋台…… ここがクレアの……」
クレアに続いて歩きながらララは屋台を見ながらつぶやいた。クレアは屋台でテーブルを拭く給仕を見て手を振った。
「オリビアちゃーん!」
「おうクレア! 来てくれたのか!」
テーブルを拭いていたオリビアが手を止めクレアに声をかけていた。オリビアを見たララがハッとする。
「あれ!? この屋台って…… グリンガルで寄ったあの美味しい…… やった! 早く行きましょう」
「はいはい」
「わっ!? 待つべよ」
グリンガルで寄った際に食べたグレゴリウスの料理の味をララが思い出した。彼女は嬉しさのあまり声をあげクレアの手を引っ張っていくのだった。




