第501話 お目こぼし
ララの肩からクロスさせているベルトから、五本の銀の短剣が勢いよく飛び出した。男たちに視線を向けララが両腕を空へと向ける。浮かんでいる銀の短剣がゆっくりと回転し始め剣先が男たちに向けられていく。
「さぁ…… 終わらせてあげるわ」
口元を緩ませるララだった。男たちは意識はあるがダメージでほとんど動けず、恐怖に顔を引きつらせ銀の短剣を見つめることしか出来なかった。
「待て! 何をしている!!!」
ゴミの山から鎧を身にまとった、神聖騎士が飛び出して来てララを止める。神聖騎士は薄茶色の髪に黄色の瞳の細い目をし鼻がやや丸い男性だ。彼は腰にメイスをぶら下げ左手に丸い盾を持っていた。男に遅れさらに五人の神聖騎士がやって来る。
「誰よ。あんた……」
ララは止めて来た神聖騎士に向かって不満げに口を開く。神聖騎士は右手を胸に置いてララに口を名乗る。
「私は神聖騎士ジャンセン。ゴミ捨て場の警備を担当している」
「おぉ! あんただべか。ララ! やめるべよ」
うなずいたララは腕を下した。短剣が全て彼女のベルトに戻っていく。駆けて来た神聖騎士はララ達が探しに来たジャンセンだった。名前を聞いて嬉しそうにラピだった。ジャンセンはラピを不思議そうに見てすぐに視線を男たちに向けた。
「彼らが何をしたんだ?」
「おらがゴミを拾ったら襲って来たんだ」
「そうよ。なんか俺達のシマだとか言って…… だからちょっと懲らしめたのよ」
ジャンセンは男たちを見渡し次に視線をクレアに向ける。クレアは静かにうなずいた。小さく息を吐いたジャンセンはやや悲し気に首を横に振りララ達に厳しい視線を向けた。
「そうか…… おい! こいつらをひっとらえろ」
神聖騎士達に指示を出すジャンセンだった。ララとラピは彼の言葉に身構えた。
「えっ!?」
「ほっ……」
驚くララに安堵の表情を浮かべるラピだった。ジャンセンの指示を受けた、神聖騎士たちは倒れている男たちを縄で縛って引っ立てていく。
「えっ!? なんでおいたちを!? ジャンセンの旦那!?」
引っ立てられていた腹の出た男がジャンセンに向かって叫ぶ。ジャンセンは渋い顔をして男を一瞥し淡々と話をする。
「ここは教会管理するゴミ捨て場だ。占有の許可はない。君達が見逃されているのはゴミを拾って持ち帰るだけだ」
「クソ…… お前ら! 覚えてろよ!!! グワ!!!!」
腹の出た男はララ達に向かって叫ぶ。ジャンセンは毅然とした態度で引きずられていく腹の出た男を殴りつけ黙らせた。
「連れて行け」
「はい」
「クックソが……」
腹の出た男はジャンセンを睨みつけ神聖騎士に引きずられていった。ジャンセンはあきれた顔で連行される男たちを見つめていた。神聖騎士と男たちが離れるとジャンセンはララ達の方を向いた。
「すまないな…… ところで君達は何しに? ここの住人ではないようだが?」
ジャンセンの質問にラピが元気に手を上げて答える。
「オラたちはヴァンパイアハンターだべ! ミーロさんが襲われたことを調査している」
「あんたがミーロさんを見つけたんでしょ? 詳しく話を聞かせてちょうだい!」
ララの言葉にジャンセンは首をかしげ右手を顎に置いて考える仕草をした。
「ミーロ…… あぁ。ステファニーが見つけた…… わかった。私に付いて来てくれ」
「んだ!」
「いいわ。行きましょう」
クレア達はジャンセンに連れられたゴミ捨て場の奥へと向かうのだった。
「ジャンセンさんたちはここをずっと見張っているだが?」
「あぁ…… さっきの男たちを見たろ? 私たちが居ないとすぐにゴミの奪い合いが始まって殺し合いにもすぐに発展するんだ」
ゴミの山と山の間を歩きながらラピが前を行くジャンセンに尋ねる。振り向いてラピに答えるジャンセンだった。
「そうか。大変だね」
「あぁ。でも…… 彼らもここを抜け出したくて必死なんだ…… それだけはわかってやってほしい」
「うっうん……」
ジャンセンの言葉にララは小さくうなずくのだった。クレアたちはジャンセンの先導でゴミの山を抜けた。開けた四角い広場のような場所で奥に魔法煙の池が見える。右手に見える柵の外に木で組まれた物見櫓と小屋が見える。
「ここは……」
「最終処分場だ。週一回ここでゴミを池に落とすんだ」
池を指しながらジャンセンが答える。ララは驚いた顔で振り向いてゴミの山を見つめる。
「あの山を落とすんでしょ? 大変でしょ?」
「あぁ。大丈夫だ。オフィーリア様がギガンゴスに働きかけてくれるんだ。自動で地面が動いて山は勝手に落ちる」
「へえ。ちょっと見てみたいわ」
目を輝かせてゴミが池に捨てられるところを見てみたいというララだった。ジャンセンは彼女を見てほほ笑み噴き出してしまう。
「ふふ……」
「なんで笑っているのよ!」
ちょっと不機嫌そうに口を尖らせるララだった。
「すっすまない…… 同じようなことを言っている人を見たことがあってね」
「同じこと? 誰よそれ」
「聖都の大学の教授さ。話を聞いたらぜひ見せてくれって懇願されたよ。オフィーリア様にも依頼したみたいだよ」
ジャンセンの話を聞いていたララとラピが顔を見合わせた。話の中の大学教授に二人は心当たりがあるようだ。
「もしかして……」
「ダグオンだべか!」
「なんだ…… 知り合いなのか?」
「んだ」
大きくうなずいたラピが胸を張っている。
「なんだダグオンもここに来たことがあるのね…… 大変だったでしょ?」
嬉しそうに山を見つめてララが振り返りジャンセンに向かって首をかしげて尋ねる。ジャンセンは少し答えにくそうに話す。
「えっ!? あぁ…… 地面を動かした時に勝手にゴミ山の近くに移動してね…… 護衛の女性が止めなければあやうく巻き込まれて一緒に池に落ちるとこだったよ」
苦い顔をしながらダグオンが起こしたことを話すジャンセンだった。
「あいつ…… まったく……」
「まぁダグオンらしいべや」
「クローディアさん…… 大変ですね……」
ダグオンの話を聞いたララは不機嫌に顔をしかめ、ラピはらしいと笑っていた。クレアはクローディアの苦労に同情するのだった。
「君らはもし警報がなったら絶対に山に近づくないでくれよ」
「わかったわ」
ララが大きくうなずいて答えるとジャンセンは笑っていた。ジャンセンは柵の外側にある小屋へとクレアたちを連れて行く。
「戻ったぞ」
小屋の扉を開け中へ声をかけるジャンセン、小屋の中は丸テーブルと椅子があり置くに二段ベッドが一つある。小屋は神聖騎士が滞在する詰め所だった。
詰所の中には男の神聖騎士が一人待機しており、ジャンセンは扉を開けたまま左右に首を動かした。
「居ない…… すまんステファニーはどこに?」
扉を開けたままジャンセンは中に居る神聖騎士に声を尋ねる。
「監視塔で見張りをしてます」
「そうか。悪いな彼女に客人なんだ。代わって来てくれ」
「わかりました」
返事をした神聖騎士は立ち上がり詰所から出て行った。ジャンセンは神聖騎士が出て行くと、扉を開けたままクレア達に顔を向け口を開く。
「どうぞ……」
「お邪魔するべ」
ジャンセンは扉の開けたままララ達を中へ通した。三人が中に入るとジャンセンは静かに扉を閉める。
「適当に座ってくれ」
テーブルを指して座るように言うジャンセン、ララ達は並んで丸テーブルに置かれた椅子に腰かける。
ララ達が座るとジャンセンはテーブルの前に来て口を開く。
「ミーロを保護したのは確かに私だが、最初に見つけたのはステファニーという神聖騎士なんだ。今呼びに行っている」
「んだ!」
ラピが返事をするとジャンセンは扉に視線を向けた。彼に会わせてふとララが小屋の窓の外へ視線を向ける、外へ出た神聖騎士が近くにある物見やぐらを登っていく姿が見えたのだった。




