第499話 最下層の教会
酒場を出たララとラピとクレアの三人は小屋が並ぶ路地を歩いていた。ララは歩きながら両手を後頭部へ持っていく。
「地下にも教会があるんだねぇ」
「はい。ここは町として想定された場所じゃないので正式な物ではありませんけどね」
ララの言葉にクレアが反応する。振り向いてララはクレアの話を聞くとすぐに前を向いた。
「ふーん…… うん!?」
周囲を見つめていたララが何かに気づいたた。小屋と小屋の間に視線を向けたララにボロボロの布を巻いて、上半身は下着姿で談笑する女性二人の姿が見えていた。あられもない姿で話す彼女達を見たララは頬を赤くして前を向く。
「なんか…… ここ変な場所ね。みんな下着とか裸……」
「ここは娼館の代わりなんでしょう。どこでもみんな夜のぬくもりを求めるものです」
「そっそか……」
クレアの話を聞いて恥ずかしそうにするララだった。横でララの反応を見てラピが口を開く。
「なして!? そんな恥ずかしそにして…… ララは子供だべな。やっぱり見習いだべ」
「うっうるさい!」
両手を上げてララはラピに叫ぶ。ラピは笑って舌を出していた。クレアは静かに振り返り通り過ぎた屋台に冷たい目を向けていた。
小屋とテントが並ぶ路地を抜け通りを右に曲がり歩く。
「えっ!? なにかしら……」
「二人共端に寄ってください」
通りに人々が長い列を作っていた。ララとラピはクレアの指示で端により列を避けながら先に進む。
「あれは……」
三人の前に大きな白色のテントが見えてくる。路地を抜けると円形の広場で中央の大きな六角形のテントがあり、天井に十字架を掲げられていた。広場の入り口に立つ三人、ララとラピがテントを見上げていた。
「大きなテントだべな……」
「あれがここの教会ですよ」
クレアが十字架が掲げられたテントを指して答える。ララはテントの教会を見つめ口を開く。
「ロボイセのトンネルにあった出張教会みたいだねぇ」
「そうですね」
三人は教会へと向かって歩き出す。教会の入り口には二人のシスターと見張りの神聖騎士が立っている。シスターの前にはボロボロの服を着た街の人が列を作っていた。列はながく広場を入り口から道へとはみ出していた。シスター達は一人が並んでいる人と話しもう一人のシスターは大きな鞄を肩にかけており、鞄の中から取り出した小さな袋を人々に渡していた。
シスター達を見てララが首をかしげた。
「あれは…… 何をしているのかしら?」
「施しですよ。ここでは毎日施しが行われているようですね」
「そうなんだ……」
ララとラピは施しを受ける町の人々を真顔で見つめるのだった。三人が教会に近づくと神聖騎士が気づいてクレア達に顔を向ける。神聖騎士は若い優しそうな男性で、クレア達に丁寧な口調で声をかける。
「何か用ですか? 施しの希望なら最後尾に並んで下さい」
「あたしたちは診療所に行きたいの。どこにあるの?」
神聖騎士はララの言葉を聞くと広場の右手を指した。彼が指した先にはオレンジ色のテントがあった。
「診療所はあっちのオレンジ色のテントですね。今日はシスターロレインが治療担当をしてくれてますよ」
「ありがとう!」
笑顔で手を振るララに神聖騎士は手を振り返す。三人は案内されたオレンジ色のテントへと向かって歩いていく。
「お邪魔するべ!」
テントの入り口を開けラピが中に声をかける。テント内はベッドが三つ置いてあり、ベッドの横の机と小さな椅子が二つ並んでいる。二つの椅子のうち一つにシスターが腰かけていた。シスターは立ち上がってクレア達に向かって歩いて来る。シスターは立ち止まり三人を見た。茶褐色の肌に茶色の丸い目をした、貧民街には似つかわしくない健康的なシスターだった。彼女の名前はロレインという。
「患者はどなたですか?」
「ちげえ。おらたちはヴァンパイアハンターだべ。ミーロさんに話を聞きにきたべ」
ラピの言葉にシスターは残念そうにして振り向きラピに答える。
「そうですか…… 申し訳ありません。ミーロさんはまだ意識が……」
ロレインは一つのベッドに視線を向けた。ベッドには首に包帯を巻かれた黒い短いスカートを履き、白く薄いシャツを着た茶色の髪の女性が一人ベッドに横たわっている。彼女がミーロのようだ。
「んだか」
「しょうがないわね。ねえ。ミーロさんを見つけた神聖騎士に話を聞きましょう」
顔をラピに向けララがミーロを保護した神聖騎士に話を聞こうと提案する。二人の会話を聞いていたオレインがほほ笑み口を開く。
「それならジャンセンさんですよ。彼ならゴミ捨て場の巡回をしているはずですわ」
「ゴミ捨て場だべか?」
「はい。池の近くですね。広場を出て最初の曲がり角を右にまっすぐ行ってください」
首をかしげるラピにシスターは広場の入り口の方角を指し、ゴミ捨て場までの道を説明した。
「わかった。ありがとう!」
「ありがとうだべ!」
手をあげて礼をいうラピとララにロレインは手を振って笑う。ララは手を振るロレインを見てハッと目を大きく見開いた。
「あんた…… あれ! 出した方が良いんじゃない?」
ララは隣に立つラピの肘をつついた。ロレインを手で出して何かを出すように指示をだした。
「おっ! そっそだな……」
横を向いてララに返事をしたラピはポケットに手を突っ込んだ。
「こっこれを……」
ラピはポケットから財布を出して銅貨を取り出しロレインに差し出した。ロレインは突き出された銅貨を見て首をかしげる。
「なっなんですか? これ……」
「ここじゃなんでも金を払うんだべ? だからこれで払う!」
背伸びをしたラピはロレインにまたど銅貨を差し出した。ロレインは必死に自分に銅貨を渡そうとするラピに優しくほほ笑む。
「ふふふ。ごめんなさい。教会の決まりでお金を受け取ることはできないんです」
手を前にだして報酬を断るロレインだった。
「そだべか」
「うーん…… 難しいわね……」
断られたラピはシュンとうつむき隣にいるララは腕を組みんで唸っていた。二人の背後に立っていたクレアがラピの肩にそっと手を置いた。振り向いたラピにクレアは口を開く。
「ラピちゃん…… 診療所に寄付ならどうですか? それなら受け取っていただけますよね?」
クレアがラピの肩越しにロレインに尋ねる。教会傘下にある冒険者ギルドでの経験から、報酬としての支払いではなく寄付としてなら受け取りできることをクレアは知っている。
「おぉ! そうだ! これは寄付だべ!」
ラピはクレアの言葉を聞いてロレインに銅貨を持って差し出した。
「えっ!? そうですか…… わかりました。ありがとうございます。お役に立てさせてもらいますね」
少しためらいながらもロレインは笑顔でラピから銅貨を受け取るのだった。ラピとララは顔を見合わせて笑顔でうなずいた。
三人は広場を出てゴミ捨て場へと向かう。三人はロレインに教わった通りに最初の角を右に曲がりまっすぐ進む。通りの向こうに高い山のような物が見えて来る。
「何かしらあれ? 山?」
「おめさ。なに言ってんだべ。地下に山があるわけね…… あるべな!」
ララが山のような物を指しラピが否定しようとした。しかし、ラピは目を大きく目を見開いて山を見て大きな声をあげていた。
「あれはゴミの山ですよ」
「なるほど…… じゃああそこが! ゴミ捨て場ね! 行きましょう! ラピ」
「んだな!」
二人は顔を見合わせてうなずくと早足でゴミ捨て場へと向かって行くのだった。クレアは二人の背中を優しくほほ笑み見守っていた。




