第496話 華やかさの裏側
池のほとりに立つ看板を見たララが声をあげた。
「なっなによこれ…… 身投げ禁止ですって!?!?」
看板には身投げ禁止と書いてあった。驚いて固まるララの横でラピは振り向いてクレアの顔を見た。
「なしてそんなことをするだが……」
「商売に失敗した人、魔物に土地を奪われた人、問題を起こした冒険者に犯罪者、色々な事情でここに流れ着いた人が最後にその選択してしまうことが多いんですよ」
「んだか……」
ノウレッジには夢を持ってやってくる者がやってくる。全ての者が成功するわけではない、多くの者が夢破れ失意のうちに大陸から去って行く。この池には頻繁に夢破れた者が身を投げるため、看板を設置して引き止めているのだ。
「特にここは魔法煙で消化されギガンゴスの一部になります。少しでも人の役に立つっていう事実が飛び込む理由にされてしまうんですよ」
寂しそうに看板を見つめるクレアだった。
「聖都にまで来て身投げするだが?」
「そうですね…… ここに来れたからかも知れませんね。ここは他の地域と違って厳しいですから……」
ラピは首をかしげクレアは優しくほほ笑むのだった。聖都へたどり着ける者は一度はノウレッジで成功していることが多い。しかし、ここは最前線で多くの未開発地域が広がりここまで経験したことないような苦難がある。成功体験を持っていた者が聖都で挫折するとショックが大きくそのまま池に……
クレアの言葉にララは少し考えてから口を開く。
「そういえば…… ここに来た時も町から出て行く人たちもいたわね…… ノウレッジってもっと華やかな場所だと思ってたわ」
「おっおらも」
池を見つめて寂しそうにつぶやくララに、ラピは小さくうなずいて同意するのだった。二人を見守っていたクレアが優しくほほ笑んで答える。
「華やかですよ。最新の魔導技術に未知の遺跡に開発が進む大地。他の大陸にはない物がいっぱいです。それに…… ここに居る人達も生きてます。つまりまだ希望を捨ててないってことですよ」
クレアの言葉にララは視線を池に向け、モクモクと敷き詰められている魔法煙を見つめていた。
「よし! 行くわよ!」
「どっどうしただ?」
手を叩いたララが体を横に向け小屋が並ぶ町を指す。いきなりやる気に満ちて声をあげたララにラピが驚いていた。
「ここに希望を持つ人がいる…… 脅かすヴァンパイアがいる。だったら私達のやることは一つでしょ」
「んだな! 行くべ!」
大きくうなずいたラピだった。二人は振り向いて池に背を向け並んで小屋が並ぶ街へ向かうのだった。
「ふふふ。さぁ行きましょうか……」
つぶやいたクレアは二人の背中から視線を上に向け、冷たい目で貧民街を一瞥し彼女たちを追いかけていく。
「まずは情報収集…… なら酒場ね! えっと……」
立ち止まってララが道を見つめている。酒場に向かうにはどうするのか考えているようだ。
「ここをまっすぐ行って右だべ」
道順を示すラピの声が聞こえララが振り向いた。ラピは地図を片手に持って指を指していた。ララはラピが地図を持っているのに驚く。
「いっいつの間に? 地図を……」
「出かける前にプリシラさんからもらったべ。おめさは飯さ食ってたけどな」
「うっ…… ごめん…… 次は気をつける」
ララに向かって勝ち誇った顔をするラピだった。ララはシュンとして彼女に謝罪するのだった。ラピの案内で酒場へと向かう。
路地のような小屋に挟まれた幅の狭い小さな道を進み三人は小さな広場へと出た。
「ここだべ!」
「酒場…… これが……」
ララが広場を見てつぶやく。小屋に囲まれた小さな広場にボロボロの屋台が置かれ、丸太や木箱や樽などが並び数人の客が座って酒盛りをしていた。どうやら広場自体が酒場で屋台がキッチンで木箱や樽がテーブルや丸太は椅子とテーブルの代わりのようだ。屋台の後ろにはテントやボロボロの小屋が並ぶ小道が続いているのが見える。
屋台の向こうには店主であるボロボロのエプロンを付けた髭面の中年の男性が一人いて、広場に入ってきた三人に気づき怪訝な表情で見つめていた。三人は彼の表情に気づかずに屋台へと向かう。
「キャッ!!!」
悲鳴がして何かが割れる音が聞こえた。音に反応して店主が振り向いた。そこには金髪に青い目をしたボロボロの服を着た頬に傷がある女性が立っていて足元には割れた皿が見えた。この女性が皿を落として割ってしまったようだ。
「すっすぐに片付けます……」
謝罪してすぐにしゃがんで割れた皿を拾おうとする女性だった。
「てめえ! 何やってんだ!!」
「ごめんなさい! ごめんなささい」
女性を怒鳴りつける店主に怯えた表情で必死に謝る女性、彼女は手が荒れておでこに三本の獣にひっかかれた傷が見える。店主は女性を睨みつけ拳を振り上げた。
「キャッ!」
屋台の中で金髪のボロボロの服を着た女性が店主に殴られていた。ララ達はその光景に顔をしかめていた。
「ろくに客もとれねえ役立たずのくせに! 店の手伝いもできないのか」
「ごめんなさい! ごめんさい! もうやめて!!!」
何度も女性が叩かれる音が聞こえてくる。ララは眉間にシワを寄せ店主を睨む。
「ちょっと何しているのよ!」
ララが声があげた。屋台の前に立つララとラピの二人、彼女らの数歩後ろでクレアが見守っていた。
店主はララとラピに不機嫌そうに声をかける。
「なんだ? てめえには関係ねえだろ!」
「関係ないですって?! なに…… ふぐ!」
「黙ってろおめさは!」
ララは店主の態度が不満で食って掛かろうとしたが、腕を伸ばしてラピが彼女の口を塞いだ。黙ってろとララを一喝したラピは店主をまっすぐと見て冷静に口を開く。
「すまねな……」
「ふん! ここは酒場だ! ガキが来ると子じゃねえ。さっさと家に帰ってママにミルクでももらってな」
腕を組み不機嫌そうにラピとララに悪態をする店主だった。ムキーっとするララの横でララは冷静に懐に手を入れ財布を出して十ペル銅貨をカウンターに置いた。
店主が
「これで足りるべ?」
カウンターに置かれた銅貨に手を伸ばしつかんだ店主は満足げに笑った。
「空いているとこに適当に座れ。後で持って行く」
「んだ」
三人は屋台の斜め前にある席に着く。小さな丸太を床に置き木箱をテーブルにした席だ。ララは丸太に腰かけ腕を組み不満げに屋台を見つめるララだった。
「なによ。あんな奴ぶっ飛ばせば良いのに」
「ララちゃん…… ここには喧嘩しに来たんじゃないですよ」
「分かっているわよ」
向かいに座っているクレアに注意されるララだった。すぐに女性が酒瓶とコップを三つを、抱えるようにようして持ってララ達の席へやってきた。
「さっきはありがとう……」
「うん!? おらは何もしてねえべよ。ただ注文しただけだ」
「ふふ……」
ラピが答えると女性は優しく彼女にほほ笑みかけていた。頬がこけて頬が泥で茶色く汚れているが、幼げで可愛らしい女性だった。
「おらたちは最近ここら辺で人を襲っているヴァンパイアを探しているべ。なんか知らねか?」
「ヴァンパイアですか……」
顎に手を置いて女性がはつぶやいている。ラピは彼の反応を見てさらに詳しく話を聞こうとする。
「知っているだか? 詳しく話を……」
ラピが話を詳しく聞こうとすると、店主が屋台の向こうから女性を怒鳴りつける。
「何してやがる! 油売ってないでさっさと戻ってこい!!」
「はっはい!」
怒鳴られた女性は慌てて店主に返事をする。彼女はラピ達に頭を下げた。
「ごめんなさい…… 私…… いかないと」
「いいわよ。早く行きなさい。また怒られちゃうわよ」
ララに促されて女性はすぐに屋台へと戻っていく。ララは駆けていく女性を心配そうに見つめていた。




