第495話 地下に沸く煙
朝のヴァンパイアハンター協会本部。グレンとクレアの部屋のリビングのテーブルの上に水晶が置かれ光が円錐形に伸びている。ソファに腰かけたグレンが右手にもった一枚をジッと難しい顔で見つめていた。
グレンの横にクレアとラピとララがやって来た。
「じゃあ。行って来ますね」
「いてきます」
クレアがグレンに出発の挨拶をしラピも続く。グレンは書類から視線を外し。クレアとラピに向かって右手を上げて答えた。続いてララが前に出て胸を張ってグレンに声をかける。
「行って来るわよ。しっかり留守番しておきなさいね」
「うるせえな。俺も仕事が終わったらすぐに行くよ」
「なによ! せっかく……」
生意気な口を利くララにグレンは顔をしかめて、右手を左右に動かしめんどくさそう答える。口を尖らせ不満そうにするララだった。二人のやり取りを見てクレアは優しくほほ笑む。
「はーい。じゃあ待ってますね…… えっ!?」
何かに気づいたクレアが驚いた顔をした。彼女の視線はグレンの前に置かれた水晶に向けられている。
「あっ! クレアちゃんだ! 久りぶりー! それにララちゃんもラピちゃんも元気そうね」
光の中にレイナの姿が現れた。彼女には部屋の様子が見えているのかクレア達に気づいて両腕を激しく振っていた。この水晶は連絡用の魔法道具で魔法でグレンの店とつながっている。
水晶を見ていたグレンもレイナが出て来るのが想定外だったのが驚く。
「おわ!? なんでレイナ姉ちゃんが…… サイラスはどうした?」
グレンは彼が店を任せた薬師サイラスが出てくると思ったいたようだ。レイナにサイラスの所在について尋ねると彼女はにっこりと笑って右手の親指で横を指す。
「あの子はキノコの見極めの特訓中よ! 聞いてよ! ライリーが取って来てくれたキノコを毒だからって捨てちゃったのよ。ヴァレリーカエンダケは確かに毒だけど…… 毒抜きをすれば熱さましになるのに…… はぁ。まったく最近の子は……」
腕を組んで不満げにぶつぶつとつぶやくレイナにグレンは苦笑いをする。
「ははは…… あいつはまだ新人なんだから大目に見てやってくれよ。それよりも……」
間を開けてグレンの顔が真剣になり、レイナをまっすぐに見つめ口を開く。
「勝手に薬の調合代を割り引くなよ! 売り上げが下がっているからおかしいなって思ったんだよ」
「はあああ!? そんなのサイラス君が調合をしているんだから未熟な分を割り引くのは当たり前でしょ! うちでそんなことしたらすぐに村八分だよ!」
「ノウレッジをあんな小さな村と一緒にするなよ。それに未熟って…… あいつは一応薬師協会が紹介しれくれた一人前だぞ」
「だから何よ! どこが認めようと私が認めない以上は半人前なの!」
レイナが腕を組みグレンをジッと見つめている。グレンも身を乗り出しレイナをジッと見つめていた。二人が真剣に会話を始めたのを見たクレアはララとラピの背中に手を置いた。
「行きましょうか」
「そうね」
「んだな」
三人は邪魔にならないように静かに部屋を後にするのだった。ハンター協会本部の外に出ると、クレアは立ち止まり横に移動し振り向き二人に声をかける。
「じゃあ後は二人で対応をお願いします。私は後ろで見てますからね」
「えっ!?」
驚いて声をあげるラピにクレアは微笑んだ。
「今回の依頼はラピさんとララさんのものです。私はあくまで補助をするだけです」
「わっわかっただ」
「よーし。やってやるわよ。ラピ!」
二人で任務をと言われ気合を入るララだった。ラピは依頼書を手に取った。彼女に近づきララは依頼祖を覗き込む。
「まずはどうしようかしらね」
「とりあえず被害者の話を聞いてみるべよ」
「それと現場にも行きましょう。ヴァンパイアの目撃情報とかあるかもしれないわ」
依頼書を見ながら相談する二人をクレアは優しく見守っていた。
「えっと…… じゃあまずは下へ行くべ」
「うん」
二人はさらに地下へと続く階段に向けて歩き出す。クレアは二人の後を付いていくのだった。二人は地下へと続く階段の前へとやってきた。
階段の縁に立って下を覗き込むララとラピだった。螺旋状に続く階段の真っ暗で不気味で飲み込まれそうな空気を漂わせていた。
「真っ暗だべな……」
「うん。不気味ねぇ」
二人は並んで下を覗き込みながら話をしていた。ララが振り向いてクレアにたずねる。
「消化器官で昔はゴミ捨て場だって言ってたな……」
「そうなんだ。よーし! じゃあ行くわよ」
「えっ!?」
「へへへ! 行こう! ララ!」
下を指して行くぞと言ったララはラピと手を繋いだ。驚くラピにララは笑顔でうなずいた。二人は手を繋いで一緒に歩いて行くのだった。
「ふふふ。いいなぁ。私は今日は一人ですからねぇ……」
並んで歩く二人の背中を見ながら笑顔でつぶやくクレアだった。三人は地下へと伸びる螺旋階段を下っていく。
二十メートル地下に下りると階段は終わり、円筒状の空間に小さな扉が見えて来た。金属の頑丈な扉で中央にノブが見える。二人は並んで両手でノブを掴んで扉を引いて開いた。
「ここが…… ゴミ捨て場だべか……」
「そうね。気をつけて行きましょう」
扉の向こうには廃材で作られたお世辞にも、良いとは言えないオンボロの小屋が密集して並んでいた。三人は狭く小さな路地を進むと開けた場所に出て円形の池があった。
ララが池の手前にしゃがんでジッと見つめ、隣にラピがしゃがんで同じように覗き込んだ。
「これ…… どこかで見たような……」
「なんだべこれは池だべか? でっでも…… 霧みたいにモクモクってすてるけど……」
首をかしげるラピだった。池は水ではなく霧のような青い煙が充満していた。過去に同じものを見ていたのかララは必死に思い出そうとした。
クレアが二人の後ろから会話に入って来る。
「これは魔法煙の池ですね。魔法煙はギガンゴスさんの血液のようなものです。いたるとこから湧き出てくるんですよ」
「んだか……」
話を聞いていたララがハッと目を見開いた。彼女は軽く手を叩いから口を開く。
「そっか! 召喚獣だもんね…… ラピ! ちょっと! 触るのはやめた方が良いわよ」
「えっ!? そなのか?」
魔法煙に興味を持って池へと手を伸ばそうとするラピ、隣にしゃがむ彼女の前にララが手を伸ばして止めた。
「うん。魔法煙は物体から徐々に魔力を吸い取るのよ。魔力を吸い付くすと次は生命力を吸い取るの。最終的に全てを吸いつくして消えちゃうかうのよ」
ララが得意げな様子で話をする。魔法煙は召喚獣などの魔法生命体に魔力を循環させる役割と外部から取り込んだ物質から魔力を吸い取る役割があり、血液と消化液が合わさったようなものだ。魔法生命体から魔法煙を取り出し、魔力を吸収する道具や武器などを作成する材料にもなる。ちなみにギガンゴスの魔法煙は魔法吸収が遅く素材には不向きである。
「そっそなのか……」
「ははっ! そんなに怖がらなくても大丈夫よ。ちょっと触るくらいじゃ問題ないから! えっと……これくらいの量があっても完全に消化されるまで一週間はかかるわ」
話を聞いたラピは怯えた顔で煙を見つめ、彼女の顔を見てララが笑顔を向けていた。
「あれは…… なにかしら……」
「どっどしただ?」
ララが何かに気づい立ち上がり池の縁に沿って歩いていく。気づいたラピも立ち上がり彼女に付いていく。三人の五メートルほど先に木の看板が立てられていた。
看板の前に立つララとラピは見上げて読んでいる。看板を読む彼女らの後ろにクレアが立ち見守るのだった。




