第493話 権力の正しい使い方?
クロースとクレアは腕を組み、不機嫌そうな顔をキティルとララに向けたままでいる。二人に挟まれたまあま気まずそうに小さくなっているキティルだった。グレンは彼女に立って仕事の話をするように促す。
「ほらキティル立て。メルダから来た仕事の話をしてくれよ」
「はい。これですね」
立ち上がったキティルはメルダからもらった依頼書を手に持って前にだした。クロースがキティルの手から依頼書を受け取り目を通した。
「地下にヴァンパイアが出現し人が襲われているから討伐依頼ですか」
「うん……」
メルダからの依頼は聖都の地下に出現したヴァンパイアの討伐依頼だ。クロースから依頼内容を聞いたララが首を傾げた。
「地下ってここ?」
クロースがララに顔を向け首を横に振った。
「いえ。ゴミ捨て場って書いてありますからここよりも下…… 貧民街ですわね」
床を指すクロースに合わせてララが下に顔を向ける。話を聞いたグレンの顔がわずかに曇り横にいるクレアが心配そうに彼に視線を向けた。
「それじゃあ…… すぐにわたくしが行きますわ」
クロースは自分を指さして依頼に対応すると告げた。すぐにキティルは彼女が持つ依頼書を取り上げた。
「えっ!? キティル!?」
驚くクロースにキティルはにっこりとほほ笑み首を横に振った。
「ダーメ。クロースちゃんにはほかに任務があるからね。これは…… ラピちゃん! お願いね」
顔をラピに向けキティルは彼女を指名し依頼書を差し出した。
「オッオラが!?」
「うん。お願いね。ララちゃんもラピちゃんに付いて行って一緒に対応してね」
「わかったわ」
ラピと一緒に対応しろと言われ、ララは胸を張って嬉しそうに大きくうなずいた。しかし、ラピが動かずキティルは依頼書を彼女に出したままでいる。ララは動かないラピに声をかける。
「どうしたの? 早く受け取りなさいよ」
「んっんだ……」
ララに促されたラピは手を伸ばして依頼書をキティルから受け取った。キティルは依頼書を持つラピを見てほほ笑み顔をクレアに向けた。
「クレアさんとグレンさんは二人の補助をお願いします」
二人の手助けをキティルはグレンとクレアに指示する。しかし、すぐにグレンは右手をあげ左右に動かした。
「いや俺はパスだ。クレア義姉ちゃん一人で頼む」
「えっ!? グレンさん?」
グレンが依頼を断られ驚くキティルに彼は断る理由を話す。
「血清の生産報告と店の状態を確認しないとまずいんだ。それが終わったら合流するよ」
「そうですか。わかりました。じゃあクレアさん二人をお願いします」
「はーい」
クレアは手をあげて返事をしたのだった。返事を聞いたキティルはうなずいて口を開く。
「じゃあ…… 夕ご飯にしましょう!」
「わーい! お腹空いたあああ! クレア! 行きましょう」
「えぇ」
両手を上げて喜んだララはクレアの手を引いて執務室から出て行った。
「オリビアが居ないのに…… 食事の時は騒がしいですわね」
「あいつに比べりゃ大したことないが、クレア義姉ちゃんもまあまあの食いしん坊だからな」
「ララもですわね……」
クロースとグレンが顔を見合わせて笑う。グレン達は執務室から一階にある酒場兼食堂へと移動したのだった。
食堂へと移動したグレン達が食事を始めた。丸いテーブルにララ、ラピ、グレン、クレアと並んで座り隣の席にクロースとキティルが座っている。
「これ美味しいよ。クレア!」
「本当です。美味しいですねぇ」
隣に座るクレアに切った肉を差し出し渡すララだった。ちなみにララが渡したのは鶏肉のスパイシーソースがけである。肉を食べたクレアは大きくうなずいてララに同意していた。
楽しく食事をしているグレン達の席にプリシラが近づいて来た。
「にぎやかですねぇ」
「プリシラさん! これ美味しいですよ。ララちゃんのお勧めです」
声をかけられクレアは振り向き、自分がララからもらった料理をプリシラに勧める。プリシラはほほ笑み大きくうなずき。
「えぇ。美味しいですよね。私もいつも食べてます」
「そうですか。うらやましいです」
にっこりとほほ笑みプリシラは隣の席へ移動しキティルに耳元で話す。
「会長…… 寝室用意したんですけど…… 本当にこれで良いんですか?」
「えぇ。大丈夫ですよ」
怪しく笑ってうなずくキティルだった。隣に座るクロースにプリシラの声が漏れていた。彼女は首をかしげてプリシラに尋ねる。
「なんですの? 部屋が何か?」
「今日のララさんとラピさんの寝室はグレンさんとクレアさんの部屋でと……」
プヴァンパイアハンター協会本部にはクレアとグレンと滞在できる部屋が用意されている。
「どうしてですの? 部屋は他にたくさんありますわよね」
「そっそれは会長の……」
クロースに尋ねられたプリシラは困った様子でキティルに顔を向けた。キティルの指示でプリシラはクレアとグレンの部屋にララとラピの相部屋になるように手配したのだ。
「キティル…… あなた二人きりにしないように……」
「なーに。二人の部屋は広いし補助を頼むつもりだったから! 一緒にしてもらっただけだよ」
「もう! 職権乱用ですわよ」
「ふん! 良いのよ。私が会長なんだから!!!」
とぼけるキティルを注意するクロースだったが、彼女は開き直って腕を組み鼻息を荒くするのだった。
「はああ…… 本当にあきらめが悪いんですから……」
クロースは大きくため息をついたのだった。食事が終わりクロースとキティルはそれぞれの部屋へと戻った。グレンとクレアも協会の最上階にある部屋へと向かうのだった。
四人で廊下を歩くクレア、グレンが並んで先に行きララとラピは二人に付いていく。
「なんで…… 俺たちがこいつらと一緒に……」
「もう文句言わないの! さっきプリシラさんが今日は宿泊多いから相部屋でって言われたでしょ」
両手を頭につけ不満を漏らすグレンにクレアが注意する。
「ヴァンパイアハンターが夜に本部に泊まるんじゃねえよ…… まったく……」
腕を組んでさらに不満をつぶやくグレンだった。最上階の廊下の突きあたりへとやってきた。グレン達の目の前には壁に横に長い棒がフックにかけられて置かれていた。ララが首をかしげた。
「ねぇ。二人の部屋どこなの? もうなにもないじゃない!」
「あそこだ!」
「へっ!?」
グレンは天井を指さした。天井には長方形の扉が見える。
「あそこなの? 届かないじゃない」
「届くよ。こうやってな」
地面を蹴って飛び上がったグレンは天井の扉を開けた。扉が開くと細長い青い光の梯子が廊下まで下りて来た。グレンは開けた扉の中へと入って顔をだした。
「魔導橋梁技術を使った自動魔導梯子だ…… 上って来いよ」
ララとラピに上がって来るように指示をするグレンだった。青い光の階段は魔導技術を使った梯子で扉が開くと自動で梯子を出すように設計されている。クレアは梯子に手と足をかけた。
「すげな。でも飛べねえ人はいけねべ……」
視線を上に向けラピが梯子を見つめつぶやいた。クレアは梯子に手をかけたまま振り向いた。
「大丈夫ですよ。普段は壁の棒を使って扉をあけるんです」
「そっか!!」
飛べない者が部屋に入る場合は、廊下の突き当りに置かれた棒を使用して扉を開けるのだ。クレアは微笑むと梯子を上っていきララとラピも彼女に続くのだった。
「来たか…… こっちだ」
扉の向こうは長方形の廊下のような空間で壁に扉が見える。グレンは扉の前に立っていて上って来たララとラピに声をかける。
「ほらよ」
グレンは鍵を使って扉を開けるのだった。




