第492話 聖女の自慢
メルダから新たに依頼を受けグレン達が帰ってから静寂に包まれる大聖堂。流れる聖水のかすかな音だけが聞こえていた。メルダは祭壇の前のベンチに座って聖水の流れる音に尖った耳を傾けていた。
「なっなに!?」
激しく扉が叩かれる音がして勢いよく立ち上がるメルダだった。祭壇の横にある奥へと続く扉が激しくたたかれたのだ。
「メルダ! 仕事を終わらせたわ! 開けて!」
どんどんという扉を叩く音とオフィーリアの声が聖堂に響く。あきれた顔をしたメルダは鍵を持ち扉に近づきオフィーリアに声をかける。
「待ってね。今開けるわ」
「早く!! 早く! 急いで!」
「はいはい…… キャっ!!」
鍵を使ってメルダが扉を開けた。勢いよく扉が引かれオフィーリアが飛び出して来た。メルダは飛び出して来たオフィーリアの勢いに押されて倒れそうになる。
扉から出たオフィーリアは首を激しく左右に動かしていた。しばらくしてオフィーリアの顔が止まって首をかしげた。
「あれ!? グレンちゃん、クレアちゃん、キティルちゃん! ラピちゃんとララちゃんはどこ? どこにいったの? あなたたちの聖母よ!!!」
目に涙を浮かべながらグレン達の名前を言葉にし、メルダにすがるような表情を向けるオフィーリアだった。メルダはニヤニヤと笑いながら肩をすぼめて、涙を浮かべるオフィーリアに口を開く。
「残念ねぇ。もうグレン達はとっくに帰ったわよ」
「そんな…… 聖母に会わずに帰るなんて…… 悪い子たち!」
悔しそうにするオフィーリアだった。彼女は聖堂から外に向かう扉に目を向けていた。
「これからハンター協会に向かい苦情を言います。これは聖女として認められた権利で……」
「あらぁ。残念ですわね。聖女様! もう門限が過ぎてますから出かけられませんよぉ」
「クッ!」
勝ち誇って笑うメルダを悔しそうに睨むオフィーリアだった。
「こうなったら…… 奥の手を使うまでです」
膝を曲げ右手を前に突き出し左手を右手首に添えるオフィーリアだった。彼女の右手が白い光に包まれる。慌てた様子でメルダがオフィーリアに声をかける。
「なっ何している?」
視線を横に向けたオフィーリアは口元を緩ませメルダに答える。
「町を作り変えてハンター協会を敷地にいれるんです! そうすれば門限は関係ありません」
「はっ!? なによそれ! やめなさい!!!」
「嫌です! この町は私の意志で自由に作り替えられるんですから!」
「そんな私情で動かすんじゃないわよ! あんた聖女でしょ!」
メルダは慌ててオフィーリアの右手首をつかんだ。手首をつかまれたオフィーリアは眉間にシワを寄せメルダを睨み叫ぶ。
「離してください! 私は聖母として子供たちを優しく抱きしめるのが主より賜った大事な仕事なんんです! 寂しい思いなんかさせません!」
「そんな仕事があるわけないでしょ! だいたいあんたが抱きしめたいだけじゃない! まったく!!!!」
「あぁ! プクー!!!」
精一杯の力を込めて強引にオフィーリアの右手を下し、彼女の愚行を止めるメルダだった。オフィーリアは不服そうに口を尖らせ頬を膨らませそっぽを向いた。
「はあ…… 何が聖母よ。だいたいみんなあんたの子供じゃない……」
首を横に振りつぶやくメルダだった。彼女を見たオフィーリアはハッと目を見開いた。オフィーリアは顔をあげメルダに向かって両手を広げた。
「えっ!? ちょっとやめて」
「大事な子供がここにもいました。今日はこれで我慢です。いいえ。あなたの仕事のせいですからね。今日は夜通し撫でますよ」
オフィーリアはメルダに抱き着いて彼女の頭を撫でていた。
「あのねぇ。私は魔族で魔王の娘なのよ! なんであんたの子なのよ」
「ふふん。残念ですねぇ。ノウレッジに来たら過去は問えないんです! だからそんなのは関係ありません」
「えっ!? それは……」
必死に逃れようとしてメルダが抵抗を辞めた。
「やーっとあなたも私の子になりました。我ながら良いルールを作ったと思います」
「はあああ…… あんたの子じゃないからね! もう!!」
「ふふふ」
メルダを撫でながら満足そうに笑うオフィーリアだった。メルダは嫌そうにしながらも彼女に撫でられるのを静かに受け入れたのだった。
ヴァンパイアハンター協会本部。大聖堂での報告を終えグレン達は帰還した。
「お帰りなさーい」
扉を本部へ入ったグレン達をプリシラが迎える。夜を迎えたヴァンパイアハンター協会はひっそりと静まり返っている。主に夜活動するヴァンパイアに対抗するためハンターのほとんどが夜は活動に出て本部に人は居ないのだ。
「すぐに寝室の用意をしますか?」
「えっと…… まだ仕事と食事を終えてからにしますから用意はゆっくりでいいですよ」
キティルは話しかけて来たプリシアに答えた。
「わかりました…… えっ!?」
「これでお願いしますね」
右手を握ってプリシラに差し出しキティルは何かを彼女に渡した。キティルは笑顔でプリシラに手を振って自分の執務室へグレン達と一緒に向かうのだった。
「ふぅ…… あーあ! 疲れた!」
執務室に戻ったキティルは一直線に自分の机に向かって椅子に腰かけた。クロースがすぐに彼女の元へと駆けて来た。
「こーら! 一人だけ座らないんですのよ! ララやラピだって疲れているのに!」
幼い二人を差し置いて一人だけ椅子に座り一息つくキティルをクロースが注意した。プクっと頬を膨らませ口を尖らせるキティルだった。
「いいじゃん…… 会長なんだから」
「会長なら見本を示しなさいな! ほら立ってしゃんとしなさい!!!」
クロースはキティルの腕をつかんで強引に彼女を断たせるのだった。
「うぅ…… クロースちゃん厳しいよぉ……」
立たされたキティルが嘆くとグレンが笑った。
「そりゃあ。あのオリビアを魔王討伐まで導いたんだぞ」
「えぇ。頼りになります」
グレンとクレアが顔を見合わせて笑う。ララが両手を頭の後ろに持って行くニヤリと笑う。
「いいのよ。キティルと違って私とラピは若いから!」
「んだな」
勝ち誇った顔をするララの横でラピが大きくうなずいた。二人の会話を聞いていた
「なっ!? 私だって若いです! クレアさんやクロースちゃんと一緒にしないで」
「「なんですって!!!!!」」
眉間にシワを寄せたクロースとクレアがキティルを怒鳴りつけた。彼女はしばらくの間二人から叱られるのだった。
二人に挟まれずっと叱られシュンとキティルは小さくなっていく。
「ほら! もうやめてやれ」
「なんですか!」
「なんですの!」
見かねたグレンが二人を止める。止められた二人は不満げにしグレンを睨む。
「キティル。謝れ…… とりあえず」
「うぅ…… ごめんさい」
しょんぼりとして謝るキティルだった。
「ふん! ガキが!!」
「えぇ。クソガキですわ」
二人は腕を組み鼻息を荒くする。キティルはさらに小さくなり、グレンはあきれて肩をすぼめるのだった。
「おばさんの若い子への嫉妬ってやつね……」
「「ララちゃん!!!!!!!!」」
「やめろ! もう!!!」
ララが余計な一言をつぶやく。二人の標的がキティルからララに向かうのを叫んで停めるグレンだった。ちなみにラピは空気を呼んで何も言わずにやり過ごしたのだった。
「ほら! もういいからさっさと仕事を終わらせて飯にしようぜ」
「はあはあ…… そうですね…… ジロリ」
「えぇ。そうですわね…… キッ!」
「睨むな! 怖がっているだろ! はああああ」
クロースがキティルを睨みララをクレアが睨む。睨まれた二人は怖いのか顔を背ける。グレンはクロースとクレアを止めてため息をつくのだった。




