第491話 聖母が居なくて安全です
グレン達は浮かない表情で大聖堂の前へとやってきた。扉に手をかけたジッとクレアをグレンが見つめている。
「なっなんですか? ジッと見つめて…… 恥ずかしいですよ」
頬に手を当て恥ずかしそうに、グレンの視線から顔を背けるクレアだった。グレンはクレアを冷めた目で見つめ首を横に振った。
「余計なことしないか監視しているだけだ。ララもキティルも気をつけろよ」
「えぇ。任せてください」
「うん!」
注意を促すグレンにクレアとララは笑顔で大きくうなずいて返事をした。左右に別れた二人はクレアを挟む。ララはクレアの左手を握り、キティルは彼女の右腕を自分の腕を絡ませ組んだ。がっしりと両脇を固められクレアだった。
「えっ!? ちょっとなんですか」
「私達お姉ちゃんと一緒にオフィーリア様に会いたいの! ねえ? ララちゃん」
「そうよ! 嬉しいでしょう? クレアお姉ちゃん!!」
両脇からクレアの顔を覗き込むララとキティルだった。
「二人の妹に挟まるお姉ちゃんは嬉しいですけど…… これは……」
複雑な顔をするクレアだった。キティルとララは首を傾け彼女の背中で顔を見合わせて笑った。
「じゃあオラはクロースさんと一緒だべ」
「あら!? いいんですか?」
ラピは隣にいるクロースと手を握った。嬉しそうに笑うクロースにラピが得意げな表情をする。
「いざとなったら盾になってもらうべ!」
「まぁ!」
自分を盾にするとラピにあきれて声をあげるクロースだった。グレンが扉を慎重に開いて中を覗く。
「どこだ…… いないな…… いいか。離れずについて来い」
振り向いてまず周囲の安全を確認した、グレンは振り向いて皆に付いて来るように手招きをする。彼らは慎重に一歩ずつ聖堂の奥へ向かう。
ゆっくりと気配を消しながら祭壇へと近づいていく。
慎重に歩くグレン達が祭壇の側までくるとメルダが声をかけて来る。
「なーにやってんの! 早く来なさい」
声をかけられたグレンが顔をあげ視線を前に向けると、祭壇の横にある扉の前にメルダが立って手招きをしていた。
「よかった…… メルダが一緒なら…… 一緒じゃない!!
胸をなでおろしたグレンだったが彼女の側にオフィーリアが居ないことに気づいた。
「どこだ!! オフィーリアは!!」
首を激しく横に振りオフィーリアの名前を呼び彼女のを探すグレンだった。
「えっ!? オフィーリア? 彼女ならそこの扉の向こうよ」
「そうか……」
メルダは右手の親指で後ろに扉を指して答えた。ほっと胸をなでおろし安堵の表情を浮かべるグレンにメルダはいたずらに笑って鍵を見せた。
「会いたいなら開けてあげるけど?」
「やめろ!」
必死に叫ぶグレンにメルダは笑ったまま舌を出した。クレアたちも二人の会話を聞いてほっとした様子を見せる。しかし……
「あっ! メルダ! 子供たちの気配がするわ! 早く開けて!!!!」
大きな音がしてメルダの背後にある扉が激しく叩かれた。オフィーリアがグレン達の気配を察知したようだ。顔をしかめてメルダは振り返り口を開く。
「ちょっとうるさいわよ! 今日の仕事まだ終わってないんでしょ? さっさと片付けなさい」
「うぅ…… うぅ……」
振り向いてオフィーリアに向かって大きな声で話すメルダだった。グレン達に向き直ったメルダが少し得意げな様子で話をする。
「あなた達が帰って来るって報告があってから、そわそわして嬉しそう抱きしめる練習してたからたっぷり仕事を受けてやったわ」
「さすがメルダ! 頼りになる!」
キティルはメルダを持ち上げる。キティルに顔を向けメルダは満足そうにうなずくのだった。
「今メルダのことを褒めた悪い子はだーれ? マンマ怒らないから名乗りなさい!!!!」
「こら! 静かにしなさい! もっと仕事したいの?」
「うぅ…… やります」
振り向いてオフィーリアに尋ねるメルダだった。しょんぼりとしたオフィーリアの声が聞こえ、腕を組んだメルダは大きく鼻で息をしたのだった。彼女はまたグレン達に顔を向けた。
「天井監視所の件よね。ある程度ソーラから聞いてるけど…… 詳しく教えて」
「うん…… あのね」
キティルが前に出たメルダに天井監視所で見たことや起きたことを報告したのだった。
「そう…… グローブ草の幼苗を天井監視所で栽培をしようと…… もちろんつぶしたわよね?」
「大丈夫よ。ぜーんぶ! 食べてやったわ!」
「えっ!?」
グローブ草の味を思い出し笑って腹をさするキティルだった。驚いて顔をしているメルダにキティルは笑顔で話を続ける。
「ちょっと苦くて美味しいんだよ。まだグレンさんが少し持っているから今度」
「うっうん。それは良いんだけど…… ちゃんと調査はしたの?」
「うん。大丈夫。ダグオンが大学で調べてくれるって」
「わかったわ」
ダグオンが調査していると聞いて、メルダはどこかホッとした様子でうなずいた。キティルはさらに話を続けエンドレスアイスに現れた
「湖にお城が出来てね……」
話をつづけたキティルは天井監視所で捕まりエンドレスアイスに連れ去られたことをメルダに話す。
「私とラピちゃんが捕まっちゃってそのお城に連れて行かれちゃったの。しかもバーガンっていうヴァンパイアに噛まれちゃうし……」
「キティル!!」
いきなり叫んだメルダがキティルを抱きしめた。
「えっ!?」
驚いて呆然とするキティルだった。彼女を抱きしめたメルダは必死に首筋や見つめて何かを探している。
「どっどうしたの…… メルダ?」
「はっ!? なっなんでもないわよ!」
顔を真っ赤にしてキティルから手を離すメルダだった。クロースとクレアが顔を見合わせてほほ笑む。
「ふふふ。メルダさんはキティルちゃんが心配だったんですよね」
「ちっ違うわよ!!! クレア! 余計なこと言わないで」
クレアに向かって叫ぶメルダだった。彼女の顔は真っ赤になったままだ。キティルはメルダを見て嬉しそうに笑った。
「ありがとう。でも大丈夫だよ。ちゃーんと血清も打ってもらったしね」
振り向いてララを見てほほ笑むキティルだった。ララは首をかしげていた。
キティルはまた話を続け最後にバーガンが天井監視所から、ニコライに連れ行かれたことを報告し話を終えた。
「そう…… ダバロ枢機卿が…… わかったわ。こっちで監視してなにかあったら教えるわ」
「お願いね」
「じゃああなたたちへの今回の依頼は終りね……」
メルダの言葉にキティルは嬉しそうに笑った。キティルを見たメルダはニヤリと笑い一枚の紙をキティルに差し出した。
「なっなに!? これ……」
「なにってもちろん次の依頼に決まってるじゃない。お願いね」
「えっ!?」
驚くキティルにメルダは笑顔を向けている。グレンは顔をしかめメルダに口を開く。
「おいおい。人使いが荒いな」
「しょうがないでしょ。ヴァンパイアは一匹いるとどんどん増えるんだから! あなた達はヴァンパイアハンターでしょ!」
「チッ……」
グレンを指さして毅然とした態度で話すメルダだった。舌打ちをして何も言えないグレンにメルダはニヤニヤと笑って口を開く。
「でも、私は慈悲深いからね。仕事は明日からでいいわよ。今日はゆっくり休みなさい!」
「なにがゆっくりだ。もう夜だぞ…… クソ」
キティルは不満を漏らすグレンを見て苦笑いをして前を向きメルダに口を開く。
「わかったわ。次の依頼はなに?」
「地下の貧民街でヴァンパイアが出没しているわ。簡単な依頼だけど気をつけて」
「うん! 任せて!」
胸を張って大きくうなずくキティルにメルダは優しくほほ笑むのだった。




