第490話 戻って来ました
夕刻で赤く聖都にグレン達が立っていた。彼らは飛竜船で聖都へと戻ったのだ。町の入り口まで来るとダグオンの手を取ってしっかりと捕まえ通りの向こうを指さした。
「じゃあ! 教授! 私たちは大学に戻りますよ」
「わかってます。勝手に行きませんよ……」
手を掴まれたままダグオンはうなずいて返事をした。力強く握られた手首にクローディアのもう逃がさないという決意がひしひしと感じられる。
「じゃあ。皆さん! 僕とクローディアさんは大学に戻ります。また」
「あぁ。ありがとう助かったよ」
「またね!」
左手を上げダグオンがグレン達に挨拶をした。皆が手を上げダグオンに答えグレンとララが声をかけていた。横からスッとクレアが前に出てダグオンに小声で話しかける。
「銀色の服の解析お願いします」
「わかりました…… あっそうだ! あとこちらも解析しておきますね」
ダグオンはポケットに胸のポケットに手を突っ込み、何かを取り出して手のひらに置いてクレアに見せた。
「これは…… グローブ草の幼苗」
彼の手には緑に小さなグローブ草の幼苗があった。彼はグローブ草の幼苗を持って帰って来たようだ。
「新しい日除けが来ても僕のサザンクロスで対応できるようにしておきます」
「はい。お願いします」
笑顔でうなずくクレアにダグオンは真面目な顔でさらに口を開く。
「いつものように…… 猫データベースに?」
「えぇ。あそこであれば私達も冒険者ギルドにも共有されますから!」
「わかりました…… わっ!!」
胸を張ってうなずいたダグオンがクローディアに手を勢いよく引っ張られた。
「ほら! もう行きますよ」
「わかりましたからそんなに引っ張らないでください」
クローディアに引きずられてダグオンは通りの向こうへと消えていた。引きずられていくダグオンをグレン達は笑顔でみおくったのだった。
「じゃあ…… 私達も行きますか……」
通りの向こうに見える教会に視線を向けクレアが皆に声をかける。グレンはクレアの視線を追いかけるように教会に目をやり、面倒そうな顔をして頭をかく仕草をした。
「なぁ…… オフィーリアじゃなくてメルダに報告しても良いんじゃないか?」
グレンの問いかけにキティルがニヤリと笑って答える。
「良いですよ。ただ…… 報告に行かなかったら泣きながらグレンさんの店にオフィーリア様が突撃するでしょうけどね」
「ゲッ!!! さっさと行こうぜ……」
苦い顔をしたグレンが教会に向かって歩き出した。歩き出したグレンの背中を見たクレアとキティルは顔を見合わせて笑うのだった。クロースとララとラピもつられて笑う。
グレンが歩き出すと前の路地から猫を抱えた小さな男が出て来た。
「はいはーい。皆さんこんにちは!」
路地から出て来たのはナーを抱えたソーラだった。彼はクレアの燃えてしまった肩掛けの鞄と同じものを肩にかけている。歩き出してすぐのグレンは立ち止まりソーラと一緒にクレアの前へと向かう。
「あっあんたは…… えっと…… 確かテオドールで……」
グレンと一緒に戻って来たソーラを見たララが首をかしげていた。二人はテオドールの路地裏で出会っていたがララは覚えていないようだ。
「ソーラさんだべ!」
「そう。ソーラだよ。ありがとうラピさん」
首をかしげるララの横でラピが答え、ソーラは嬉しそうに名前を答えた彼女に礼を言った。ソーラはそのままにこやかに笑ってクレアの前へとやってきた。
「はい。これ! 鞄の予備だよ」
「ありがとうございます」
ソーラは自分が持っていた鞄を肩から外してクレアに渡した。クレアは礼を言いながら鞄をソーラから受け取った。ちなみにクレアの鞄は魔法道具であり見た目よりたくさん物が入る。さらに予備の鞄とつながっており入れた物は共有されるため今回のように鞄が壊れても問題はない。
クレアが鞄をかけるとグレンがソーラに視線を向け感心した様子で口を開く。
「よくわかったな」
「みんなが心配してからね……」
「ナーー!」
抱いているナーの頭を撫でるソーラだった。クレアは得意げな表情で胸を張った。
「どうですか! 私は猫に好かれているんですよ」
「そうかなぁ?」
疑った顔をするグレンにクレアは口を尖らせ不満げにする。
「グレンの言う通りだよ。好きとかじゃなくてクレアが鞄からおやつを出してくれるから心配しているだけだよ」
「えっ!? うぅ……」
しょんぼりとするクレアにグレンが肩に手を置いて声をかける。
「まぁいいじゃねえか。餌をくれるいいやつだと思われているんだから」
「そうですね……」
気を取り直して笑顔でナーを見つめるクレアだった。彼女の様子を見ていたララが渋い顔をした。
「なんかそれだと猫にいいように利用されているだけじゃ……」
「良いのよ。ララちゃん…… かわいそうでしょ。クレアさんが」
「んだ。おめさ余計なこというな」
ララのつぶやくとキティルが彼女の口に手を置い静かにさせる。ラピも大きくうなずくのだった。クロースはあきれて笑いソーラの側へ近づく。
「それでソーラさんは何をしにここへいらしたんですの?」
クロースに尋ねられたソーラは一回だけ手を叩いて答える。
「おっとそうだった! バーガンはダバロ枢機卿の元から神聖騎士団に戻されたよ」
「そうか。ルドルフがやってくれたな」
満足そうに笑うグレンとクレアだった。ソーラは二人を見てすぐに真剣な顔をして話をする。
「でも…… もうそれも終わりだね。明日にはセントグレイタス修道院に戻されると思うよ」
「わかった。十分だ。後は頼んだぞ」
「うん。任せて! なっ?」
「ナーー!!」
顔を覗き込んできたソーラにナーは大きな声で返事をした。クレアは笑顔でナーを見ていた。
「それと…… これは伝えておいた方が良いかな……」
「なんだ?」
首をかしげるグレンにソーラは手招きして皆を集めた。皆が近づい来てソーラを囲むと彼は小声で話をする。
「今日付けでニコライはグランドアーリア北部第二大隊から異動になったよ」
「なに? どこへ行ったんだ?」
「第二聖都警備隊になったみたい…… おそらくタバロ枢機卿が手を回したんだと思うよ」
「そうか…… ありがとな」
グレンが言うとをソーラは笑顔でうなずき右手を上げる。直後に十九時を告げる鐘の音が響いた。
「じゃあもう教会に行った方がいいよ。オフィーリア様が待ちくたびれているみたいだからねえ」
「はぁ…… 明日にしねえ。もうオフィーリアも寝ているだろ?」
ため息をついたグレンは報告に行くのを明日にまわそうと提案した。
「良いけど…… 君達が戻って来たことは知っているみたいだよ。いまこっちに来ようとするのを必死にメルダが止めているから…… 行かなきゃ夜中に枕元にたっているかもね」
「怖いこと言うなよ」
「だってこの町は彼女の意志でどうにでもなるからね」
怯えた表情をするグレンにソーラは笑い右手をあげた。
「ふふふ。じゃあ頑張ってねぇ」
「お前も無理矢理つれ行ってやろうか」
「えぇ!? それは勘弁してよ!」
右手を伸ばしてソーラを捕まえようとするグレンだった。慌ててソーラはナーを抱えて走って逃げて行ってしまった。ソーラは出て来た路地裏に駆けこんで見えなくなってしまった。
「じゃあ行くか……」
「えぇ…… 行きましょうか」
ソーラが居なくなるとグレンは諦めたようにつぶやきクレアが同意する。グレン達は大聖堂へと向かって歩き出すのだった。




