第486話 見捨てるとは言ってない
ケイトの口を塞いだグレンは満足そうにうなずき前を向いた。
「ララ! 早く治療を始めろ」
ジッとケイトを見てからララは少し困惑した様子でクレアに顔を向け尋ねる。
「良いの? クレア……」
首をかしげるララにクレアは優しくほほ笑みうなずく。
「はい。かまいません。ララちゃんはラピちゃんとキティルさんよりバーガンさんを助けたいですか?」
「えっ!? それは…… いや! ラピとキティルを助ける」
ララは血清の瓶を握りしめ二人の顔を真剣な表情で見つめた。彼女は両手に血清を持ってクレアに習った通りに処置を始めるのだった。
「それで良いんです。まず自分の大事な物を守ることが皆を守ることになります。忘れないでくださいね」
真剣な表情でラピに血清をうつララの姿にクレアは小声で声をかけるのだった。
「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
口をふさがれたケイトが治療を受ける、ラピとキティルを見て必死に叫んでいた。彼女の声にグレン達が反応することはなかった。グレン達はラピとキティルの治療をするララを黙って見守っていたのだった。
二人の胸に血清を打ち治療を終えたララは顔をあげ、額の汗を拭って小さく息を吐く。
「ふぅ…… できたわ」
「はい。もう大丈夫ですね。二人とも静かに寝ててくださいね」
隣のクレアに報告するララにクレアは笑顔でうなずき、寝ている二人に声をかける。
「はーい」
「んだ!」
キティルとラピはクレアに返事をして大人しく横になっていた。グレンは二人の治療が終わると顔を横に向けた。グレンはおもむろに静かに歩き出すとクロースが彼に続く。クレアの背後までくるとグレンは彼女に声をかける。
「じゃあ…… 行って来る」
「はい。お願いします」
クレアは振り向いてうなずいた。グレンは右手をあげクロースは頭を下げるとそのまま歩いていく。クレアの横でその様子を見ていたララが首をかしげた。
「グレン、クロース…… どこ行くの? 待ってよ」
立ち上がったララはグレンとクロースを追いかけていく。グレンは前を向いたままだったが、振り返ったクロースが足を止めララが来るまで待ち一緒に歩いく。
グレンとクロースとララは倒れたバーガンの前に止まった。グレンとクロースが顔を見合わせてうなずく。グレンがゆっくりと前に出た。前に出たグレンの背中にララが声をかける。
「バーガンを殺すの?」
首をかしげてララが尋ねるとグレンが振り返って笑った。
「さすがの俺も動かないやつを殺すほど落ちぶれてねえよ」
グレンは笑顔でララに答えるとしゃがんだ。彼は手をバーガンの首筋に伸ばして当てた。首筋に手を当てグレンは小さくうなずいた。
「まだ生きているな…… クロース! 縄を持っているか?」
「はい」
振り向いたグレンはクロースに指示をだした。クロースが縄を出すとグレンはポケットからポーションを取り出した。ポーションの瓶を開けてバーガンの体にかけるグレンだった。
「なっ!? 助けるの? だって…… そいつは……」
ポーションをかけて治療をするグレンに驚くララだった。縄を持ったクロースがララに口を開く。
「グレンさんは助けないなんて一言も言っておりませんわよ」
「えっ!?」
クロースの言葉にグレンは大きくうなずき口を開く。
「あぁ。俺は優先するのはラピとキティルだって言ったんだ。こいつはまだ利用価値があるからな」
倒れているバーガンに視線を向けるグレンだった。ララもバーガンを見つめて複雑な表情をしたのだった。グレンが何か気づいた。
「あいつは何も変わらんけどな」
視線をバーガンから数メートル先に向けグレンが笑った。ララは彼と同じように視線を先に向けた。
「あーー! あんた何しているのよ!」
ララが両手をあげて怒りながら駆け出した。バーガンの数メートル先でダグオンが立って赤い布を持っていた。赤い布はバーガンが身に着けていたマントである。
ダグオンへと元へと駆けて来たララは彼の手首をつかんだ。
「ヒッ!」
いきなり手首をつかまれたダグオンは視線を手首に向けると、そこには眉間にシワを寄せ怒りに震えるララがおり彼は悲鳴を上げた。悲鳴を上げられたことで不機嫌になりララの顔はさらに怖くなっていきダグオンを怒鳴りつける。
「何しているの! また勝手に触って! 危ないでしょ」
「えっ!? いやこのマントはさっきの服と同じかなって…… だから回収して……」
「もう! あんたは…… まったく。ほら一緒にやってあげるからしまいなさい」
「はっはい」
ララはダグオンからマントをひったくるように奪いとりたたむ。ダグオンは手帳を開いてメモを取ってから保管用の小さな宝箱を取り出すのだった。
「よーし連れて来たぜ」
手足と噛みつかれないように口を布で縛られた、バーガンを肩にかつぎグレンはクレアの元へ戻って来た。クロースが彼に続き二人の後ろをダグオンとララが一緒に歩いて戻って来た。グレン達が戻って来るとクレアは立ち上がり迎えた。
「ラピちゃんもキティルさんももう大丈夫ですよ」
「あぁ…… じゃあ戻るか…… お前もな!」
「キャッ!!」
うなずいたグレンはケイトに向かって手をパチンと鳴らした。ケイトの草が形状をかえ後ろ手に彼女を拘束した。急に形状が変わりケイトはバランスを崩して倒れた。
こうしてエンドレスアイスの城はグレン達に寄って制圧された。グレン達は天井監視所へと戻るのだった。町へと戻ったグレン達をナウローとハインリッヒが迎える。
「お帰りなさい」
「どうでした…… ケイト!? 君は……」
拘束されたケイトを見て驚くナウローだった。グレンは笑顔でうなずくと抱えていたバーガンを下しクロースはハインリッヒにケイトを渡す。
二人にエンドレスアイスで起きたことを説明したグレンたちだった。
「そうですか…… ケイト…… なぜ僕らを…… いやもういい」
話を聞いたナウローは失望した様子でケイトを見た。ケイトは彼から視線を外した。しかしケイトはすぐに顔をあげバーガンを真剣な表情で見た口を開く。
「ハッバーガンを助けて…… 彼は吸血症なの…… お願いします」
「貴重な血清をお前らなんかに使うわけないだろ!」
ナウローは侮蔑の表情を浮かべケイトを怒鳴りつけた。グレンが彼の肩に手をかけ口を開く。
「いや。教会から血清をもらっているだろ? それを使って治してやれ」
「えっ!? でっでも…… 二人は砂塵回廊か大陸から排除にですよ。死刑の可能性だって……」
グレンは視線を床に寝かされたバーガンとハインリッヒに縄を掴まれたケイトに向けた。
「人間として処罰してやれよ…… わざわざヴァンパイアを増やすこともねえだろ」
「そうですね…… わかりました。ハインリッヒさん。バーガンは治療をしてから神聖騎士団に引き渡します」
「わかった」
ハインリッヒがうなずいた。ケイトとバーガンを引き渡したグレン達は宿”寒空の癒し”へと向かう。グレン達は今日は天井監視所に宿をとり明日聖都へ帰還する予定だ。
「宿のお風呂が大きいのよ!」
「ほぉ…… 楽しみだべな」
嬉しそうに会話をするラピとララだった。宿を扉を開けたグレン達が中に入った。宿のカウンターでグレンとクレアが宿泊の手続きをしクロース、キティル、ララ、ラピ、ダグオンは二人から少し離れたところで待ってた。
廊下から大浴場へ向かおうと短い黒髪と茶色の長い髪の女性が出て来た。二人はクレアとグレンを見て嬉しそうに声をあげる。
「あらあら!? 新婚さんじゃない!」
「本当だ! 新婚さんよ!」
グレンとクレアと見て中年女性二人が興奮気味に話しグレンとクレアに近づいてくる。クレアとグレンが顔を見合わせて驚いた顔をして近づく中年女性を見た。
「へっ!? 新婚って…… 俺達が?」
「うん! 見たわよ! あなた達のあつーい接吻! ねぇ?」
「本当…… 私もあんなに愛されてみたいわね。もしかしてここに泊まるの? 今日もきっと熱い夜をすごすのね!!!」
「えっええ!?」
二人は広場でグレンとニコライの試合を見物していた。最後のグレンとクレアのキスも見ていたようだ。グレンとクレアは顔を真っ赤にしてうつむいていた。
「じゃあね。新婚さんの邪魔しちゃ悪いわね。行きましょう」
「ごきげんよう。私も今日旦那に頑張ってもらおうかしら」
「やーだー! もう!」
中年女性二人は勝手にしゃべって満足すると背中を向け大浴場に向かうのだった。
「ははっ……」
「参りましたね……」
グレンとクレアが顔を見合わせて恥ずかしそうにしていた。ただ二人はどこか嬉しそうに見える。そこへ……
「なんですか! あれ!!!!」
「わっ!? なっなんだよ…… キティル?」
「そうですよ。どうしたんですか?」
二人の間に割り込むようにしてキティルがやって来て声をあげた。驚くグレンにクレアはわざとらしくとぼけている。
「いやだって! 二人が新婚さんって言われてましたよね?」
「えっと…… それは…… その場の流れっていうかな。なあクレア義姉ちゃん?」
「そうですね…… 流れでしたね」
「なっ!? 流れってなんですか! ちゃんと教えて…… わっ!」
クロースがキティルの背後から近づいて彼女の首根っこを持って引っ張る。
「こんなところで騒ぐと迷惑ですわよ。お部屋で説明しますわ」
「嫌よ! 離して! きっちりとさせてもらうわ」
キティルはクロースに引っ張られていった。ララ、ラピ、ダグオンはその様子を見つめていた。
「見て! 修羅場よ」
「んだべな」
「うんうん。クローディアさんが喜びそうです」
三人は嬉しそうに話していた。グレンとクレアは三人の後ろで苦い顔をしていた。




