第485話 渡したよね
グレンの足元から白い煙がいくつも上がっていく。
「元に戻るのか……」
周囲を見ながらグレンは足でバーガンの胸を蹴って飛び上がった。バーガンから下りて着地したグレンは小さく息を吐く。
「ふぅ…… 終わったな」
右肩にかついだ大剣からフェアリーアンバーを外す剣を鞘に戻すグレンだった。
「ブルーモースが消えた……」
バーガンは人間の姿に戻って仰向けに倒れ、ブルーモースの肉体は崩れて灰のようになって消えて行った。
消えたブルーモースを見つめている、グレンの背後から小さな何かが駆けて来た。
「グレーン!!!」
「わっ!? ララ! あぶな…… えっ!? どっどうした?」
背後からララが駆けて来てグレンの足に抱きついた。慌てて振り向いて彼女を叱ろうとしたグレンだったがすぐに動揺し声をかける。ララは顔をクシャクシャにして泣きそうになっていた。
「鞄が燃やされて…… 血清が…… だから急いで取りにいかないと……」
ララが泣きながら答えるとグレンは顔をしかめていく。
「へっ!? おい!」
「なっなによ!? 怖い顔して……」
グレンは抱き着いて来たララを足からはなすと彼女の前にしゃがみまっすぐに見つめる。ララはなんでグレンが厳しいたいどなのかわからず困惑した表情を浮かべている。
「お前にキティルとラピ用に血清を預けただろ?」
「あっ!!!!!」
目を大きく見開いて声をあげたララは自分の体を両手をあた。ポケットからゆっくりと血清の瓶を出す。グレンは冷めた目でその様子を見つめている。
「そうだったわね…… ははは」
「ごまかすな! まったく…… ほら行くぞ!」
「うっうん!」
血清の瓶を出して笑ってごまかすララにあきれるグレンだった。彼はララにほほ笑むとラピ達の元へ戻ろうと手をだした。うなずいたララはポケットに血清を戻し、恥ずかしそうにグレンの手をつかんだ。
二人は手をつないでキティル達の元へと戻るのだった。寝かされたキティルとラピの横にクレアとダグオンがしゃがんでクロースがケイトを監視している。ララはクレアたちに近づくとグレンの手を離し駆け出した。
「みんなー!!」
「ララ!? どうしたんですの。バーガンが居なくなったからこれからすぐに町へ戻りますよ」
クロースがララに声をかけると、彼女はにんまりとほほ笑んでうなずきポケットに手を突っ込んだ。
「大丈夫よ! 見て! じゃーん!」
「えっ!?」
両手を突き出して血清が入った瓶を見せるララだった。クレアは彼女の両手に握られた結成を見て大きく目を見開いた。
「血清ですか? どうして……」
「えっと…… グレンが……」
「え!? グレン君はさっきもう血清は切らしたから私に……」
「へっ!? それは…… その……」
クレアの問いかけに気まずそうに答えるララだった。クレアはジッと真顔で彼女を見つめている。
「ララにキティルとラピ用にって渡した分があったんだよ。こいつそれを忘れてたんだ」
「グレン! 余計なこと言わないで!」
後ろからララに追いついてきたグレンが二人に答える。ララは顔を真っ赤にしてグレンを睨む。
「そういうことですか…… もうララちゃん! ダメですよ」
「本当に…… まったく…… あなたそんなので正規ヴァンパイアハンターになれるとお思いですの?」
「うっう……」
クレアとクロースがララに冷たい目を向ける。先ほどまで得意げにしていたララはしょんぼりとうつむいてしまった。
攻められるララにグレンが見かねてクロースとクレアをなだめる。
「まぁまぁ。みんなそんなに攻めるなよ。とにかく血清があったんだから」
「そうですね……」
「もう…… 二人とも甘いですわよ」
グレンの言葉に納得するクレアだが、クロースは納得せずにララを睨むのだった。
「クロース…… ほら! 説教は後にしてさ。さっさと二人を治療してやろうぜ!」
「まぁ…… そうですわね」
「ほら! ララちゃん。こっちへ来てください」
クレアがララを呼びグレンはクロースの隣に立って見守る。ララが血清を持ってクレアの横に膝をつく。
「出来ますね?」
「うん。任せて! もう大丈夫!」
笑顔で大きくうなずいたララにクレアは優しく頭を撫でた。苦しみながら寝ているラピがララの顔を見てつぶやく。
「ほんとだが?」
「ラピちゃん。ダメだよ。もう……」
「うるさい! 大人しくしなさいよ」
ラピをキティルが止める。ララはラピに向かって口を尖らせ不満げにしていた。キティルはララを見て優しくほほ笑む。
「お願いね…… ララちゃん」
「うん。じゃあいくわよ」
うなずいたララは血清の瓶に聖針を刺して構える。ラピは仰向けになって目を閉じた。
「まっ待って!!!! 待って!!!!!!!!」
声がしてみなが振り向くと草で拘束されたケイトが必死に叫んでいた。グレンが首をかしげるとクロースが耳打ちして教えていた。
「あぁ。なるほどな…… あいつはバーガンの仲間だったか……」
「えぇ」
クロースがうなずいた。グレンは冷たい視線をケイトへと向けている。困惑した表情を浮かべるララの肩に手を置いたクレアがケイトに冷たく口を開く。
「何を待つんですか? 今は治療中なんで静かにしてくれますか?」
静かにしろというクレアにケイトは視線を水槽の奥で倒れているバーガンに向けた。
「ばっバーガンを治療して! いまならまだ彼を……」
ケイトは血清を使ってバーガンを治療しろと言って来た。クレアは静かに首を横に振った。
「お断りします。さぁ! ララちゃん……」
笑顔をララに向けたクレアは手でラピとキティルを指し、彼女たちを治療するようにうながすのだった。ケイトはクレアを見てまた叫ぶ。
「どうして! 彼は私の仲間なの! 助けてよ! 他の子たちは助けたじゃん!」
「そうですよ。だからラピちゃんとキティルさんを助けるんですよ。私達の大切な仲間ですだからね」
「なっ!?」
ケイトに笑顔を向け大きくうなずいたクレアだった。
「まってよ!!!!! 冒険者は助けあう必要があるんでしょ! あなた達は冒険者じゃない! 助けなさいよ!!!」
必死にクレアに訴えかけるケイトだった。クレアは反応しない。あきれた顔をしたグレンが振り向きケイトに冷たい目を向ける。
「うるせえな。都合よく相互安全義務を使うんじゃねえよ。あれはパーティ内もしくは同じ仕事をする冒険者同士にしか適用されない。俺達とバーガンは仲間でもなんでもない」
「わっわかっているの…… でも……」
目から涙を流し首を横に振るケイトだった。グレンは泣く彼女にさらに冷たい目を向けた。
「だいたい鞄を燃やしたのはお前だろ? 金に目がくらんでヴァンパイアの味方をした全部てめえのせいだよ。そこで後悔してな」
グレンは吐き捨てるように言い放つと腕を組んで前を向いた。
「違うの!!!! 違うの!!!」
「しつけえな! 何が違うんだよ!!!」
勢いよく振り向いてケイトを怒鳴りつけるグレンだった。ケイトは少し間を開けてから口を開く。
「私達は家族を人質に…… だから…… 言うことを聞くしか……」
「あぁ。そりゃあ可哀想にな。ナウローに相談して冒険者ギルドを動かさなかったのか? どうせてめえらで何とかできると思ったんだろ? その結果がこれだよ!」
「うっ……」
「残り少ない貴重な血清を使うんだ。もう黙れよ」
グレンが手をパチンと鳴らした。ケイトとのスカートから草が一本伸びて行き彼女の口を塞いでしまったのだった。




