第484話 絶対は絶対
バーガンは自分を大きく見せるように、両ヒレを横に広げて体を起こし浮かび上がる。
「ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
悲鳴のような声をあげるバーガンだった。彼の両ヒレが勢いよく前に突き出される。ヒレについていた氷は先端が尖った細い氷の刃になり飛んでくる。無数の氷の刃がグレンに向かって飛んで来た。
「おっと!」
グレンは氷の刃に向かって行く。右、左、上、下、とグレンは不規則に縫うように飛び氷の刃をかわしていく。彼の耳に遠くや近くで氷の刃が切り裂く空気の音が何度も聞こえる。
「ピギイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!」
声をあげたバーガンはさらに氷に刃を増やしていく。白い氷の壁のようになって向かって来る氷の刃を見てグレンは急降下した。
頭を下に向け床にぶつかるほど近づいたグレンは直後に体を床と水平にして飛ぶ。床すれすれを飛びながらグレンは突き進む。甲高い音が何度も響く。グレンの上から氷の刃が飛んで来て当たらずに床に突きささっていく。グレンは方向を変えバーガンの右側へと迂回し背中へと回り込んで着地する。着地したグレンの右足がわずかに滑るように動いた。
「ふぅ」
着地したグレンが小さく息を吐き視線を下に向けた。氷の刃がかすった右足首からつま先が氷に覆われていた。
「やるじゃねえか!」
笑顔でグレンは氷に覆われた右足を振り上げ地面に叩きつけた。音がして氷にヒビが入ってすぐにバラバラと崩れていった。床に溶けた氷の水がしみ出していく。バーガンの巨体がゆっくりと背後へと振り向くのが見えた。
「せいぜい喜んでおけよ。今のがお前から受ける最後の攻撃だ……」
グレンは右肩に大剣をかつぎ、左手を上を向け飛び上がった。彼の左手が黄色く激しく光り、バーガンの顔と同じくらいの高さで止まり浮かぶ。
「ルーナ…… 麗しく気高き月のプリンセスであり精霊よ。闇夜を照らすその優しく光でわが身を包み守れ! リトルムーン!」
天井へ向けたグレンの左手から小さな月が飛び出した。月は神々しく輝きながらグレンの頭上へとゆっくりと移動する。小さな月の光がグレンを包み込む。
「ピギーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
振り返り月を見たバーガンは興奮したような声をあげ、右のヒレをグレンに向けた。ヒレからいくつもの氷の刃が飛んで来た。向かって来るキラキラと輝く氷の刃を見つめグレンは口元を緩めた。小さな月の光が優しくグレンを包み込む。
「ふっ……」
目の前で月の光に照らされた氷の刃が折れて床へと落下していく。落下する途中で溶けた氷の刃は水になり床を濡らす。
「ぐへ!?」
驚いた顔をするバーガンにグレンは笑顔で答える。
「この月は俺を大切に守ってくれる。うちの姉ちゃんみたいなもんだな」
優しい光に包まれてバーガンに向け得意げな顔をするグレンだった。
「ピギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」
両手を広げて天井を見てバーガンが声をあげた。両手を交互に羽ばたかせるように前に出す。バーガンの前に次々に氷の刃が現れる。
グレンの視界には隙間なく正面をを埋め尽くす氷の刃が見える。さらに透明な氷の背後にバーガンの背後に青い光がいくつも現れるのが見える。
「ピギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」
バーガンがヒレを羽ばたかせた。グレンに向かって一斉に氷の刃が飛んで行く。さらにバーガンの背後からいくつもの光線がグレンへと向かって飛んで行く。
グレンは向かって来る氷の刃を睨みつけた。
「だから…… 無駄なんだよ!」
左手を前に突き出したグレンは氷の刃をなぞるように水平に動かした。彼の頭上に輝く小さな月が激しく強く光りだし直後にいくつもの光線が発射された。
小さく十五センチくらいの光線がいくつも発射された。同時に何かが割れるような音が水槽内に幾重にもこだまする。光線は向かって来る氷の刃へと命中する。氷の刃は光線によって、いとも簡単にへし折られた溶けていき水蒸気に変わっていく。
月の光が強くなり発射される光線がいくえにも白い水蒸気を作り出していった。氷の刃はグレンの手前三メートルから先に進めず次々と白い水蒸気となって消えていく。
「こいつも同じだよ」
白い水蒸気を切り裂いて漏れた青い光がグレンの頬を照らす。グレンはにやりと向かってくる青い光線を見つめていた。月から発射される黄色い光線は次々と青い光線に命中した。黄色い光線と青い光線がぶつかると同時に消えていく。青い光線も氷の刃と同じように破壊されると、同時に白い水蒸気となって天井へと上っていった。
水蒸気によって白く曇っていた視界が消えてバーガンの姿が見えて来る。グレンは静かに彼を見つめ口を開く。
「どうだ…… 月の女神の首飾りの威力は? こいつを突破するのは難しいぞ」
「ぎっぎいいいいいい!!!」
悔しそうに顔をしかめ歯ぎしりをする音がグレンに届く。月が出した光線は”月の女神の首飾り”という防御魔法であり月に照らされた使用者に近づく敵を自動で迎撃する魔法である。
グレンは悔しそうにしているバーガンを見つめ満足そうにうなずいた。
「さぁ…… そろそろ終わりの時間だな」
大剣を構えたグレンはバーガンとの距離を一気に詰めていく。
「ピギイイイイイイイイイイイイイイいいイイイイイイイイ!!!!!!!」
声をあげバーガンは氷の剣となったヒレで向かって来るグレンを斬りつけてくる。グレンは反応することなく大剣を構えたまま前進する。グレンに氷の刃が届きそうになると彼の頭上に輝く月から光線が再度発射された。
「ピギイイイイイイイイイイイイ!!」
発射された光線が右のヒレに命中し氷を砕きヒレを弾く。すぐに体勢を戻したバーガンは左手を前に向けてグレンに突き出す。バーガンの動きにすぐに反応しグレンの月はまたすぐに輝き光線を発射した。
光線は左ヒレに命中し氷を砕いた。二度も攻撃を弾かれた、バーガンは両ヒレを広げた姿勢で体をのけぞらせる。
「はああああああああああああああ!!!!」
大剣を構えたグレンがバーガンの胸の前へ飛んで行く。バーガンの胸の前まで飛んで来たグレンはは剣先を彼の心臓に向け大剣を突き出した。
「ピキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!!!」
水槽にバーガンの悲鳴が轟く。硬い感触がグレンの両腕に伝わって来る。グレンの突き出した大剣はバーガンの心臓に突き刺さった。グレンは両手を押し込み大剣から手を離した。
バーガンの体がゆっくりと後ろに倒れていく。また大きな音がして土煙が上がる。両手に前に突き出した反動で後ろに飛んだグレンは姿勢を整え地面に着地した。
グレンの十メートルほど前にバーガンが仰向けに倒れている。着地したグレンは満足そうに笑い小さくうなずいた。
「残念だったな。俺はグレン…… いや!」
自分の右手の親指で指したグレンは首を横に振った。笑ったグレンはゆっくりと歩き出した。バーガンの体の前までくると飛び上がって彼の体の上に乗った。
視線を横に動かし大剣を探して見つけたグレンは歩いて近づく。大剣の前に来たグレンは両手でつかむと一気に引き抜いた。引き抜かれた大剣の刀身には赤紫色の血が付着していた。
グレンは刀身を眺めてから軽く刀身を振って血を拭った。
「俺はノウレッジ大陸の銀色野郎絶対殺すマンだからな…… はは」
右肩に大剣を乗せ小さな声で笑ってつぶやくグレンだった。




