第482話 希望を燃やして
ケイトはダグオンにメイスを向け自分の方に先端を向けるように動かした。
「ダグオンさん…… あなたこっちに来てくれます?」
「えっ!?」
こちらに来いというケイトに驚くダグオンにだった。困惑するダグオンにクレアが優しくほほ笑み手招きをする。
「えっ…… そうか!」
クレアは耳元で何かささやいた。ダグオンは驚いて視線をケイトに向けた。すぐに動かないダグオンにケイトは不機嫌になりララにメイスを突きつけて叫ぶ。
「何をしているの! 早くしないとララちゃんの顔が潰れちゃうわよ」
「わっわかりました。すぐに行きます!」
返事をしたダグオンはケイトの元へ向かう。彼を見たララがメイスに顔を押されながら口を開く。
「ダメよ! こいつの言うこと」
「黙りなさい!」
「ぎいい!!」
口にメイスを押し込まれたララが変な声をあげた。
「ララちゃん! ダメですよ。静かにしなさい!」
クレアはララに静かにするように注意した。クロースは視線をクレアに向けて問いかける。
「良いんですの?」
「はい。大丈夫です……」
小さくうなずき視線をダグオンに向けるクレアだった。
ケイトは自分の二メートルくらいまで近づいて来た、ダグオンに足元に転がった鞄を蹴った。蹴られた鞄はダグオンの足元に転がった。ダグオンは鞄が転がってきて思わず立ち止まる。
「その鞄を燃やしなさい!」
「なっ!?」
ダグオンの足元に転がった鞄をメイスで指してケイトは叫ぶ。驚いたララが声をあげダグオンを止める。
「やめなさい! ダグオン! そんなことしたら…… ギャッ!」
「あんた! いい加減に黙りなさい」
「やめてください! 燃やしますから!」
ケイトはまたララをメイスで軽く叩き、ダグオンが慌ててケイトを止める。ダグオンはポケットから小さな宝箱を出して箱を開けた。左手で宝箱を持ったダグオンは右手のひらの上で逆さに向ける。箱の中から直径一センチ炎魔石が出て来た彼の右手の上に転がる。
ダグオンの手のひらに転がる魔石を見て満足そうに笑顔でケイトはうなずく。鞄の前にしゃがんだダグオンは魔石を鞄の上に置く。ダグオンは魔石を見ながら真面目な顔をした。
「えっと…… 後はリトルファイ…… そういえば…… ララさん! 植物を操作する魔法ってなんでしったけ?」
「なっなによ。そんなのグローリーリーフでしょ。基本中の基本よ!」
あきれながらダグオンの質問に答えるララだった。話が逸れてケイトは怪訝な顔をしメイスをララの顔に突きつけようとした。直後……
「えっ!? なっなに!? 服が!?」
ケイトのスカートの一部が緑に光り、あっという間に彼女の足にいくつもの植物の茎が巻き付いていく。
「今です! その草を操作してください!」
「あっ! そうか! えっと……」
ララが右手の指を上下左右に動かした。一つの茎がケイトの足にさらつ強く巻き付き、他の茎は彼女の手をつかんでララの拘束を外す。グローリーリーフは自信の魔力を植物に注ぎ込み操作する魔法だ。
「なっなによ! これ!? 離せ」
草はケイトの両手首に絡みつき強引に腕を広げさせる。彼女の両足には草が幾重にも巻き付いている。ララの拘束は取れ身動きが取れるようになった、彼女は前に出て振り返りニヤリと笑った。
「その草はグレンがあんたの服を直した時に使った糸よ!」
「あっ!!」
振り向いたララはケイトに絡みつく草を指して得意げな顔をする。ケイトはハッとした。今朝、ケイトは破れた服をグレンの魔法により糸に変化させた草で修復してもらった。
「さぁ。大人しく捕まりなさい!」
「クソ!」
悔しそうに顔をしかめるケイトにふとダグオンの足元に転がる炎の魔石が見えた。ケイトは魔石を睨みつけるように強く見つめ大声で叫ぶ。
「リッリトル! ファイア!」
「黙りなさい!」
「キャアアアアアアアアアアアアア!!!」
ララが右手を前に出して握るような仕草をすると、ケイトを拘束している草がきつく締まっていく。ケイトは締め上げられ悲鳴をあげた。ララは満足そうにうなずいた。
「わっわ!」
「へっ!? ダグオン!」
振り向いたララに煙を上げる鞄と慌てるダグオンが見えた。ダグオンは意を決した表情をすると鞄の上に覆いかぶさった。彼は火を自らの体で消そうというのだ。
「ダグオンさん!!! 何してますの!!!」
駆けつけて来たクロースがダグオンを鞄から引っぺがす。すぐに彼女はハルバードで鞄を叩いて火を消した。苦痛に顔を歪め焦げた鞄を見たケイトが鼻息を荒くしララに口を開く。
「ふん! どう? 無能なヴァンパイアハンターさん」
「なっ!? あんた…… えっ!?」
ララの頬をふわりとした風が触れて、鼻先にかすかな甘い香りが漂う。一瞬で何かが彼女の横を通り過ぎていった。直後にケイトから声が上がる。
「あっ!!! あががががが!!!! クックレア!!!」
膝を曲げ沈み込んだ姿勢で大剣を突き出したクレアがケイトの前に立っている。大剣はケイトの肩につきささり彼女は苦痛に顔を歪ませてクレアを強く睨みつけている。
クレアはケイトを目を合うと睨み返して口を開く。
「私の妹になんて口を利いているんですか…… 無能なのはあなたですよ!」
「あっああああ……」
大剣をゆっくりと引くクレアだった。肩に激痛が走り大剣の刀身と、貫かれた骨がきしみ合う音がケイトの脳内を駆け巡り痛みを増長させていく。
「ふん!!!」
「ぶはああああああああああああああああああああ!!!!!」
肩から大剣を引き抜いたクレアはケイトを睨みつけ大剣を横に勢いよく振り抜く。ケイトは大剣の表面で殴らりつけられ顔を大きく横に振られた。
気を失ったケイトはうつむいて鼻から血を流して気絶してしまった。動かなくなったケイトを見てクレアは静かに振り向く。
「こういう時は相手がしゃべれなくするか苦痛を与えないと……」
「うっうん……」
大剣を拭いながらララに説教をするクレアだった。クレアの手際の良さと迷いのなさに恐怖で顔を青ざめさせながら、ララはうなずいて返事をするのだった。
「さっ行きましょう。ダグオンさんの治療をしないと……」
「そうだ!」
ララは振り向いてダグオンの元へ駆けていく。クレアは振り向いて気絶したケイトを見て寂し気に顔を横に振るのだった。
クロースは出したポーションを座っているダグオンにかけながら治療していた。ダグオンの元にララがやって来て彼の顔を覗き込む。
「大丈夫?」
「はっはい。僕はちょっと火傷したくらいです……」
ダグオンはララに顔を覗き込まれて恥ずかしそうに頬をピンクに染めながら答える。
「でも鞄が……」
近くに落ちていた鞄を指すダグオン、クレアの鞄の半分ほどが燃え焦げて真っ黒になっていた。ララに続いてやってきたクレアがダグオンに答える。
「鞄は大丈夫です。予備がありますから…… でも血清が鞄の中にしか…… あれだともう取り出せないでしょう」
「私のは先ほどの冒険者に使ってしまいましたわ」
「僕のもです……」
「えっ!? じゃあ血清はもうないの? ちょっと! どうするのよ? ラピとキティルの分は?」
クレアが難しい顔で血清は全て使ってしまってもうないという。ダグオンとクロースも同じで血清はもう使い切っていた。キティルとラピを治療する分がないことにララが慌てた様子で声をあげた。
「ったく…… 使えないお姉ちゃんね」
「ごっごめんなさい……」
「ララ! なんてこというんですの!」
「だって……」
腕を組んでクレアに詰め寄るララをたしなめるクロースだった。クロースはクレアに尋ねる。
「近くにある血清は?」
「えっと…… 町に常備してもらってますから…… 天井監視所に在庫があればいいですが……」
吸血症の血清は大陸全土の教会と冒険者ギルドに配られている。血清を手に入れるには二人を連れていくか天井監視所から持ってくるしかない。
「グレン君! 急いで……」
クレアは視線をグレンがバーガンと対峙する水槽の中央に向けるのだった。




