第481話 口の中からこんにちは
ゆっくりと開かれていくブルーモースの口。グレン達の視線はブルーモースの口へと向けられていた。
「あぎぎぎぎぎ!!!」
口の隙間が大きくなり両手を上に向け必死の形相で、ブルーモースの顎を持ち上げるバーガンが姿を現す。バーガン目は赤く光り口元から牙がちらりとのぞき、右胸には大きな穴が開き服には血がにじんでいる。
「吸血症…… クソ! みんな来るぞ!」
グレンが声を上げ右手を剣に手をかけた。彼は近くにいるダグオンの前にでてかばう。バーガンは前に出て彼は走りながら腰に付けた矢筒へと手を伸ばし、彼は両手に矢を持って周囲に適当に投げながら走る。
矢が地面へと落ちると周囲に煙が沸き上がっていく。
「しまった! 煙幕だ!!」
煙がグレン達の周囲に立ち込めていく。クレアは大剣を持って構え左右に視線を向けていた。正面の煙の中にきらりと金属が光がクレアの視界に入る。
「はッ!」
金属の光が見えた直後に煙の中からバーガンが現れクレアに剣を振り下した。クレアは難なく彼の剣を受け止めた。バーガンは剣を止められてもニヤリと笑い左手を矢筒から矢を抜いて振りかぶった。
クレアは彼の動きに反応して剣を押し彼を強引にはなす。クレアに押され離れながら左手で矢をバーガンが握りつぶした。バーガンの指の隙間から黒い煙が染み出していく。
「はっ!?」
バーガンの矢から出た黒い煙がクレアの周囲に立ち込めて行く。同時にバーガンはさらに後ろに下がり煙の中へと姿を消した。
「どこへ……」
大剣を構え視線を横に動かすクレアだった。彼女は黒くなった煙の中へと身を潜めたバーガンの気配を探る。そこへ……
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「キティルさん!!? もう!」
煙の向こうからキティルの悲鳴が聞こえた。音をたよりに進んだクレアの前に鉄格子が現れ彼女の行く手を阻む。
「キティルさん! こうなったら」
鉄格子の向こうで縛られたキティルの首筋に噛みつくバーガンが見えた。クレアは大剣を構え鉄格子を破壊しようとした。
「やめるべ!!」
「ダメよ! ラピちゃん」
縛られたラピがキティルに噛みつくバーガンの足に体当たりをした。バーガンは振り向きラピの体に両手を伸ばし持ち上げた。
「ウガアアアアアアアアアアア!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!! ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
持ち上げたラピの背中にバーガンが噛みついた。ラピは悲鳴をあげた。バーガンが口を一度はなしてからまたラピに噛みつく。
「はっ!」
クレアは大剣で鉄格子を斬りつけて破壊すると中へ押し入る。大剣を構えバーガンへと迫るクレアだった。
「ラピちゃんを離しなさい! えっ!?」
バーガンがニヤリと笑い彼は素早く矢筒から、赤い筒がついた矢を取り出しクレアに向かって突き出して握り潰した。大剣を構えたクレアの前で矢が爆発した。クレアはとっさに両腕を交差させて爆発を防ぐ。
牢は爆発で吹き飛んだ。同時に周囲に立ち込めていた煙も爆風により吹き飛ばされた。牢があった場所には倒れたキティルとラピがいて、その前に腕を顔の前でクロスさせて立つクレアが立っている。彼女の前には真っ黒に焦げで左腕を突き出したバーガンが居る。
牢から少し離れた場所にいるグレンはクレアに声をかける。
「クレア義姉ちゃん!! 大丈夫か?」
「私は平気です」
顔の前で交差させていた両手を下しクレアは振り向いてグレンに答えるクレアだった。
そよ風が吹く彼女の前で真っ黒に焦げたバーガンの体はボロボロと崩れていき、灰となりバラバラと崩れて飛んで行ってしまった。
「ラピちゃん! キティルちゃん」
クレアは倒れたラピとキティルに駆け寄り二人の横に立った。バーガンに噛みつかれた二人の首には噛み傷がはっきりと残り血が流れていた。
「うぅ……」
「クっ……」
ラピとキティルがうめき声をあげ、クレアは大剣を握ったまま静かに周囲を見つめている。
「吸血症の特徴を生かした自爆攻撃…… いや私達から距離をとったんですね……」
視線を左右にうぼかしながら厳しい表情でつぶやくクレアだった。風に吹かれてばらばらになったバーガンの灰が渦を巻きながら鉄格子から、二十メートルほど離れた場所に集まりだしてちあ。
グレン達も彼女たちの元へと駆けつけてきた。
「早く治療をしませんと…… クレア! お願いします」
「うん。でもまだバーガンが……」
ラピの元にしゃがんでクロースがクレアに血清を要求するクロースだった。クレアはうなずいたがバーガンを警戒し目を鋭くしていた。彼女の肩にグレンが手を乗せた。振り向いたクレアにグレンが答える。
「バーガンは俺が仕留めてくる。クレア義姉ちゃんは二人の治療を頼む」
「グレン君…… でっでも……」
大剣を持つ手を力強く握り声を震わせるクレアだった。クレアは自分のせいで二人を怪我させてしまったと後悔し、自らの手でバーガンと決着をつけるつもりだ。
義弟は義姉の気持ちを理解しているが、頭に血が上った彼女に落ち着くように優しくほほ笑む。
「大丈夫。俺に任せてくれ。それに俺はもう血清を切らしているんだ頼むよ。お姉ちゃん」
「はい。そうですね。お願いします」
クレアは笑顔でうなずくと振り向き、肩掛けの鞄を外しラピとキティルの横にしゃがんだ。
「さて…… じゃあ俺は行きますか」
振り向いてクレアの背中を見たグレンは前に出てバーガンとの距離を詰めていく。彼の視線の先には竜巻のように渦巻いた風に乗って集まっているバーガンの灰が見える。
「ふぅ…… 粉々になっても心臓を破壊しなきゃ復活するってのも面倒だな」
うっすらと赤く光った灰が渦巻きながら徐々に固まり、徐々にバーガンへと戻っていく。グレンは面倒そうにつぶやいて左手首からフェアリーアンバーを外し、ムーンライトを月樹大剣に変形させる。
鞄に手を入れて血清を探すクレア、彼女の横にはクロースが座りダグオンはクロースの横に立っている。ララとキティルを挟んで反対側で一人で心配そうにララが見つめている。
「クロースさん…… 二人はオフィーリア様から祝福の水を受けていたんですよね? なぜ…… 吸血症に……」
「あれを……」
「噛み傷が二カ所…… そうか二回噛みついたのか…… つまりバーガンは祝福の水の効果を知っていた」
難しい顔でつぶやくダグオンだった。彼の向かいではイライラした様子のララが居た。
「クレア! 早く二人を助けてなさい…… キャッ!!!!!」
焦ったララがラピとキティルの心配そうに見つめクレアに叫んだ。直後に彼女は何者かに背後から羽交い絞めにされ悲鳴をあげた。
「えっ!?」
「ケイト…… あなた…… なにを!?」
「そうですか」
悲鳴が聞こえ視線をダグオン、クロース、クレアがララに視線を向けた。ララをケイトが羽交い絞めにしてメイスを彼女に突きつけている姿が三人の目に映る。
ケイトはメイスでクレアの鞄を指して叫ぶ。
「その鞄を渡しなさい!」
「ダメよ! ギャッ!」
「黙りなさい! そのかわいい顔を叩き潰すわよ!」
「やめてください。渡します!」
メイスでララの頬を軽く叩くケイトだった。二人を見ていたクレアはケイトを止めた。ケイトの要求を飲んだクレアは鞄を彼女の足元に放り投げた。
「素直で良かったわ」
足元に落ちて来た鞄を見て満足そうにうなずくケイトだった。クロースは悔しそうに顔をしかめ笑顔のケイトを睨んでいた。
「あなた…… 裏切り……」
「いいえ。元からバーガンの仲間だったんですよね?」
隣にいるクレアが悔しがるクロースに首を横に振り、視線をケイトに向けて問いかけた。彼女の言葉にケイトは驚いた顔をする。
「気づいていたの?」
「確信があったわけじゃありません。ただあなたの行動が少しだけ怪しかっただけです」
「そう…… 残念ね。その勘に従うべきだったわ」
にやりと笑ったケイトは視線をダグオンに向けるのだった。




